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抗凝固薬の処方前に出血リスクを見極める
比較的安全性が高いとされている新規経口抗凝固薬でも、安全に処方するためには、処方する前に抗凝固療法が適さない出血リスクの高い患者さんを見極めることが重要です。新規経口抗凝固薬の導入初期、重篤な出血性合併症が相次いで報告されましたが、このことから、安全性を疑問視して処方に慎重になった医師もいるようです。しかし、私は重篤な出血の背景に、ワルファリン療法に慣れていない医師が安易に処方したということもあったのではないかと考えています。
服薬アドヒアランスが良好かどうかで適応を判断する
抗凝固療法が適応かどうかを判断する際、一番重要だと考えているのは服薬アドヒアランスが良好か否かです。抗凝固療法では投与中止によって血中薬物濃度が低下した時に血栓が飛びやすいため、薬をきちんと服用できる患者さんでないと、脳塞栓を起こすリスクを高めることになりかねません。
高血圧や糖尿病の合併も出血リスク因子とされているので、血圧・血糖値が不安定な患者さんには積極的な抗凝固療法をすぐには行わないようにしています。ただし、服薬アドヒアランスが良好であれば、薬物療法で高血圧や糖尿病はコントロールできるので、血圧や血糖値を安定させた後に抗凝固療法を始めます。
高齢者は出血リスクが高いと言われています。しかし、高齢者ほど心房細動患者が多く脳梗塞のリスクも高いこともわかっています。したがって、高齢だという理由だけで抗凝固療法の適応から外すのは適切ではありません。認知障害のある患者さんでも、家族や介護者に服薬を管理してもらえれば抗凝固療法は可能だと考えています。もちろん、禁忌に該当する患者さんや、消化管出血などの既往がある場合、抗血小板薬やNSAIDsなどを服用している患者さんには処方しません。
ツールを使い、出血リスクの高い症例の見逃しを防ぐ
抗凝固療法が適応となる心房細動患者を見極めるには、問診で出血リスクをしっかり聞き取ることが、単純にみえてとても大切だと考えています。出血リスクを簡単に確認するツールとして使用されているのは、HAS‐BLEDスコアです。これは、7項目(高血圧、腎機能異常・肝機能異常、脳卒中、出血または出血傾向、PT‐INR値コントロール不良、年齢、抗血小板薬やNSAIDsの使用・アルコール依存)を9点満点で判定し、3点以上を高リスクとするもので、ウエブサイトからダウンロードできます。抗凝固療法に慣れていない場合は、問診での聞き漏らしを防ぐためにこうしたツールを活用するのも良いでしょう。
定期的な検査を行うことで抗凝固療法中の出血をチェック
当院では抗凝固療法中の患者さんには、半年に1回、便潜血検査で消化管出血をチェック。陽性の場合は内視鏡検査を行っています。こうした定期検査で大腸がんを早期発見できた例もあります。
貧血については、半年に1回の血液検査で、ヘモグロビン値が正常域にあるかだけでなく、これまでの測定値と比べて低下傾向にないかどうかを注意してみています。腎機能についても、安定した状態の患者さんでは半年に1回の尿検査と血液検査でチェックしています。近年、CKD(慢性腎臓病)が心血管障害に密接に関連していることがわかったこともあり、腎機能については定期的に必ずチェックするようにしています。
抗凝固療法を行っている患者さんは、高齢者が多いので硬膜下血腫についても気を付けています。硬膜下血腫の一般的な症状は頭痛やふらつきだと思いますが、高齢者の場合には症状を訴えないことも多く、また打撲などがなくても強く頭を振っただけで生じることもあると言われています。数日間で急に食欲が落ちたり、周囲から見て明らかにおかしな変化が認められた場合は、硬膜下血腫を疑って頭部CTを撮影するようにしています。
実臨床でも服薬アドヒアランスを良好に保つためには
患者さん本人に指導を繰り返しても、服薬アドヒアランスが改善されない時は、家族にお願いするようにしています。「非常に大事な薬ですが、きちんと服用できていないので、家族の皆さんがチェックして服用を促してください」とお願いしています。老人介護施設の居住者の場合は介護者の協力を得て、必ず介護者の目の前で服用してもらうよう、お願いしています。
在宅介護のヘルパーに服用確認をお願いする場合、ヘルパーの滞在中に服用確認を2回行うのは難しいので、1日1回の薬剤に変更することが必要です。高齢者は、高血圧や脂質異常症、糖尿病など併存疾患の治療薬も服用しているケースが多々あります。降圧薬などは1日1回の薬剤が増えているので、これらの併用薬も考慮し、できるだけ1日1回型に変更して服薬回数を減らすよう工夫しています。
また、ワルファリン療法では用量調節を行って1回の服用錠数が増えると、「病状が悪化した」と勘違いされる方もいますが、新規経口抗凝固薬は、通常用量調節の必要がなく、こうした心配はほとんどありません。また、1日に何錠も服用する薬剤ですと、患者さんが服薬する錠数を勝手に減らしてしまい、薬を余らせてしまうことがあります。このケースでも、1日1回1錠というシンプルな用法・用量であれば、患者さんが勝手に服薬錠数を減らしてしまうおそれもなく、良好な服薬アドヒアランスを保つうえで好ましいと思います。
服薬状況が管理される臨床試験では、良好な服薬アドヒアランスが保たれます。しかし、実臨床では1日の投与回数や1回の錠数、剤形が影響すると思われます。非弁膜症性心房細動患者に対する長期薬物療法時において、1日1回投与は1日2回投与に比べて服薬アドヒアランスが高いことが示されていますし、抗凝固療法中の非弁膜症性心房細動患者を対象に行われたアンケート調査でも、1日1回で少ない薬剤数を好む傾向が示されています。したがって、臨床試験と同じ有効性を実臨床でも期待するならば、良好な服薬アドヒアランスを維持するためにも、患者さんが受け入れやすい1日1回1錠のシンプルな用法・用量を選択すべきだと思います。
※お話の内容は2013年7月時点のものです
泉岡利於先生(一般社団法人大阪府内科医会 副会長/医療法人社団宏久会 泉岡医院 院長)
関西医科大学卒業、済生会野江病院循環器内科勤務、関西医大附属病院心臓血管病センター勤務、門真市阪本蒼生病院内科部長、平成12年10月より医療法人社団宏久会泉岡医院 勤務。