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若いからといって、放置は危険
抗凝固療法は、より早い時期から介入すべきだと考えています。心房細動と心房の加齢現象予防の観点から鑑みても、そのほうがよいです。紫外線をたくさん浴びて、50代半ばになってから、しみやそばかすを気にしても遅いのと同じことが、心房細動の場合でも言えるのです。
30~40代の人が会社の健診などで高血圧を指摘された際、放置してしまうことが多いようですが、この時期からしっかり降圧治療を行えば、後々発症するだろう心房細動をぐっと減らせると思っています。これが本当の意味での、“アップストリーム治療”です。
また、抗凝固療法の導入にあたり、患者教育は最も重要です。TTR(Time in Therapeutic Range:INR 至適範囲内時間)で抗凝固療法の質について評価してみると、私の外来の患者さんでは、上位7割の平均TTRが82.5%でした。つまり、逆に言えば、3割の患者さんは十分なコントロールが得られていないということになります。我々は以前からその対策として、「ワルファリン教室」という患者指導を行っています。服薬の重要性が理解されると、受講後は目標達成率が向上するという結果を得ています。つまり、「この薬は自分にとって重要な薬」「これは食べてはいけないもの、これは食べて良いもの」「飲み忘れたらどうしたらいいか」といったことをきちんと認識してもらうことが、“予防治療”では重要となるのです。
ワルファリンは中止してはいけない薬と認識してもらう
ワルファリン療法を行っている患者さんの中には、PT‐INRが4~5になる場合が時々あります。しかし、実際に出血がみられなければ、ワルファリンを1~2日止めて、徐々に元の処方量の8割程度に増やすようにしています。高齢者や、PT‐INRがかなり高いケース(PT‐INRが8~9以上)でも、十分に降圧をしながら数日入院して安静を保つことで、ビタミンK点滴で中和するよりも、合併症は随分減らせると思っています。
また、以前はワルファリンを導入したあとでかかりつけ医に戻すと、アスピリンに変更されてしまうことが結構あったので、私は患者さん本人に、「ワルファリンは中止してはいけない薬」だということを、理解してもらうよう指導しています。
患者さん個々のテーラーメイド治療が重要
たとえ話ですが、もしある患者さんから心房細動を消すことができたとしても、心房細動を発症していない人と同じになるわけではありません。単なる不整脈ではなく、全身と心房の加齢現象的変化に伴って起きてくるのが心房細動です。加齢的な変化が心房細動を発症するほど進んでいるということを見逃してはなりません。脳梗塞や、QOLの低下、心不全などに対策することになりますが、その中でも一番配慮すべき合併症は、不可逆的な変化と言える脳梗塞でしょう。
発作性心房細動では、強い動悸症状がある患者さんが多いため、抗不整脈薬による発症予防が必要になる場合がしばしばあります。持続性心房細動の場合は、いくつかの研究結果で、生命予後の観点では洞調律維持治療と心拍数調節治療のどちらを選択しても有意差はないと報告されています。ですが、ある程度若い年齢層の患者さん(たとえば70歳未満など)では、一度は洞調律維持治療を考慮してもいいと思います。
ここ数年、日本でもカテーテルによる肺静脈隔離術が数多く実施されるようになり、自覚症状の改善という意味においては、平均7割程度の患者さんに効果があるようです。しかしながら、病的部位が限定的な疾患とは違って、心房細動では心房全体に“ダメージ”があるのが基本です。ですので、カテーテルアブレーションで一部分を隔離しても心房細動が再び生じる可能性は残っていると思われます。実際には、心房細動は完全に抑え込むのはなかなか難しいのが現状なのです。
心房細動の患者さんでは、脳梗塞の予防が最重要課題です。CHADS2スコア等で抗凝固療法が必要だと判断された患者さんには、発作性や持続性、永続性にかかわらず、適切な抗凝固療法を行うべきと考えています。私の場合、CHADS2スコア1点以上は必ずワルファリンを導入しています。患者さんにはリスクとベネフィットを説明した上で「僕だったら飲むよ」と、強く勧めています。1回の指導では服薬の理解が得られないこともありますが、根気強く指導を続けていると、次第に理解してくれる患者さんも多くいます。
しかしながら、現実には抗凝固療法の普及率は十分ではなく、ワルファリン療法が行われていても良好にコントロールできていない症例が多いと思われます。心房内血栓の9割が左心耳にできるという観察から、海外では左心耳閉塞デバイスが開発されているとのこと。カテーテルアブレーションを行ったあとにこの左心耳閉塞デバイスを入れて手技を終了するようにすれば、1回の手術で、脈の乱れに起因する症状と血栓塞栓の予防ができるので、とても良いと思います。
心房細動は確かに1つの病名ですが、症状や基礎疾患など、患者さんが10人いれば10通りの病気があります。治療普及のためには、共通項を取り出し、よりシンプルな治療アプローチをとることも重要ですが、“十人十色”の疾患では、治療方針をすべてまとめて決めることは難しい。今後もしっかりとエビデンスを蓄積しつつ、患者さん一人ひとりに合わせたテーラーメイド医療をしていくべきではないでしょうか。
※お話の内容は2011年7月時点のものです
奥山裕司先生(大阪大学大学院 循環器内科/先進心血管治療学講座 准教授)
1990年大阪大学医学部卒業。大阪警察病院、米・ロスアンゼルス・シーダスサイナイ医療センター、大阪府立急性期・総合医療センターを経て、2011年より現職。日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会認定総合内科専門医。