5月20~23日に新潟市で開催された第56回日本神経学会学術大会のシンポジウム「社会の中の神経学:はたらく人とてんかん」で、東海大学医学部内科学系 神経内科学の山野光彦先生が、就職後に新たにてんかんを発症した社員に対する「産業医による復職支援」をテーマに講演を行った。
■てんかんのある「はたらく人」の職域における対応と支援
山野光彦氏(東海大学医学部内科学系 神経内科学)
職場復帰を支える産業医の役割とは
もともと産業医は、職業病の早期発見を目的に誕生した職種であった。その後の社会・労働環境の変化に伴い、過労死対策、生活習慣病対策、メンタルヘルス対策などの役割が期待されるようになった。現在では「疾病のある人の適正配置・適切な雇用機会の提供」という新たな役割も担う。
てんかんは適切にコントロールされていれば、多くの職業に従事可能である。就労可能かどうかを判断する基準は、発作の頻度や内容、身体障害・精神症状の有無などで判断する。山野氏は「(てんかんという)病名ではなく病状で判断することが重要だ」と訴える。
安全配慮と機会確保のバランスを
てんかんで治療中の労働者に対して制限を考慮すべき業務には、重筋作業、立位作業、高所作業(2メートル以上での高さでの作業)、孤立作業、マンガン・二硫化炭素、ニトログリコール取り扱い作業などが報告されている(昭和37年 労働衛生試験研究所報告)。
今から50年以上前に制定された項目で、現代ではいささか時代錯誤な点も否めない。しかし、患者の状態によって患者または他者に危険が及ぶ可能性のある業務には配慮が必要だろう。
ただし、安全性を過度に重視しすぎると、適切な就労機会が失われることになる。安全配慮義務と就労機会の確保のバランス感覚が重要になる。
主治医と連携して患者情報を共有
実際の復職支援では、まず復職前の社員と面談を行い、事業者に対しては医学的意見・助言を行う。復職後もフォローアップを継続していく。
産業医と主治医との連携も重要である。主治医とは、治療状況、日常生活や職場復帰における留意点などを共有しておく。また産業医の誰もが脳神経領域を専門とする医師とは限らないため、発作時の対応や抗てんかん薬の副作用なども共有しておきたい。
職場に対するアプローチも重要である。受け入れ準備状況、職場の上司や同僚のてんかんに対する理解度などを事前に把握しておき、個人情報保護にも十分配慮し、必要であれば病状の説明や発作時の救急対応についてアドバイスをするなど、復職に向けた下地を整える。
発作の状態などから個々に判断を
復職後のフォローアップでは、コンプライアンスや生活状況の確認はもちろん、業務遂行能力は十分発揮できているか?人間関係は良好か?なども確認する。「いつ発作があるかわからない」という心理的負担にも配慮する。
山野氏は、使用者の安全配慮義務から要配慮事項が発生したとしても「てんかん」という病名だけで一概に決定するものではないと指摘。「常に状況を考慮しながら柔軟に決定するべき」とした上で、「てんかんだから当該業務は禁止」ではなく、「この人にこの業務を任せられるか、任せられないか」といった視点で個々に判断することが重要だと訴えた。
※この記事は株式会社ライフ・サイエンス「MEDICAMENT NEWS」第2199号(2015年6月25日発行)掲載誌面をもとにQLifePro編集部で一部再構成したものです。