目は、粘膜が直接花粉に触れるため、花粉の影響を受けやすい。スギ・ヒノキに代表される春の花粉症では、空気が乾燥する時期と重なり目の粘膜が敏感になることも重症化しやすい理由のひとつとして挙げられる。今回は、花粉症対策用の眼鏡等、目における花粉症対策について解説する。
環境によって変わる花粉分布、幹線道路などでは花粉数多く
花粉飛散情報のほかに、環境による花粉数の違いを把握しておくことが大切だ。花粉捕集器を使用し、さまざまな環境下で大気中に浮遊する花粉数を測定した研究1)では、環境によってスギ花粉の花粉数が異なることが明らかになっている。特に、河川敷、幹線道路で花粉数が多い結果になった。
舗装された交通量が多い道路では、地面に落ちた花粉が巻き上げられて再び飛散するため、より多くの花粉に曝露される可能性が考えられる。また、同研究で示された河川敷のように、地形や気象条件によっては飛散する花粉の量がほかと比べて多くなる場所があるという。花粉回避のための指標例として、環境による花粉分布の違いも考慮することが望ましいといえる。
眼症状を有していると鼻症状が重症な傾向
スギ花粉症に伴う眼症状の有無と総鼻症状の関係
兵行義ほか:アレルギー.2015;64(8) : 1153-1159
耳鼻咽喉科受診患者におけるスギ花粉症眼症状を調査した研究2)では、2009~2013年のスギ花粉飛散最大飛散時期の2週間において、耳鼻咽喉科でスギ花粉症と診断され来院まで未治療、さらに日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査表(Japan rhino conjunctivitis quality of life questionnaire)の記載に同意した患者545名を対象に、検討が行われた。JRQLQの症状に関する項目において、「目のかゆみ」、「涙目」の合計を総眼症状(Total ocular symptom score:TOSS)とし、「水っぱな」、「くしゃみ」、「鼻づまり」、「鼻のかゆみ」の合計を総鼻症状(Total nasal symptom score:TNSS)として検討した。
スギ花粉症に伴う眼症状を有する患者は、545名中487名で、「目のかゆみ」を訴えたのは眼症状を有している患者の98.4%、「涙目」は72.9%という結果だった。TNSSにおいて、眼症状を有している群は6.9±3.4、眼症状を有していない群では4.7±3.3 となり、眼症状を有している患者群では、鼻症状が有意に増悪していることが明らかになった(p<0.001、Mann-Whitney-U検定)。また、TNSSとTOSSの相関を分析した結果、Spearman相関係数が0.512となり、有意な相関が示された(p<0.001)。以上の結果より、スギ花粉症で眼症状を有している患者では、眼症状を有していない患者と比較して鼻症状が重症な傾向にあることが示唆された。
研究実施期間である2009~2013年の花粉飛散量は、2009・2013年が大量飛散年、2011・2012年が中等度飛散年、2010年が少量飛散年だった。眼症状については、少量飛散年の2010年で有病率73%、大量飛散年の2013年で最も高い97%だった。花粉飛散量の多い少ないに関わらず、目に対する花粉対策が必要になると考えられる。
眼鏡の花粉侵入抑制効果を検討
※写真はイメージ
眼鏡には一般的なタイプと花粉対策用のタイプがある。マスクや花粉症対策用の眼鏡による花粉防御に関する研究では、2000~2002年の花粉シーズンに24~34歳の男性10名を対象に、不織布マスクと花粉回避のためのサイドガードフレーム付き眼鏡の着用が、花粉の侵入を抑制するかどうかを検討した報告がある3)。
同研究の検討結果では、マスクや花粉症対策用の眼鏡は実数値でみると花粉の侵入を減少させる傾向はあるものの、統計学的に有意な差は認められなかった。しかし、花粉侵入率(=鼻腔内もしくは結膜上の花粉実数÷浮遊花粉数)で検討したところ、10例と検討例数は少ないものの、眼鏡着用で花粉の侵入を抑える傾向が認められた。鼻腔内および結膜上の花粉侵入率は、風が強いときほど増加したという。これらの結果より、花粉対策用の眼鏡による花粉侵入の抑制効果が示唆された。
花粉対策用の眼鏡では最大98%の花粉をカットという結果も
