提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
(左から)釼持広知先生、森瀬昌宏先生、滝口裕一先生、吉岡弘鎮先生
今や上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に欠かせない薬剤となったチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)。その第二世代の「アファチニブ(製品名:ジオトリフ)」と第一世代の「ゲフィチニブ」を直接比較したランダム化非盲検第IIb相試験「LUX-Lung7(LL7)」の結果は、肺がん治療に携わる医療従事者の注目を集めた。同試験の主要評価項目は治療成功期間(TTF)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)。うちTTF、PFSは2016年3月に国際医学誌「The Lancet Oncology」に掲載。そして最も注目されたOSのデータも2月8日、「Annals of oncology」に掲載された。
QLifePro特集「LUX-Lung7を読み解く」ではこれまで4回に渡り、LL7の結果からNSCLC治療の在り方について、肺がん治療に携わる多種多様な立場の医師・専門家から意見を伺ってきた。今回、その総決算として座談会を開催。千葉大学医学部附属病院 腫瘍内科教授の滝口裕一先生を座長に迎え、釼持広知先生(静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長)、森瀬昌宏先生(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科 病院助教)吉岡弘鎮先生(倉敷中央病院 呼吸器内科 部長)に治療シークエンスの考え方、目標の設定、患者への情報提供の重要性など、EGFR-TKIを用いたNSCLC治療の在り方について語りあっていただいた。
特別座談会 目次
EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの一次治療、最重要視するのは「効果」
千葉大学医学部附属病院 腫瘍内科教授 滝口裕一先生
【滝口】日本人でのEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(以下、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC)の治療成績では、2009年に米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されたEGFR-TKIのゲフィチニブとプラチナダブレットとの比較試験NEJ002でゲフィチニブのOS中央値が約30.5か月1)、さらに第二世代のEGFR-TKIのアファチニブと白金製剤ベースの化学療法を比較したLUX-Lung3(LL3)の日本人サブ解析でOS中央値が約47か月となり2)、非常に目覚ましい進歩を遂げています。
日本肺癌学会肺がん医療向上委員会が実施した、抗がん剤治療を受けたことのある肺がん患者さん107名を対象としたインターネット調査(調査期間2015年6月~11月)によると、抗がん剤治療への期待の第1位はOSで、第2位がPFSでした。抗がん剤治療における効果と副作用のバランスに関しての回答は、副作用を軽くする支持療法がしっかり受けられるなら一番効果の高い治療を受けたいという人が60%、次いで一番効果の高い治療なら多少つらい副作用があっても治療を受けたいという人が20%という報告があります3)。
この調査からも患者さんが重視しているのはOSであり、治療に関しては効果に期待していることが伺われます。現在EGFR遺伝子変異陽性NSCLC治療では、EGFR-TKIが3剤ありますが、患者さんの期待に対して先生方はどのようにお考えですか?
【森瀬】やはりOS延長をいかに得るかが非常に重要だと思います。第一、第二世代のEGFR-TKIリチャレンジは考えられるとは思いますが、3種類あるから3種類使わなければいけないということはありません。EGFR-TKI以外の薬剤を含めた治療のシークエンスが重要と思います。
【釼持】PFSは臨床試験の薬剤評価では意味があるとは思いますが、患者さんにとっては基本的にOSの延長効果が治療目的の全てだと考えています。私個人は、臨床現場でPFS延長効果よりもOS延長効果が非常に重要だと思います。同時に安全性、安全にQOLを維持しながら長く使える薬剤も求められます。先ほどの3剤すべてに関しては、同一患者さんでEGFR-TKIを2~3剤使用した経験はありますが、1剤目での副作用による中断や早期の病勢進行により、結果としてやむなく2〜3剤となったケースです。基本は1剤を効果的に使用するという考えです。
