国立保健医療科学院が行ったタイムスタディによると、常勤の勤務医の週あたりの総勤務時間の平均時間は70時間を超えている。そうした過重労働が問題視されるなか、先日、東京・霞が関で「医療者のためのスケジュール管理術」というセミナーが行われた。その講師役である、東海大学 医用生体工学科 教授の高原太郎先生は、この度、医療者のための手帳「メディカル手帳2014」(http://www.clasic.jp/medicalplanner/)をプロデュースした。実臨床と教壇という異なるステージで時間をやりくりする高原先生の「時間創出術」を聞いた。
■自ら”時間を創る”という発想
「まずはじめにお断りしておきますが、『医療者が実は忙しくない』と言っているわけではありません。実際、診療時間だけでも、週に40時間近くにもなり、これだけで一般的な法定労働時間に達してしまうわけですから」と高原先生。実際、前出の国立保健医療科学院のタイムスタディでも、会議、教育、自己研修、研究等診療以外種々の形態を含むうえ、院内外複数施設に及ぶ事が明らかになっている。「そうした状況にあって、国はさまざまな政策で医療者の労働時間を減らすよう努力してはいると思いますが、これまでがそうであったように、劇的な状況の変化はすぐには望めません。ならば、“空いた時間を探す”のではなく“積極的に時間を空けに行く”という発想の転換が必要です」(高原先生)
■スケジュールを「月」ではなく「週」で考える
その第一歩として「スケジュールを週で考えるようにしましょう」と高原先生。「Monthly – Weekly Gap」と私が名付けたもので、1か月ごとに表示されるスケジューラーや手帳では、当然、1日に書き込める情報には限りがあり、どうしてもゴチャゴチャした見た目になってしまいます。それが、実際の用件以上に、“時間が無い”印象を読み手に与えてしまいます。一方、1日ごとでは、何らかの緊急事態が発生した際に、翌日以降に業務を先送りすることに罪悪感を覚えてしまい、結局夜遅くまで対応し、睡眠時間を削ってしまいます」(高原先生)。月ごとの表示を週ごとに表示する。それだけで、空き時間が明確になり、「なんだか得した気分になります(笑)」(高原先生)
■デジタル管理のメリット・デメリット
インターネットが普及して以来、尽きることなく語られるテーマ(ちょっと言い過ぎかもしれないが)の1つに「アナログ管理かデジタル管理か」がある。ここでは、デジタル管理のメリット・デメリットを考えていく。まず、デジタルの大きなメリットの1つに「安価」ということがある。ほとんどのポータルサイトでは会員向けサービスとしてスケジューラーを備えており、その多くが無料だ。また、複数人で共有できるほか、同じスケジュールのコピーや、繰り返しの予定、突然の予定変更などスケジュールを柔軟に動かせるのもデジタルならではだ。しかし、高原先生はその「柔軟に動かせることこそが、デジタルのデメリットにもなります」と語る。「デジタルでのスケジュール変更は、その修正の“痕跡”が残りません。これを繰り返すと、やがて一度決めたスケジュールを予定通り実行する確率や意思が低下してしまいます。デジタルはまた、仕事を効率的に、手分けしてこなすのに便利なのですが、“いつかやりたいこと”の実行タイミングは難しくなります」(高原先生)
加えて、デジタルゆえの統一された表記方法が欠点にもなる、と先生は語る。「飛行機や新幹線など、時刻表を意識するものは書くが、徒歩・通勤電車・タクシーなどはデジタルカレンダーに書きにくい。さらに移動中の休憩、電車の中での仕事などが書きにくいのもデジタルの欠点です」(高原先生)
後編では、先生おススメのアナログ手帳管理術を紹介する。
高原太郎(たかはら・たろう)
昭和36年(1961年)東京都生まれ
秋田大学医学部卒業
東海大学工学部 医用生体工学科 教授
オランダ・ユトレヒト大学病院 放射線科 客員准教授
医学博士、放射線科専門医、磁気共鳴医学会理事(2008-2011)
参考リンク:メディカル手帳2014
医療スタッフのための新しい手帳。アナログの力と医療従事者のためのこだわり機能で自己実現を加速させる一冊。3500円。