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ひとたび脳梗塞を起こすと発症リスクは倍々に
CHADS2スコアでは1回脳梗塞を起こすとプラス2点になります。つまり、CHADS2スコア0点の人は2点に、1点の人は3点になるということです。
これを脳梗塞発症率でみると、発症率が1.9→4(CHADS2スコア0点→2点)、2.8→5.9(CHADS2スコア1点→3点)となり、“倍々ゲーム”で発症率が上がってしまいます。
このことから、1回脳梗塞を起こした母集団は、一次予防に比べて2倍の発症リスクを背負っていると言えます。それが二次予防の抱える特徴と問題点です。
さらに言うと、CHADS2スコアは脳卒中の発症リスクの評価であって、発症した際の重症度とは関係がありません。ですから、再発を防止することがとても大切なのです。
服薬を継続することが再発防止の大きな力
しかし、脳梗塞を一度発症しているにも関わらず、抗血栓療法を中断してしまい、再発する患者さんが多いという現実問題があります(臨床神経学51(1),35-37,2011より)。日本脳卒中協会が行ったインターネット調査では、脳梗塞患者の5人に1人が自己判断で通院を止めており、4人に1人が薬剤の服用を中断もしくは中止、さらには3人に1人が生涯服用の必要性を理解していないという結果が出ています。打撲などでちょっとした皮下出血があると服薬を止めたくなってしまう患者さんが多いようです。しかし、その際には、服薬中止による危険性などをしっかり説明し、中止する際には必ず医師に相談するよう説明することが大切です。
「抗血栓薬 勝手に止めれば 悔い残る」。風邪薬を処方されて、風邪が治ったら服薬を止める、胃薬を処方されて、胃の調子がよくなれば止めてしまう。そういった感覚ではなく、「死ぬまでずっと飲まないといかんとです」と言わなければいけません。
急性期に心疾患を発見できるかどうかがポイント
熊本市民病院では、CTとMRIを24時間稼動、脳梗塞急性期患者にはrt-PA静注を行い、入院直後から二次予防を開始しています。感染対策や栄養管理に集中して血管内治療や外科治療を行い、早期離床・早期リハビリを目指します。
迅速な治療を行うためには、まず、急性期に心疾患を発見できるかどうかがポイントです。救急診察で病歴を聞いて、過去に発作性心房細動の経験があれば、それに対応した治療を行います。
心原性脳塞栓症の場合は、発症3時間以内であればrt-PA静注を行い、脳保護を目的に適応があれば24時間以内に、フリーラジカルを除去する効果のある脳保護剤エダラボンの投与を開始します。脱水になると心内血栓ができやすいので補液することが重要ですが、心不全を防ぐため補液量のバランスに注意しなければなりません。
発症から24時間後にCTをして、脳出血がなければヘパリン、ワルファリンを使用します。ワルファリンを早く効かせることが、心原性脳塞栓症の治療のポイントです。
それとやはり、再発予防をきちんとすることが重要です。禁煙、減塩、減量を行い、お酒は適量を守る。高血圧、糖尿病、脂質異常症を治療しながら、理想体重を守って運動を心がけてもらいます。
近年、大きく変化した抗凝固療法
ワルファリンは、現在広く使われている良い薬ですが、PT-INR測定や食事制限があり、他剤との相互作用や出血リスクなど様々な問題を抱えています。ですので、脳卒中を診ている医師は、ワルファリンに代わる経口抗凝固薬を待ち望んでいました。
新しく登場した経口抗凝固薬は、ワルファリンと違ってXa因子やトロンビンを特異的に直接阻害するので、ワルファリンの持つ問題点が解消され、非常に嬉しく思っています。
ダビガトランの登場で抗凝固療法は大きく変化しましたが、その一例を紹介します。
狭心症、左小脳梗塞、突然性難聴の既往歴があり、慢性心房細動、高血圧、糖尿病の現病歴のためワルファリンを服用していた患者さんです。夕食中に突然、上下肢麻痺などの症状が出現し、当院に救急搬送されてきました。入院時の身体所見では、脳卒中評価スケール(NIHSS:National Institutes of Health Stroke Score)が17点、PT-INRは1.39。rt-PA療法とエダラボン投与でNIHSSは翌日に0点となり、CTで出血がなかったので、翌日からダビガトランを開始しました。以前までですと、ヘパリンを24時間継続する必要がありましたが、エダラボンの点滴を5日目で終了、10日後には一人で歩いて退院しました。
ただし、ダビガトランは非弁膜症性心房細動(NVAF)しか適応がなく、元気で意識がしっかりしており、嚥下に問題のない患者さんに対してしか使えません。また、立ち上がりが速い一方で、抜けるのも速いので、飲み忘れに気を付ける必要があります。PT-INR測定がないのは大きなメリットですが、一方で「効いている実感」が薄いために有難味がなくなるのです。治療モチベーションを上手に保てる指標が欲しいですね。新規経口抗凝固薬は、患者さんにとっても医師にとっても期待できる薬ですから、きちんと服薬してもらえるよう、アドヒアランス対策を練っておくことが重要です。
※お話の内容は2011年7月時点のものです
橋本洋一郎先生(熊本市立熊本市民病院 診療部長・神経内科部長・地域連携部長)
1981年鹿児島大学医学部卒業。同年、熊本大学医学部第一内科。1984年国立循環器病センター内科脳血管部門。1987年熊本大学医学部第一内科助手。1993年熊本市立熊本市民病院神経内科医長。1998年同院神経内科部長。1998年9月~12月ドイツ・ハイデルベルグ大学医学部神経内科短期留学。2010年同院地域連携室長兼任。2011年同院診療部長/地域連携部長・神経内科部長兼任。