【吉岡】EGFR-TKIは3剤ありますが、個々の患者さんにあわせてうまく使い分けを行い、治療の経過によってはリチャレンジも行いますが、3剤をすべて使い切る必要性はないと考えます。有効性に関してはOSの重要性はもちろんですが、患者さんの治療変更によるストレスや再生検実施を回避でき、安定した生活を維持できる期間として、PFS延長効果があることは望ましいと考えています。
治療目標「OS中央値30か月」がひとつの目安に
【滝口】OSの重要性を踏まえたうえで、PFS延長効果とOS延長効果が相反することはほとんどないことから、一次治療でPFSやTTFの延長効果があることに意味があると思います。そうすることで患者さんが最初の治療期のQOLを維持し、より安定的に過ごすことができると考えるからです。ちなみにQOLは臨床試験で調査することもありますが、一般的には漠然としています。日常臨床で先生方はどのように考えてらっしゃいますか。私自身は肺がんの場合、OS、PFSの延長とQOLの維持・向上はかなりパラレルだと思いますが。
【吉岡】患者さんが治療開始前の生活を維持できていれば、QOLを維持したと考えています。化学療法では副作用の発現は避けられないので、導入期のQOL低下はやむを得ません。その場合は、副作用から回復して日常生活に支障がなくなれば、QOLが維持できたと解釈しています。
【森瀬】お仕事をされている方では、治療が予定通りに施行できるか否かが大きなカギを握ります。EGFR-TKIで安定期に入れば、通院も4週間に1回程度で済みますよね。しかし、副作用マネジメントで臨時受診が必要になると、お仕事をされている患者さんは休暇を取得する必要があり、広い意味でのQOLを下げることになると思います。そうした臨時受診の必要がない薬剤はQOLに貢献する薬剤と考えます。
静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長 釼持広知先生
【釼持】QOLの観点では、高齢の患者さんは副作用や体調悪化を医師に伝えると、薬を中止されると危惧していることがあり、家族が受診に同行されている場合は、なるべくご家族からも生活状況を確認するよう心がけています。実際、「元気です」と言った患者さんのご家族が「最近外出が減った」と教えてくれたこともあります。
【滝口】一次治療としてEGFR-TKIと標準的なプラチナ製剤併用療法を比較したランダム化第Ⅲ相試験について、システマティック・レビューを実施した研究によると4)、治療イメージでは一次治療が中央値12か月程度、OSの中央値が30か月というデータでしたが、やはりこの中央値を超える数字を目指したいという意向は医師、患者さんともにあると思いますが。
【釼持】30か月、約3年を目指すというのは同感です。ただ、そこまでに至らない患者さんもそれなりにいるという現実を十分自覚して治療に当たらなければならないとは思います。
【吉岡】若年で体力が比較的温存されているEGFR遺伝子変異陽性のNSCLC患者さんに関しては、LL3の日本人の解析でのOS中央値が約4年だったことや2)、オシメルチニブが登場したことも踏まえ、内心では中央値5年を目標としています。
【森瀬】特に70歳未満の若年者では具体的な目標を知りたいという患者さんもいらっしゃいますので、その場合、治療開始後5年間頑張っていらっしゃる方が約2割いるとお話しします。これは「途中で困難な状態になる患者さんもいる」という意味も含まれると解釈できると思います。個人的には70歳未満でEGFR遺伝子変異や、ALK融合遺伝子陽性の患者さんは30か月を目標にしています。
【滝口】状態が悪い患者さんでは一番重視するのが奏効率(RR)という考え方もありますが。
【釼持】確かに奏効した場合は、患者さんの満足度も高く、治療のモチベーション向上につながりますので、PFSよりもRRのほうが重視される場合もありますね。
LL7におけるPFS率
「2年間服用できる患者さんが2倍以上という解釈も」
【滝口】現状の日本肺癌学会のガイドラインでは、EGFR遺伝子変異陽性の患者さんには基本的にEGFR-TKIの3剤が推奨されています5)。このうちゲフィチニブとジオトリフを直接比較した300症例超のLL7試験の結果がすでに公表されています。結果はPFSでハザード比が0.73で、ジオトリフはゲフィチニブに比べて統計的に有意な延長効果が明らかになりました。24か月時点のPFS率ではジオトリフ群が17.6%に対し、ゲフィチニブ群は7.6%と(図1)6)、2年間服用できる患者さんが2倍以上いるという解釈も成り立ちます。
