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「はたらく人」のてんかんに対する治療~第56回日本神経学会学術大会シンポジウムレポート【3/4】

読了時間:約 2分31秒  2015年07月30日 AM10:00
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5月20~23日に新潟市で開催された第56回日本神経学会学術大会。てんかんと就労の問題をテーマにしたシンポジウム「社会の中の神経学:はたらく人とてんかん」で、大津赤十字病院 神経内科の三枝隆博先生が神経内科の立場から、就労を目指したてんかん治療の実際について講演を行った。

第56回日本神経学会学術大会シンポジウム「社会の中の神経学:はたらく人とてんかん」
■「はたらく人」のてんかんに対する治療。治療目標をどのように設定するか?
 三枝隆博氏(大津赤十字病院 神経内科)

発作ゼロより「生活しやすさ」を優先

てんかん患者の就労は、安定的な収入による社会的自立だけでなく、自己達成感や自尊心など様々な面でプラスになる。一方で、身体的負担や心理的負担もあり、コントロール良好な患者であっても発作のリスクは生じる。

就職及び就業の維持という視点でいえば、発作はできる限り避けたい。しかし、適切な治療で発作ゼロが得られる患者は別として、一定数存在する難治性てんかんの患者に対しては、発作ゼロの達成にこだわるあまり治療を強くすると、眠気、集中力の欠如、性格変化などの副作用まで増やすことになる。それでは、逆に就業の継続を妨げる結果になりかねない。

三枝氏は、就業者のてんかん治療では「発作の頻度より程度を軽減することが重要だ」と指摘。薬の副作用も患者は医師が考える以上に悩んでいるとして「難治例に対して、発作ゼロにこだわるあまり過剰な投薬や生活制限をすると、逆にコンプライアンス低下につながる」と注意を促した。

家族や事業者へのアドバイスも重要

患者の生活の質(QOL)を決める要素は何だろうか。三枝氏は、同院に外来通院するてんかん患者を対象に、患者のQOLに相関する因子を調べた。

その結果、同じてんかん患者でも有職者のQOLは無職者より低い傾向が認められた。活力・情緒面・日常活動といった生活上の評価で「困難を自覚する割合」も、同じてんかん患者でも有職者の方が高い傾向が示された。

一方で、意外なことに発作頻度そのものはQOLと相関していなかった。

これが日本全体の傾向なのか、てんかん特有の傾向なのかは本調査だけではわからない。しかし、就業者のQOLが低下しがちな点には注意が必要だ。

就職できても、希望通りの就業スタイルではないかもしれない。職場で発作が起きるかわからないという不安もあるかもしれない。就労環境や労働条件については、患者だけでなく、家族や事業者に対しても助言を進めていくことが重要になると提言した。

「発作を隠して就職」をめぐる問題

利用可能な就業スタイルのひとつに「障害者雇用枠の活用」がある。三枝氏が実際に精神障害者枠で転職した患者とその家族に話を聞くと、メリットとデメリットの両方があるという。

メリットとしては、「拘束時間が減少した」、「通院時間ができるようになった」など。デメリットとしては「給料が減少した」、「資格が活かせない部門に配置転換され、かえってストレスがたまった」などの声が聞かれた。

では、障害者雇用枠は利用せず、他の人たちと同じ「一般採用枠」で就職する場合、患者は企業に自身のてんかんを告知する必要があるのだろうか。三枝氏も、ときどき患者から「てんかんを隠して就職活動をしてはダメなのだろうか?」と相談されるという。

障害者欠格条項に関わる点を除けば、法的には被雇用者側に告知義務はない。ただし、てんかんをオープンにして働く方が、発作時にも周囲の理解が得られやすいという側面もある。

企業側に伝える必要があるかどうかは、患者の発作状況(頻度や程度)や職場の理解度や労働環境でも異なる。オープンにするメリットは大きいが、必ずしもてんかんに理解のある職場ばかりとは限らない。三枝氏は、就職を控えている若年患者に対しては早期に就職の話をし、就職活動中にゆっくり考えてもらうことが重要だと述べた。

※この記事は株式会社ライフ・サイエンス「MEDICAMENT NEWS」第2199号(2015年6月25日発行)掲載誌面をもとにQLifePro編集部で一部再構成したものです。

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