心房細動の治療ガイドラインでは、脳梗塞発症リスクのある非弁膜症性心房細動患者に対して、抗凝固療法が推奨されている。心房細動が原因となる脳梗塞、すなわち心原性脳塞栓症は他の脳梗塞に比べ重症となることが多い。ところが、抗凝固薬の服薬アドヒアランスは大きな課題となっており、その向上のため受診行動の最後に患者に接する薬剤師に、医師が寄せる期待も大きい。そうした医師の1人である、公益財団法人 心臓血管研究所 所長の山下武志先生に、心房細動患者における抗凝固療法のマネジメントに薬剤師が果たす役割についてうかがった。
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時間の経過とともに薄れていく患者の服薬意識
厚生労働省「平成23年患者調査」によると、脳卒中の患者数は約172万人。死因トップのがんの患者数約151万人を大きく上回っている。脳卒中の約6割を占める脳梗塞のリスクを減らすためには、その原因の一つである心房細動を持つ患者のリスクを減らす必要があり、抗凝固薬の正しい服薬が重要だ。
ところが、「健康日本21推進フォーラム」の調査によると、ワルファリンを処方された患者さんの4.3%、実に3万3000人の患者さんが1年以内に服薬を中止している。
「“脳卒中は怖い病気だ”と患者のみならず多くの方が考えているにもかかわらず、残念なことに、一定期間発症しなかったことで“もう大丈夫だろう”と自己判断し、服薬を中止してしまう患者が一定数います。“できることなら薬の数を減らしたい”という患者心理がベースにあるうえに、抗凝固療法の中止と脳梗塞発症リスクの認知が低く、ドロップアウトしやすい状況ができてしまっているのです」(山下先生)
この傾向は、より患者の負担や制限が軽減された新規経口抗凝固薬が登場したことで若干改善が見られたが、「まだまだ道半ば」(山下先生)とのこと。
母集団87万1975人のレセプトデータを分析した拡大推計値。2011年1月~9月にワルファリンを処方されていた心房細動または心房粗動患者のうち、服用を中止した者を抽出。他の経口抗凝固薬へのスイッチ後の服用中止を含む。2ヵ月間処方がなくても3ヵ月後に再び処方された者は服用中止に含めず、厳密な意味で治療を中止したと推定される者の数を算出。
【健康日本21フォーラム「心房細動患者のコンプライアンス実態調査」より】
薬剤師による+αのコミュニケーションが患者の服薬コンプライアンスを上げる
「抗凝固薬の服用を中断してしまう要因は他に、出血が続いたり、また内出血(あざ)ができた際にびっくりして服用を中断してしまうことなどがあります。さらに出血の可能性がある他科・他施設での手術や内視鏡検査、歯科での抜歯などを主治医に伝えないケースもあります」(山下先生)
抗凝固療法のドロップアウトにつながる全てのリスクをなくせるわけではないが、薬歴管理や薬剤受け渡し時のコミュニケーションで患者に「気づき」を与えるとともに、医師が問診で吸い上げきれなかったリスクを顕在化させる役割を担ってほしい、と山下先生は期待する。
「医師が治療のスペシャリストとして、そして薬剤師が薬剤のスペシャリストとして、お互いに情報共有を行い、チームとして患者に向き合うことで、患者の服薬アドヒアランスは向上し、引いては日本の脳卒中患者を減らすことができると考えています」(山下先生)
日常生活へと戻る患者の「ラスト1マイル」としての薬剤師の重要性
QLifeが行った「経口抗凝固薬に関する患者実態調査」によると、抗凝固薬を服用する患者の75%以上が「かかりつけの薬局・薬剤師からの情報を重視する」と回答。さらに、薬剤師専門コミュニティサイト「ココヤク」の薬剤師会員を対象に行ったアンケートでも、「抗凝固薬について、患者からどんな相談を受けたか」という質問に対し、飲み合わせや食事との相互作用、歯科通院時の休薬など医療面に加えて、出血時の病院受診のタイミングやスポーツ時の怪我の対処法など、さまざまな相談が薬剤師に寄せられていることが分かった。
「“医師にそんな簡単な質問をするのは申し訳ない”と萎縮する患者もいる中、抗凝固療法を正しく続けるための相談役としての薬剤師の重要性は、薬剤師の皆さんが思っているよりも大きなものです。今回、抗凝固療法を例に挙げましたが、それにとどまらず、積極的に患者とコミュニケーションを行い、必要な情報はどんどん医師にフィードバックしてほしいですね」(山下先生)
山下武志先生(公益財団法人 心臓血管研究所 所長)
昭和61年東京大学卒業。専門分野は不整脈、心臓電気生理学。日本循環器学会(循環器専門医、関東甲信越地方会評議員)、日本心臓病学会(特別正会員、評議員、臨床試験あり方検討委員会委員)、日本内科学会(認定内科医、指導医)、日本心電学会(理事)、日本不整脈学会(理事)、日本不整脈学会・日本心電学会認定(不整脈専門医、不整脈専門医認定委員会委員長)