2017年2月にAnnals of Oncologyで発表されたLL7のOSの最新報告によると、中央値はジオトリフ群が27.9か月、ゲフィチニブ群が24.5か月と統計学的な有意差は認められていません(図2)7)。
治療中止に至った副作用については、ジオトリフ群で下痢・皮疹、ゲフィチニブ群では肝機能異常が多いという傾向が見て取れました。この結果を皆さんはどのようにお考えでしょうか。
【森瀬】現時点で第一、二世代のEGFR-TKI3剤でOSに有意差がありません。そこでこれらに次ぐTTFを患者さんが重視している場合に、LL7の結果がジオトリフを選択する理由のひとつにはなると思います。また、副作用プロファイルの違いが改めて明らかになったことも重要です。このような違いも患者さんにお伝えし、薬剤を選択していただくのが理想でしょう。
【吉岡】私はLL7の結果を非常に高く評価しています。まず、RRではジオトリフがゲフィチニブよりも有意に優れています。また、エクソン19欠失変異に比べ、エクソン21のL858R点突然変異では、かつてジオトリフはゲフィチニブに比べ有効性が低いとも言われてきましたが、LL7では有意差こそないもののエクソン19、エクソン21ともにハザード比はジオトリフに有利な結果でした。現時点のOSに有意差はありませんが、データ成熟した時点の最終結果については注目しています。いずれにせよ私は患者さんが「長期生存の期待できる薬剤を選びたい」とおっしゃった場合はジオトリフをお勧めしますし、EGFR遺伝子変異陽性で診察時にジオトリフに対して忍容性があると判断した患者さんにはジオトリフを推奨するスタンスです。
【釼持】ジオトリフがゲフィチニブに比べてPFSが良好である点から、EGFR-TKIの中でも効果が高いということは明らかだと思います。
ただ、解釈に悩む部分もあります。過去に岡山大学血液・腫瘍・呼吸器内科のグループが、体表面積が1.5㎡以上の患者さんでは、1.5㎡未満の患者さんと比較してゲフィチニブのPFSが有意に低いという結果を報告しています8)。これを踏まえてLL7の結果を見ると、被験者の約半数が比較的体格の大きい欧米人で、その結果としてゲフィチニブのPFSが短縮したのではないかとの解釈も成り立ちます。もっとも論文で示されたフォレストプロットでは、人種間格差はあまりありません。これらをどう総合的に解釈すればいいのかは悩みどころです。
その一方で、日常診療に即して考えた場合には、用量減量と副作用マネジメントのバランスが重要です。実際LL7では、ジオトリフ投与群では最終的に減量に至った患者さんが少なくありません。既存の白金製剤の化学療法と違い、ジオトリフをはじめとするEGFR-TKIでは服薬期間は1年超になります。それだけPFSのベネフィットが得られる反面、多くの患者さんで副作用による減量の可能性を念頭に置き、とりわけ高齢の患者さんでは投与量がやや多いのではと思いながら標準用量の1日40mgで開始する点にはややジレンマを感じています。下痢を中心とする初期の消化器症状でつらいと訴える患者さんがいる場合もありますので、患者さんには「下痢がひどかったらお電話を下さい」と伝えているのですが、我慢して服薬している方は少なくありません。日常診療で適切な用量調節を可能にするエビデンスの登場に個人的には期待しています。
「安易に減量しない」という考えを切り替えることが必要
【滝口】ジオトリフを適切に使用するということは、取りも直さず適切な休薬・減量と同義だと思います。休薬・減量が必要になる目安のひとつは体重でしょうが、比較的低体重でも40mg投与が可能な患者さんもいらっしゃるので、ほかにも因子はあると思います。我々、腫瘍内科医は最近まで化学療法による薬物治療で安易に減量しないという教育を受けてきたので、この薬剤ではその思想を切り替える必要があります。
ちなみに私たちの施設では、ジオトリフを含めてEGFR-TKIの処方開始から1か月間は毎週外来診察しています。投与開始時に私から副作用について説明したうえで、さらに外来担当看護師が時間をかけて副作用の説明を行います。ジオトリフ処方時は同時にロペラミド、タンニン酸アルブミンといった止瀉薬も処方し、看護師がどのような時に止瀉薬を服用するか、どのような時はこちらに電話連絡をすべきかなどもお伝えしています。この1週間ごとの診察では血液・尿検査とX線撮影を実施し、受診時に下痢でトイレから出ることができない状態や腹痛が強いなどという訴えがあれば減量します。あとは患者さんに「この用量は続けるのは難しそう?」と尋ね、無理だという答えであれば減量しますね。
