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医療の可能性と限界を考えながら難治性神経疾患の子どもに向き合う~難治例が多いゼロ歳児のてんかんとトランジッションの問題【2/3】

読了時間:約 3分39秒  2015年09月02日 AM10:00
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図1:長時間デジタルビデオ脳波計
(長野県立こども病院 集中治療室)

長野県内の重症小児患者が集まる長野県立こども病院では、後遺症としてのてんかんを発症するケースも少なくない。神経小児科の福山哲広副部長に小児期発症のてんかん診療の実際について話を聞いた。

難治例が多いゼロ歳児のてんかんとトランジッションの問題

――こども病院における診療について。

福山 当院は、主に長野県内の重症小児患者が集まる病院です。必然的に集中治療が必要な子どもの中枢神経疾患がNICUやPICUに多数入院してきます。集中治療中は脳波をとっていないと分かり難いけいれん発作を起こすことがあるため、新生児仮死、新生児けいれん、急性脳炎・脳症、虐待頭部外傷などで脳波モニタリングを積極的に行っています(図1)。長時間脳波の判読は多大な労力を要しますが、新生児科や集中治療科と協力して体制作りを進めています。

また、当院で集中治療を行うような重症症例では後遺症としてのてんかんを発症するケースもかなり多く見られます。当院の患者さんのてんかん発症年齢の統計を見てみると0~1歳の乳幼児での発症、特に症候性てんかんが圧倒的に多いことが一目瞭然です(図2)。この乳幼児期発症の症候性てんかん患児は難治性で重度の知的障害や身体障害を合併することが多く、発作のコントロールも難しくなります。大きなハンディキャップを背負いながら成長し、ご家族がずっと介護しながら看ていかなければならない例も少なくありません。


図2:長野県立こども病院患者のてんかん発症年齢(2012年4月~2014年12月)

てんかん治療はもちろんですが、呼吸・栄養・睡眠の問題や発達支援、患者家族の生活を含めた包括的な診療を、看護師、ケースワーカー、リハビリテーションスタッフ、地域病院、療育施設、教育機関等と協力しながら行っています。近年の医学の進歩により重度の障害を持ったお子さんでも長期に生存できる症例が増えており、20歳を過ぎてもこども病院に通院している患者さんは少なくありません。

当院が担うてんかん診療でもう1つ重要なのが、10歳以降に発症するてんかんです。この10代発症のてんかん患者さんのほとんどは知的障害や身体障害を併存しませんが、成人になってもてんかん診療が必要な状態が継続します。そのため、小児科から成人科への移行、いわゆる“トランジッション”の問題が大きな課題としてあります。

小児期発症のてんかん患者を成人してからも小児科医が診ていることは少なくないのですが、小児科医は家族を中心に見据えて診療を行うことが得意で、患者を中心に見据える成人診療のスタイルに不慣れであるため、小児てんかん患者の自立に意識が向きにくい傾向があります。たとえてんかんがあっても、自立した成人になれるような患者教育を行い、小児科医から成人の診療科医(神経内科、脳神経外科、精神科など)へのスムーズな移行を行う必要があります。

てんかん診療に必要なものは正確な知識の普及と患者を安心させること

――てんかん診療の実際について。

福山 現在、私が診ているてんかん患者さんは約200人で、年齢的にはゼロ歳児から30歳まで様々です。その約4分の1(50人ほど)の患者さんが特発性てんかんで、残り4分の3(150人ほど)の患者さんが症候性てんかんで、かつ重症例が多くなります。

特発性てんかんの場合、知的には正常で、日常生活も普通に送れる子どもが多いのですが、患者さんの心理的な負担は軽視できません。てんかんを発症したことで自信を無くしたり、不登校になる子が多いのです。そういう場合に、「病気になったけど、大丈夫だよ」「てんかんなんて大した病気じゃないよ」と言ってあげられるような診療をしたいといつも思っています。効果的で副作用の少ない治療と正確な知識の伝授により、子どもたちが未来に目を向けられるようになって欲しいのです。

てんかんに対する誤解の1つに、「てんかん発作起こした患者さんにはすぐに何らかの救急対応をしなければいけない」ということがあります。ご家族や学校の先生ばかりか医療従事者の中にもこの誤解があります。

ところが、ほとんどのてんかん発作は放っておけば自然に治まります。以前に東北大学の中里信和教授がご講演の中で、「ただのてんかん発作です」という言い方をされていて、大変感銘を受けました。学校の先生方に「てんかん発作を起こした時の対応を教えてください」と聞かれることが多いのですが、基本的に「いや、ただのてんかん発作ですから見守っておいていただければ結構です」と答えることにしています。特別な対応が必要ないと分かれば、子どもたちの心理的な負担も多少軽減するはずです。正確な知識の普及は、てんかん診療にとってとても大切なものです。

紹介したいエピソードがあります。ある日「ヘディングするとてんかんが悪化するかもしれない」とずっとサッカーを禁止されていた小学校5年生の子が私の外来に来ました。本人に「何か聞きたいことはある?」と尋ねると、「サッカーやってもいいですか?」と聞くので「やってもいいよ」と答えました。すかさず「ヘディングしてもいいの?」と聞いてきたので、これも「いいよ」と答えると、その子は満面の笑みを浮かべたのです。

小学校5年生の子どもにとって、サッカーでヘディングができるかどうかは、人生でとても大きなウエイトを占めていることを私たちは忘れがちです。てんかんを抱える子どもたちにはもちろん生活上で制限しなければいけない点もありますが、その際には正確に科学に則った指導をするべきです。子どもの生活に制限をかけるのはすごく重みのあることだということを常に忘れずにいたいと思っています。「治る(発作がコントロールできる)患者さんはとにかく安心させる」ことが、私のてんかん診療の基本です。

※この記事は株式会社ライフ・サイエンス「MEDICAMENT NEWS」第2201号(2015年7月15日)掲載誌面をもとにQLifePro編集部で一部再構成したものです。

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