多くの高齢者が悩む「痛み」。平成22年国民生活基礎調査の有訴者率調査によると、65歳以上の男女ともに、最も多い愁訴が「腰痛」、次いで「手足の関節が痛む」となっている。
ところが、生理的機能の低下による合併症のリスクに加え、他の医薬品との相互作用リスクなどもあり、高齢者の疼痛治療に難渋している医師も多い。そこで、日本消化管学会の理事長で、NSAIDs潰瘍関連の論文などの研究実績もある日本医科大学附属病院 教授・消化器・肝臓内科部長の坂本長逸先生に、高齢者の疼痛治療のアプローチについて、話をうかがった。
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難治性の慢性痛に移行しやすいことに加え、廃用症候群や消化管障害への注意も必要
「鎮痛剤の長期使用に対するリスクのある高齢者が急性痛を訴えた場合は、治療が長引いて慢性痛にならないよう、積極的な介入が必要です」と坂本先生。高齢者の場合、痛みが悪化することでADLが低下。それに引っ張られる形でQOLも大きく低下することが考えられる。一方で坂本先生は「安静状態が長く続くことによる廃用症候群リスク」にも警鐘を鳴らす。「そのためにも、薬物療法で的確にスピード感をもって“痛みのもとを治療する”ことが大事です」(坂本先生)
痛みの治療、特に侵害受容性疼痛のファーストチョイスとして、炎症箇所に直接作用し、痛みを和らげるNSAIDsだが、高齢者には「慎重投与」となっている。「非選択的NSAID服用群とプラセボ群とを比較した潰瘍発症率の調査(図1)でも、加齢に伴って潰瘍発症率が高まることが分かっています。さらに、変形性関節症および関節リウマチ患者を対象にした消化性潰瘍の発現率調査(図2)でも、併用患者の潰瘍発現率がそれ以外と比較して高くなるなど、加齢に伴う消化管障害のリスクは大きくなります」(坂本先生)。それ以外にも、高齢になるほどに出血リスクが高まる抗凝固薬との併用など、NSAIDsを原因とした消化管障害のリスクは高齢になればなるほど高まることが分かっている。
リスクを把握しながらも、短期決戦でNSAIDsで痛みを取ることが最も重要
日本老年医学会が2005年に発表した「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」では、高齢者に対して特に慎重な投与を要する非ステロイド性消炎鎮痛薬として、インドメタシンならびにCOX阻害薬以外の長時間作用型NSAIDsが挙げられている。が、坂本先生は「だからといって“使わない”のではなく、短期決戦かつCOX-2阻害薬への変更など対策を施して、NSAIDsで“痛みの治療”を行うべき」と語る。前出の「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」でも、それぞれ「必要最少量・最少期間で使用」ならびに「COX-2特異的阻害薬への変更」を代替手段として紹介している。
問診などを通して患者のADLやQOLの状態を見極める
痛みを訴える高齢者に対しての、積極的介入するかどうかの基準について、坂本先生は「高齢者となると、体のどこかが痛んでくるのは当たり前のこと。積極的な介入を行うかどうかは、問診などを通じて、ADLやQOLが大きく低下していないかどうかがカギになります。日常生活に大きな影響があるならば、積極的に痛み治療に介入すべきです。一方、少々の痛みでも元気に通院できている状態の方は、NSAIDs以外の方法を検討した方が良いと思います」と語る。
「もちろん、他科受診の状況を聞き、他の薬との相互作用リスクや、治療中に消化管の違和感など副作用リスクが生じた場合は、投薬せずに別の治療法を検討する必要がありますが、“痛みのもとを治療する”NSAIDsでの治療は、高齢者の疼痛治療の主要な選択肢の1つとして考えておいてもよいのではないでしょうか」(坂本先生)
坂本長逸先生(日本医科大学附属病院 教授・消化器・肝臓内科部長)
1974年 神戸大学卒
日本内科学会認定医、日本消化器病学会認定専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、日本カプセル内視鏡学会認定医・指導医
日本消化管学会理事長、日本消化器関連学会機構(JDDW)理事、日本消化器病学会財団評議員(2008-2012:理事)、日本消化器内視鏡学会理事、日本臨床生理学会理事、日本高齢消化器病学会理事、日本カプセル内視鏡学会理事、日本消化吸収学会理事、日本創傷治癒学会評議員、日本臨床寄生虫学会評議員、Fellow of the American Gastroenterological Association、日本神経内分泌学会評議員、日本肝臓学会、日本癌学会
(提供:ファイザー株式会社)