【森瀬】私達のところは導入時2週間入院で、最初に病棟担当看護師が副作用管理などの患者教育を行います。退院後は1週目と2週目に受診していただいています。
倉敷中央病院 呼吸器内科 部長 吉岡弘鎮先生
【吉岡】私のところもクリニカルパスで導入時1週間入院後、1か月目まで毎週外来診察です。やはり最初の難関は下痢の副作用で、1日10回などの高頻度だと、患者さんのイメージは悪くなりがちです。下痢の初発は概ね投与開始から10日目前後なので、導入時2週間入院はある意味では適切かもしれません。下痢に関して、私はグレード2で患者さんの忍容性が低いと感じたら休薬・減量に踏み切ります。患者さんには1日3回大量の下痢をした場合は一旦休薬するようにお伝えしています。
【釼持】私達の施設ではジオトリフ導入時は1週間入院で対応していますが、やはり退院から次の外来受診くらいまでに様々な副作用が起こりますね。なかには外来時に「3日前に10回下痢しました」とおっしゃる患者さんもいて、その時点で既にグレード3。文言通りでは休薬・減量です。ただ、患者さんが「今はロペラミドを服用して1日2~3回でうまく治まっています」と言われた時は継続し、再度同じ状況になったら減量しているケースが多いですね。
【滝口】少し前まではEGFR遺伝子変異陽性症例では、まずゲフィチニブを処方し、脳転移が認められたらエルロチニブに変更、それら以外がジオトリフという考え方もあったと思います。しかし、現在ではこれら3剤の耐性後に発生しやすいT790M遺伝子変異に対するオシメルチニブが登場し、その確認のための再生検を前提に治療を始めるようになりました。その意味で最初に効果持続が長い薬剤を選択することが非常に大切だと思います。そのコツは、副作用管理を十分に行うことで、ジオトリフの場合は、減量をためらわないという結論でしょうね。あとはエクソン21のL858R点突然変異でのジオトリフの効果については懐疑的な意見があり、LL3、6の統合解析時にも同様の見方はありましたが、LL7の結果ではそうした見方は否定されているようにも思います。
3つのEGFR-TKI、すべてを患者に提示すべきか否か
【滝口】話題が変わりますが、「インフォームド・コンセント時にEGFR陽性の患者さんにEGFR-TKIの3剤をどのように提示しているか」という調査があります。その結果ではエクソン19欠失変異を有する患者さんでは、75歳未満の場合、3剤全て同等に説明されている一方、75歳以上では、ジオトリフとエルロチニブはほとんど説明されず、ゲフィチニブが圧倒的です。また、エクソン21のL858R点突然変異では年齢に関わらず、基本的にゲフィチニブのみが患者さんに説明されているようです。私は本来、3剤とも説明すべきと考えますが。
名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科 病院助教
森瀬昌宏先生
【森瀬】Uncommon mutationでは、これまで報告されている成績は3剤とも後解析の結果です。ジオトリフではLL2、3、6試験の結果からエクソン18、21の一部の変異にも高い有効性が報告9)されているため、3剤の中ではジオトリフを積極的に提示します。また、75歳以上の高齢者では、日本肺癌学会のガイドラインでゲフィチニブあるいはエルロチニブを推奨しているので5)、かなり情報をお持ちでより有効性が高いものをと言われた場合には、ジオトリフもご提示しています。75歳未満の患者さんでCommon mutationの場合は原則3剤全てお話ししています。
【釼持】現在、初回治療として使用できるEGFR-TKIが3剤あることは、患者さん自身も調べればすぐわかることなので、基本的に3剤ともお話しします。ただ、75歳以上の高齢患者さんでは、当院の場合、75歳以上を対象にしたジオトリフの臨床試験を実施中のため、あくまで臨床試験ベースという前提でお話をしています。
また、森瀬先生がおっしゃったUncommon mutationに関しては、確かにジオトリフの成績が良好なので、やや強調はします。さらにLL7の結果の解釈は様々かと思いますが、エクソン19欠失変異の患者さんにはジオトリフの生存延長効果が高いということはお伝えしています。もっとも、副作用も強い可能性があることも必ずご説明します。
【滝口】吉岡先生も3剤を提示されるかと思いますが、そのうえで、「先生どれがいいですか」と患者さんに問われたら、どうなさいますか?
