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経口抗凝固薬の調剤と服薬指導
米国には、抗菌化学療法や抗凝固療法などにおいて、薬剤師がさまざまなモニタリングを行うことで、医師との契約に基づいて処方をオーダーすることが可能となるCDTM(Collaborative Drug Therapy Management:共同薬物治療管理)というシステムがあります。日本ではこのような仕組みはありませんが、薬剤の選択や用量、相互作用・副作用のチェック、服薬指導など、抗凝固療法における薬剤師の果たすべき役割は重要であると考えています。さらに、抗凝固薬は、特に安全管理が必要な医薬品であるハイリスク薬とされていますので、調剤に際しては薬剤の前回履歴を確認。ワルファリンではPT‐INR(プロトロンビン時間国際標準比)を、新規経口抗凝固薬ではCLcr(クレアチニンクリアランス)などの値をチェックしています。
病棟では、病棟担当薬剤師が大きな役割を担います。ワルファリンの場合は、薬効をモニタリングできるという利点がありますが、一方で導入時期に安定化するまでPT‐INRのモニタリングを何度も行う必要があります。また、PT‐INRコントロールのために、日によって異なった投与量が設定されることから、過量投与の危険性を回避するため、看護師と協力してダブルチェックも行います。さらに、ワルファリンは、併用薬やサプリメントとの相互作用にも注意が必要です。特に納豆は、1度摂取するとその影響が数日に及んでしまうため、要注意です。クロレラ、青汁、セイヨウオトギリソウなどとともに、常に注意喚起しています。
服薬指導においては、患者さんに抗凝固療法のメリットとデメリット、アドヒアランスの重要性を説明して、飲み忘れや怠薬の防止に務めています。アドヒアランスを良好に保つにためには、患者さんに治療の意義を十分に理解させること、服薬回数・服薬数を少なくすること、飲みやすい剤形・形状、患者の理解能力が低い場合は一包化すること、といった工夫が必要となるでしょう。また、病棟担当薬剤師はベッドサイドにいるので、出血症状を早期に発見し、医師と連携して重症化を防ぐという観点においても重要な役割を担っています。
新規経口抗凝固薬は、患者さんと病院の双方にメリットが
新規経口抗凝固薬は、P‐糖蛋白やCYP‐450が関係する薬剤との相互作用、腎機能などPK/PDに影響する要因がありますが、比較的安全域が広いと言えます。一方、ワルファリンは、食事制限や他剤との相互作用に注意してPT‐INRをモニタリングしていても投与量が安定しない患者さんがいます。特にCYP2C9やVKORC1の遺伝子多型があると、さらに薬効の個体差が大きくなる可能性があります。そういう意味でも、PT‐INRコントロールが難しい患者さんには、新規経口抗凝固薬がよい適応ではないかと思います。当院でも、PT‐INRをコントロールできない症例において、新規経口抗凝固薬に変更したケースや、消化器症状のリスクを考慮して新規経口抗凝固薬を選択したケースがありました。
PT‐INRによる薬効の定量化や用量調節が可能であることは、ワルファリンのメリットです。しかし、安定するまでに時間が掛かる症例やコントロールが難しい症例では、安全域が広く固定用量で管理できる新規経口抗凝固薬が有用だと考えられます。さらに、新規経口抗凝固薬は効果の発現・消失が早いため、手術や侵襲的処置・検査における抗凝固療法の再開や新規導入の期間が短く、結果的に入院日数が短くて済むので、患者さんにも病院側にとってもメリットとなります。
ワルファリンと新規経口抗凝固薬の長所と短所
患者さんの視点からすると、新規経口抗凝固薬には、食事やサプリメントの制限を気にしなくてよいという長所の一方で、薬剤費が高くなるという短所もあります。さらに、ルーチンのモニタリング検査がいらないというメリットがありますが、逆にモニタリングできないことが不安という患者さんもいますので、それぞれの理由を説明する必要があります。
臨床的に問題のない場合は、患者さんに説明をしてどちらの薬にしたいかを聞いて、患者さん自身に選択してもらうこともあるでしょう。薬の選択肢が広がることは、患者さんの価値観やニーズを満たすという意味で、進歩ではないかと思います。
また、高齢者には1回に7錠も8錠も服薬する患者さんもいますので、たとえばリバーロキサバンの1日1回1錠という用法・用量は、服用回数・服用錠数が少なくてすむという点で好ましいと思います。薬剤の飲みやすさはアドヒアランスを維持する上で非常に重要なのです。
※お話の内容は2012年11月時点のものです
木村利美先生(東京女子医科大学病院 薬剤部部長)
1986年東京薬科大学薬学部卒。北里大学病院薬剤部を経て、1993年に新医療技術導入海外研修University of Michigan Hospitals、2000年医学博士取得。2006年東京女子医科大学病院薬剤部 副部長。2009年フィラデルフィア小児病院クリニカルファーマコロジー部留学 客員教授。2010年から東京女子医科大学病院 薬剤部部長。