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適切に抗凝固療法が行われていない例が多いのが現状
当院を受診する心房細動患者数は月に50例ほどで、心房細動患者は増えてきている印象を受けます。背景には高齢化による心房細動患者自体の増加に加え、脳梗塞の原因として心房細動への関心が高まっていることがあると思います。
心房細動患者のうち抗凝固療法が適応となる患者さんは、私の経験から言うと、7~8割ですが、抗凝固薬を嫌がる患者さんもいるので、抗凝固薬を実際に服用しているのは約6割です。しかしその一方で抗凝固療法を実施している開業医は2~3割で、残りはアスピリン投与などで対応していると思います。適切に抗凝固療法が行われていない例が非常に多いというのが現状だと思います。
抗凝固作用が変動する抗凝固薬は非専門医にとって処方ハードルが高い
これまで、ワルファリンの抗凝固作用のモニタリングにはPT‐INR(プロトロンビン時間国際標準比)が使われてきました。PT試薬のワルファリンに対する感受性は試薬間で異なるため、INRでその差異を標準化しています。ですので、PT‐INRを使用すれば試薬間、施設間の差異はなくなるはずです。しかし、当院が検査会社に依頼したPT‐INR値が、地域の基幹病院で測定したPT‐INR値に比べてかなり低く、ワルファリン投与量に換算すると0.5mgほど違ってくることがわかりました。採血から検査までの経過時間や、試薬の動物種差などによる誤差だと考えられたため、院内の簡易型迅速PT‐INR測定器を用いたところ、病院の測定値との差は認められなくなりました。ワルファリン療法を行う場合は、採血から検査までの時間やPT試薬・測定機器の違いなどといった、PT検査時の条件を考慮する必要があると思います。
ワルファリンは個体差や食物、併用薬剤の影響によって抗凝固作用が変動するため、使い方が難しい薬という印象があります。さらに、施設間でPT‐INRの値が異なる可能性があるとなると非専門医にとって処方ハードルが高い薬剤だと思います。
医療連携を促進する新規経口抗凝固薬
また、出血リスクを評価し、新規経口抗凝固薬の処方を始めるのは、ワルファリン療法に慣れていない医師にとって面倒なことだと思われます。心房細動が認められた場合はまず専門医に紹介し、適応の見極めと処方薬を決定してもらい、その後は逆紹介してもらってフォローする方が良いと思います。
新規経口抗凝固薬は通常固定用量で他の薬剤との相互作用も少ないことから、かかりつけ医の負担も少なくなり、逆紹介もしやすく、医療連携が促進されると思います。また、かかりつけ医がフォローしている最中に血圧や血糖値のコントロールが不安定になった場合も、病院との医療連携が構築されていれば、専門的な治療がスムーズに行えるのではないでしょうか。
利点を説明することで、ある程度の課題は解消できる
新規経口抗凝固薬はワルファリンよりも薬価が高いため、患者の負担が増えることを案じる意見もみられます。しかし、今の患者さんは、健康のためであれば、ある程度の支出は受け入れてくれるのではないかと思っています。1日1回1錠で済むこと、ワルファリンと同等あるいはそれ以上の脳梗塞予防効果があること、食事制限の必要がなく他の薬剤との相互作用が少ないこと、などの新規抗凝固薬の利点を説明すれば、薬価差を気にしない患者さんがいると思います。高血圧や脂質異常症の領域で、新たな作用機序やメリットのある新薬が、薬価にかかわらず普及していることを考えると、新規経口抗凝固薬の薬価を受け入れる患者さんは、医師が思うよりも多いかもしれません。心房細動になった際、医師自身が服用したいと思う抗凝固薬を患者さんにも勧めるべきでしょう。
かかりつけ医による抗凝固薬処方が脳梗塞発症を減らす
我が国における平均寿命と健康寿命との差は8年程度。これを縮めるには、寝たきりの大きな要因の1つである脳梗塞を減らすことが重要な課題だと思っています。新規経口抗凝固薬が登場し、かかりつけ医にとって、抗凝固薬処方のハードルが下がるのであれば、抗凝固療法を受ける患者さんが増え、脳梗塞発症を減らす大きな一歩になると思います。今後は、心房細動患者に対して抗凝固療法を行わない理由を問われるようになっていくでしょう。
※お話の内容は2013年7月時点のものです
泉岡利於先生(一般社団法人大阪府内科医会 副会長/医療法人社団宏久会 泉岡医院 院長)
関西医科大学卒業、済生会野江病院循環器内科勤務、関西医大附属病院心臓血管病センター勤務、門真市阪本蒼生病院内科部長、平成12年10月より医療法人社団宏久会泉岡医院 勤務。