【吉岡】75歳未満でPSも良好な場合、治療効果を望むのであれば、ジオトリフをお勧めします。75歳以上では、エビデンスがまだ十分でないことに加え、以前は開始用量40mgにこだわっていたためにジオトリフを提示することはなかったのですが、最近は減量しても効果が減弱しないというデータが出つつあるので、75歳以上でも1日30mgからジオトリフを開始する場合もあります。
OS、PFS、副作用…
何を優先するべきか「方向づけしていくのが望ましい」
【滝口】一方で、こうしたインフォームド・コンセントでは、従来から医師と患者さんのギャップも指摘されています。日本では十分対話できていると認識している割合が医師よりも患者さんで低いことが多いですね。アメリカでは、NSCLC患者さんに対する早期緩和ケアに関するある研究で、医師側は早期緩和ケアの導入の有無で患者さんの抑うつやQOLの改善に有意差は認められなかったと評価したものの、患者満足度では緩和ケア導入群が有意に高いという結果が出ていました10)。この辺は医療制度の相違も反映されているかもしれませんが。
【釼持】患者さん個々人でかなり違いがあることですが、限られた時間の中で薬剤の特徴・効果・副作用まで全部お話しし、そこから選択を委ねるのは患者さんにとってストレスが大きいのではないでしょうか。特に初回の化学療法では、告知から治療開始までの期間が短いので、私はいわゆるインフォームド・チョイスの重要性は十分理解していても、患者さんに単純に委ねることは困難も多いと考えます。医師として各患者さんのニーズ、状況をより正確に確認したうえで、お話しする情報の取捨選択をする必要性を痛感します。
【森瀬】私も釼持先生と同意見です。選択肢を提示する重要性を踏まえたうえで、医師が患者さんにどの薬剤をお勧めしたいと考えるかというベースがなければ、良好なインフォームド・コンセントは困難ではないでしょうか。医師からの推奨に患者さんからご質問などがあれば、ご相談に対応するという形が必要ではないかと思います。
【滝口】吉岡先生、初めに議論になったOS、QOL、あるいは副作用の強度のいずれを重視するのかを日常診療で患者さんとお話しすることはありますか。
【吉岡】私は初診からの流れの中で患者さんが延命を望むのか、逆に積極的治療を望まないかをなるべく感じ取るように心がけています。さらにご家族のご意向なども踏まえ、どこまでの治療選択肢を提示するかを考えます。例えば既に退職された方と仕事をしてまだ家族を養っていかなければならない方では、治療スタンスは大きく異なります。もっともこれまでの経験上、多くの患者さんが何らかの積極的治療を望まれていますね。
【滝口】「少し辛くても頑張ります」とか「できるだけ楽であまり副作用が強くないほうがいい」と明確におっしゃる方なら、話の的を絞りやすいのですが、実際には進行がんになることを普段考えたことがない患者さんがほとんどです。そこで生存期間、がんの縮小、副作用という、いずれも重要なことのどれを優先するかと医師から問われても即答はできませんよね。そこを「あなたの年齢、体力上は少し不利な状況にあるから…」、「自信がないとおっしゃっていますが、体力には十分あると思いますよ」と方向づけをしていくのが望ましいとは思いますね。
本日は、皆さん活発なご意見をいただきありがとうございました。
2) Kato T, et al. Cancer Sci 2015, 106: 1202-1211.※
3) 日本肺癌学会肺がん医療向上委員会(実施 NPO法人キャンサーネットジャパン)肺がん治療(抗がん剤治療)に関するアンケート
4) Yang J. C, et al. Lancet Oncol[Epub ahead of print].
5) 日本肺癌学会ガイドライン検討委員会:EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2016年版、日本肺癌学会
6) Keunchil Park, et al. Lancet Oncol. 2016;17:577-89. ※
7) L.Paz-Ares, et al. Annals of oncology. 2017 Feb. ※
8) Ichihara E, et al. Lung Cancer 2013,81: 435-439.
9) James C-H Yang, et al.Lancet Oncol 2015 June[Published Online] ※
10) Temel JS, et al. N Engl J Med. 2010 Aug 19;363(8):733-42.
※本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された
提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社