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免疫性神経疾患におけるMRIと抗体検査の重要性~横浜内科学会で東海大の永田准教授が講演

読了時間:約 4分21秒  2016年02月01日 AM10:00
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初診で幅広い診療科を受診する可能性が高い免疫性神経疾患患者

重症筋無力症(MG)や多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO・NMOSD)をはじめとする免疫性神経疾患は、早期診断と早期治療が極めて重要な疾患領域である。一方、その症状は多岐にわたり、専門医である神経内科を受診する前に、内科医や整形外科、眼科など幅広い診療科を受診する可能性がある。そこで、第53回横浜内科学会神経研究会(座長:横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合診療科 長谷川 修 教授、共催:横浜内科学会、コスミックコーポレーション)で行われた東海大学医学部内科学系 神経内科の永田 栄一郎 准教授による講演「免疫性神経疾患の診断ポイント~早期発見のために~」より、近年その重要性が評価されているMRIによる画像診断と自己抗体検査について講演をまとめた。

免疫性神経疾患は大きく分けると、中枢神経系(MS、NMO、辺縁系脳炎など)、末梢神経系(ギランバレー症候群、フィッシャー症候群など)、神経筋接合部(MGなど)、筋疾患(多発性筋炎、皮膚筋炎など)その他特殊な免疫性神経疾患(クロウ・深瀬症候群(POEMS)、HTLV-1関連脊髄症(HAM)など)などに分類される。さらに近年では中枢と末梢共に病変が現れる「中枢・末梢連合脱髄症(CCPD)」も見つかっており、一概に分類することは難しい。中枢神経系の免疫性神経疾患であるMS、NMOの患者数は現在増加傾向にあり、「2040年には5万人、2050年には6万人にのぼると予想されています。我々が遭遇する可能性の高い免疫性神経疾患です」と永田准教授は語る。

免疫性神経疾患の分類

免疫性神経疾患の診断において、近年重要性を増しているのがMRIによる画像診断と、各疾患に現れる特異的な抗体の検査だ。現在、MSの診断は2010年に発表された「改訂マクドナルド診断基準」に基づいて行われている。それまでの診断では、「脳・中枢に病変が現れていること(空間的多発)」と「複数回発作を繰り返すこと(時間的多発)」を認める必要があり、これが診断確定までに時間を要するひとつの要因となっていた。しかし、改訂マクドナルド診断基準では、造影剤を使用することにより1回のMRI所見で診断できる可能性がでてきた。

「一度悪くなり、再発している様子があれば時間的な多発がわかります。また、複数個所に病変が現れていれば、空間的な多発もわかります。T2強調画像では、側脳室に縦長の像である『キャンドルスティック』が、横から見ると脳梁に添って現れる『ドーソンズフィンガー』といういずれもMSに特徴的な像が認められます。これらは脳梗塞などによる血管遮へいとは違うものです」(永田准教授)

新たなMRIの活用法「MRニューログラフィー」


東海大学医学部内科学系 神経内科 永田 栄一郎 准教授

しかし、こうした基準から容易に確定診断できる典型的なMSは少ない。また、日本では欧米に比べてNMO患者が多いため、NMOとNMOSDをMSから除外する必要がある。以前はMSの一部とされていたNMOとNMOSDだが、近年ではMSに有効な治療を施すと、逆に悪化を招くものもあることが判明している。2006年に発表された「Wingerchuckの診断基準」では、「視神経炎」、MRI画像による「3椎体以上の長い脊髄病変」、特異的な抗体である「抗AQP4抗体の検出」が診断の基準となっていた。

ところが2015年、米医学雑誌「Neurology」に上記の診断基準を提唱していたWingerchuck等よりNMOSDの新たな診断基準が提唱された。典型的なNMOには分類されないが、抗AQP4抗体が陽性であり類似の症状も呈することが確認されたためだ。「NMOには、視神経炎、脊髄炎、最後野、脳幹、間脳、大脳に病変がでるものが多く、Neurologyに掲載された論文では、抗AQP4抗体の検出と上記の所見が1つ以上でNMOSDとするという考え方が示されました。また、抗AQP4抗体陰性の場合は、2つ以上の所見とMRIの基準を満たせばNMOSDと考えるようになっています」(永田准教授)

慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)では、MRIを用いた新たな診断方法の開発が進んでいる。CIDPは末梢神経に脱髄が起こる疾患で、2か月以上かけて緩徐に進行する。筋電図による診断が有効だが、痛みをともなうため患者の負担が大きいという難点があった。そこで永田准教授ら東海大学では「MRニューログラフィー」という新たな検査方法の検討を進めている。「MRニューログラフィーは、拡散強調画像を利用し、全身の末梢神経の描出を可能にした撮像法です。CIDPの患者では、神経叢が太くなっていることが確認でき、その太さを治療前と治療後で比較することで、治療の効果も確認することが可能です」と永田准教授は語った。

治療法の選択にも有用な自己抗体検査

一方、特異的な自己抗体を検査することで、診断までの時間が短縮する疾患の1つがMGだ。MGは現在、日本国内におよそ2万5,000人の患者がいるとされ、最も頻度の高い神経免疫疾患。日本のMG患者では約80~85%が抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性であり、数%が抗筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性と言われている。胸腺腫をともなうMGの場合、抗AChR抗体の陽性率は100%だ。

「MGの診断では、誘発筋電図(反復刺激)やアイスパックテストという検査方法がありますが、もっとも判断が簡単なのが血液検査です。MG患者は若い女性に多く、こうした若年発症(50歳未満)の患者で抗AChR抗体は多く検出されます。また、抗AChR抗体がネガティブだった場合でも、抗MuSK抗体が陽性である可能性があります」と永田准教授。抗MuSK抗体陽性のMGでは顔面筋、球症状やクリーゼの頻度が高く、重症例が多いという特徴があり、「血液浄化療法ではTR350による免疫吸着は無効、拡大胸腺摘除術も無効です」と、自己抗体を検査することで、治療法の絞込みにもつながることを紹介した。

MG以外の免疫性神経疾患でも、さきのNMOにおける抗AQP4抗体や、HTLV-1関連脊髄症の抗HTLV-1抗体、膠原病に伴う多発性筋炎・皮膚筋炎の抗Jo-1抗体など、自己抗体の発現が確認されている。近年、研究が進んでいるCCPDにおいても、抗neurofascin抗体が発現していることが確認されており、現在自己抗体が確認されていない疾患についても、新たな原因抗体の発見が期待される。

神奈川県において特定医療費を受給する患者数は、MSで全国4位、MGで全国3位と、多くの免疫性神経疾患患者が県内にいることが判明している。「中枢に病変が現れる免疫性神経疾患ではMRIが非常に大きなポイントです。また、甲状腺機能、抗核抗体など一般的な膠原病検査を行ったうえで、抗AChR抗体や抗MuSK抗体をはじめとする特定の疾患に発現する抗体を検査すると、診断に直結するケースがあります」とMRI、そして自己抗体検査の有用性を改めて強調した。(QLifePro編集部)

【関連リンク】
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