通常の眼鏡と比較した花粉対策用の眼鏡の効果について、眼鏡販売会社の株式会社ジンズ(JINS)と両国眼科クリニックが共同で行った実証実験がウェブサイトで公開されている4)。同実験では、裸眼、通常の眼鏡、JINS社製の花粉対策用の眼鏡を比較。ワセリン塗布カバーガラスの表面に固定した人頭模型に、スギ花粉に近い大きさの蛍光粉末を噴霧し、カバーガラスへの花粉付着量を光学顕微鏡で計測した。
その結果、裸眼の場合、粉末が眼球や目の周辺に多く付着。通常の眼鏡では、裸眼に比べて粉末の付着は少ないが、眼球や目の周辺への付着は防げず、51%カットという結果であった。一方、花粉対策用の眼鏡では、眼球や目の周辺には粉末の付着はほとんど認められなかったという。同実験では、花粉対策用の眼鏡の着用によって最大98%の花粉の侵入を防ぐことを確認。花粉は上から飛散するので、通常の眼鏡よりも花粉の侵入を防ぐことができる、フードがフレーム上部にある花粉対策用の眼鏡のほうが、花粉の目の表面への付着を防止する効果が高いことが示されたとしている。つまり、度無しレンズ使用の眼鏡を含めた、通常の眼鏡をかけるだけでも目に入る花粉量は半分以下に、さらに花粉対策用の眼鏡をかければ、それ以上に花粉を防げるということになる。
裸眼、通常の眼鏡、花粉対策用の眼鏡における花粉カット率
株式会社ジンズ「花粉症と目のはなし」
コンタクトレンズ装用の患者の場合、花粉飛散時期にはコンタクトレンズ装用を中止し、眼鏡を使用することが推奨されている5)。しかし、コンタクトレンズ装用中であっても、外出の際に度無しレンズを使用した花粉対策用の眼鏡を使用すること、目に異常を感じた際には眼鏡を使用することを条件とすれば、コンタクトレンズ装用の継続も可能との意見もある6)。
ドライアイの場合は、目に入った異物を涙で洗い流す機能が低下しているため、花粉が長時間にわたり目の表面にとどまり、炎症が起こりやすくなる。さらに、目の表面の粘性物質が減少することで目が乾きやすくなりバリア機能が低下、結果として花粉などのアレルゲンが体内に入り込みやすくなる。そのため、目の花粉症対策としては、花粉を体内に取り込まないことに加えて、保湿も重要な要素のひとつだ。最近では、保湿機能が搭載された花粉対策用の眼鏡も販売されている。
JINS社が行った保湿機能付き花粉症対策用の眼鏡と裸眼の状態を比較した検証4)では、低湿度対応の恒温恒湿槽のチャンバー内に固定した人頭模型を設置し、低温、花粉時期の外環境を再現した低湿環境下での湿度を測定。その結果、裸眼状態では湿度が約30.4%、花粉症対策用の眼鏡では湿度が約50.7%だった。
花粉時期の外環境における湿度の比較計測データ
※グラフは保湿機能付き花粉症対策用の眼鏡を装着後、30分経過後からの10分間を測定したもの。
株式会社ジンズ「花粉症と目のはなし」
そのほか、フード部分を取り外すことのできる花粉対策用の眼鏡が発売される7)など、近年、花粉対策用の眼鏡の機能は進化している。花粉症対策用の眼鏡は防曇レンズを使用しているものが多く、マスクの着用も想定した構造になっている点も、花粉対策用の眼鏡の性能として抑えるべきポイントといえる。
最後に、目の花粉症対策のひとつとして、防腐剤無添加人工涙液による洗眼がある5)。洗眼の際は、目の表面から異物を洗い流すように1回数滴、できるだけ頻回に点眼することが推奨される。あわせて、市販のカップ式の洗浄器具には、注意したい。目周囲の皮膚の汚れや皮膚に付着した抗原を目の表面に接触させることにつながるため、洗浄器具としては推奨されていない。(QLifePro編集部)
- 参考文献
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- 後藤穣ほか:Prog Med. 2000;20(12):2417–2420
- 兵行義ほか:アレルギー.2015;64(8):1153–1159
- Gotoh M et al.:Rhinology. 2005;43(4):266–270
- 株式会社ジンズ「花粉症と目のはなし」(2019年1月22日閲覧)
- 日本眼科学会「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版)」(2019年1月28日閲覧)
- 深川和己:日本の眼科.2017;88(3):291–295
- 株式会社インターメスティック TOPICS(2019年1月22日閲覧)