脳卒中地域連携パスは「リハビリの継続」と「治療の継続」がキーワード
熊本市民病院神経内科では、地域のリハビリ施設との連携し、急性期・回復期・維持期までをケアするシームレスな診療体制を構築している。「熊本方式」と呼ばれるその診療体制の目的やポイントのほか、脳卒中の予防医療や、今後の展望について同病院の地域連携部長でもある橋本先生にお話いただいた。
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急性期病院の平均在院日数14日を目標に
脳梗塞の急性期医療を急性心筋梗塞並みに治療したいと思っていた私は、研修2年目に脳卒中が専門の神経内科医を目指しました。熊本市民病院に赴任した1993年当時の脳卒中急性期医療は、脳卒中専門医の中でも内科医が特に少なく、急性期から回復期まで同一施設で治療する「病院完結型」が多くを占め、急性期ベッドが不足していました。リハビリ専門医やリハスタッフも少なく、十分な急性期リハビリができないという問題も抱えていました。
1998年ドイツへ短期留学しました。その際、留学先の脳卒中専門病棟の平均在院日数は5.3日。驚きました。神経内科全体でも8日です。熊本市民病院に私が赴任した1993年当時の神経内科の平均在院日数は30日でしたから、帰国後は積極的にチーム医療の推進に取り組みました。地域医療資源を有効活用するという観点から、かかりつけ医との前方連携、リハビリ専門病院との後方連携、専門病院との水平連携の診療ネットワーク構築を推進し、「急性期病院の平均在院日数は14日」を一つの目標としました。その結果、2000年からはようやく、平均在院日数が14日を割るようになりました。
当時の脳卒中パスの原型はまず看護師が作り、1996年に済生会熊本病院でパスとして仕上げられました。当初は、「14日では脳梗塞を診るのは無理だ」「ベルトコンベア医療」といった声も上がりましたが、その時の苦労が、今の脳卒中診療システムや地域連携・病診連携ネットワークのベースになっているのだと思います。
シームレスな診療体制「熊本方式」
当院の神経内科では、地域のリハビリ施設との連携のもと、急性期・回復期・維持期までを継続してケアする「熊本方式」というシームレスな診療体制を構築しています。
脳卒中地域連携パスには5つのポイントがあり、「リハビリの継続」と「治療の継続」がキーワードです。
- どの症例でも十分にリハビリが受けられる
- どの地域でも使える地域連携パス(よりシンプルに)
- 地域で1種類の地域連携パス
- ゴール設定は在宅を十分に考慮する
- 現在の院内パスをそのまま利用する(それぞれの病院のパスを包括したもの)
熊本方式では、リハビリの継続は回復期リハビリを3つのコース(軽障・標準・重障)に、維持期リハビリを2つのコース(標準・重障)に分けています。
回復期では、
- ADL(日常生活動作)が在宅可能、在宅の準備ができている
- 回復期のリハビリ効果がプラトー(機能回復の限界・停滞状態)であること
- 維持期への準備ができていること
維持期では、
- 在宅の準備ができている
- 維持期のリハビリ効果がプラトーであること
を退院、転院の基準にしています。
治療の継続は、非弁膜症性心房細動(NVAF)でのワルファリン治療は、PT-INRを70歳未満は2.0~3.0、70歳以上は1.6~2.6を目標値としています。
この地域連携パスを2007年からスタートさせ、今では約700名もの集まりになりました。一堂につどっての議論が難しくなったため、分科会を作りました。また、紙ではデータ収集が十分に稼働しなかったため、電子版地域連携パスを構築して脳卒中データバンク、リハビリデータバンクとリンクし、活用できるようになりました。
残っているのは在宅の問題です。2010年の診療報酬改定でやっと診療所に点数が与えられましたので、この地域連携パスにかかりつけ医の先生が入ってくれるようになりました。
脳卒中地域連携パスの目的は、
- 脳卒中の発症から在宅までの治療計画を作成、患者に説明する
- 参加病院、施設の質の向上、治療の標準化
- 脳卒中治療の継続とリハビリ継続による地域全体の脳卒中再発予防とQOLの向上
です。
機能分化や地域連携によって、地域の多くの患者さんが広く平等に良い治療を受けられる、各ステージの医療が機能を発揮できる、救急の受け入れ拒否を回避できるなどのメリットが得られます。
脳卒中に対しては「地域連携パスは地域に一つ」ということがほぼ達成できているのに比べて、頚部骨折などの他の疾患では理想の連携にはまだ遠い状況です。そして、疾患毎に連携の会が数多く立ち上がったことで、連携会議が多すぎたり、会の重複といった課題なども見えてきました。
生活習慣病を上流で食い止める
脳卒中の予防では、血圧・血糖値・脂質コントロール、理想体重の維持、適度な運動、禁煙、抗血栓療法といった、多角的なアプローチが大切です。中でも禁煙は予防効果が高く、Framingham研究では、喫煙者が禁煙した場合、脳卒中になる危険性は5年で非喫煙者と同等になるとの報告があります。また、JACC Study(The Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk)では10年と報告されています。
禁煙啓発には積極的に取り組んでおり、「くまもと禁煙推進フォーラム」を設立し、2011年9月より、熊本市で学校敷地内での禁煙を行ったり、脳卒中週間に市民講座を開催したり、街頭で脳卒中リスクの無料検査を行ったりしました。重要なのは生活習慣病を上流(不適切な食生活、運動・睡眠不足、ストレス過剰、多量飲酒、喫煙)で食い止めることなのです。
医療格差を是正、脳卒中治療の均霑化に取り組む
「均霑(きんてん)」とは、生物が等しく雨露の恵みに潤うことをいうのですが、医療連携においてもこの「均霑」がキーワードになるのでは、と思っています。
急性期・回復期・維持期の各ステージの機能が十分発揮されることにより、救急受け入れ拒否を回避することができます。患者さんを一人断ってしまったら治療は失敗なのです。
地域連携を始めた際、「急性期病院が救急車を断らなくて済むように頑張ります」とリハビリ病院が約束してくれました。私たちは、「リハビリテーションと医療連携は救急医療を守ります!」をキャッチフレーズに、どこにいても等しく専門医療が受けることができ、医療格差を正していく、脳卒中治療の均霑化に取り組んでいます。
※お話の内容は2011年7月時点のものです
橋本洋一郎先生(熊本市立熊本市民病院 診療部長・神経内科部長・地域連携部長)