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家族の理解と協力が治療を成功させる鍵
心房細動の背景因子は、8割が高血圧で占められますから、何よりもまず重要なのは、血圧コントロールです。130mmHg前後に管理するのが理想的ですが、あまり厳しくしても患者さんの治療に対するモチベーションが下がりますので、症状や検査結果をみながら、血圧が上がったら降圧剤を増やすような対応をしています。
また、PT-INRは、ガイドライン通りでなく、1.6~2.6を目標にしています。この目標で血圧をきちんと管理していれば2/3の患者さんは安定していますし、TTR(治療域内時間)の平均は58%(2010年6月調査結果より)でした。但し、この数値はガイドラインに沿って計算したもので、1.6~2.6を目標値として計算するとTTRは77%くらいに引き上がります。このように、解釈によって数値が異なってくるので、実際の臨床ではTTRの数値自体はあまり気にすることなく、「限界はあるが、努力すれば上がる」程度に位置づけています。
さらに、ワルファリンに抵抗がある患者さんの場合ですが、家族の方にPT-INRの意味を理解していただき、家族から患者さんに説明してもらうとうまくいきます。食事指導や生活指導においても、家族やキーパーソンが重要な役割を果たします。先ほどの一人暮らし高齢者の経験からも言えることですが、ワルファリンの治療は、家族をはじめとする、治療に関わる人を増やすことが結果的に事故を減らすことにつながります。
心房細動は内科医も診る時代に
心臓血管研究所では、私が診ているだけでも月間250人以上の心房細動の患者さんがおり、新患患者の割合としては病院全体の1割以上が心房細動です。また最近は、カテーテルアブレーションのための入院・紹介が増えています。これは、心房細動の知識が一般内科医にも広がり、「一般内科で診る心房細動」と「専門医に送る心房細動」が分けられたためだと思います。2005年頃までは、心房細動は循環器医へ紹介する、という時代でしたが、現在は内科医が診る時代になりつつあると言えるでしょう。
背景因子からみると、高血圧、糖尿病、加齢に伴う心房細動が多いですね。また、6~7割の患者が高血圧を合併しています。初診者の平均年齢は70歳弱ですから、CHADS2のスコアから見ると、あと数年で1点追加される人たちです。このような現状を踏まえて、高齢者の増加に対応し、心房細動を診られる医師がさらに増えるよう啓発することも専門施設・専門医の役割かもしれないと考えています。
新規経口抗凝固薬の登場は治療選択をシンプルにした
新規経口抗凝固薬の登場は、「明治維新」と言っていいと思います。ワルファリンを使用する際の複雑さが解消されますし、CHADS2スコアが低いケースの判断に迷うこともなくなります。つまり、専門医以外でも心房細動を診ることができるようになるということです。あとは血圧をきちんとコントロールして、症状がなければ継続する、症状があればカテーテルアブレーションと、非常にシンプルなストラテジーとなることでしょう。治療法の選択肢として、カテーテルアブレーションと薬剤が同レベルになったとも言えます。「ワルファリンを飲まずに済むのでカテーテルアブレーションをやる」という、従来の、ある種誤った考え方は消えていくでしょう。それも新規経口抗凝固薬がもたらす大きな改革だと思います。
かかりつけ医と専門医が役割分担して治療にあたる
ここ20年間で、心房細動の治療薬は続々と新しい抗不整脈薬が登場した一方で、治療が複雑化しました。そのため、これまでは心房細動を見つけた時点で専門医へ紹介することが多かったと思います。しかし今後は、心房細動の治療はシンプルになり、誰もが診ることのできる疾患となると思います。「心房細動は特殊な病気ではないから恐れるな」と言いたいですね。
新しい抗凝固薬が広く使用されるようになれば、背景因子を取り除く治療、脳梗塞の予防を、一般内科などのかかりつけ医で診る。心不全の心房細動や抗不整脈薬が効かない人を、専門医へ紹介するようになると思います。かかりつけ医と専門医がそれぞれ役割分担し、通常の診療はかかりつけ医、年に1回程度、専門医でチェックするという理想のシステムに近づくと考えています。新規経口抗凝固薬が一般内科医・専門医にとって、そして何より患者さんにとって福音となることを期待しています。
※お話の内容は2011年4月時点のものです
山下武志先生(心臓血管研究所 常務理事・研究本部長)
1986年東京大学医学部卒業。内科研修医を経て1988年東京大学医学部附属病院第二内科。1994年大阪大学医学部第二薬理学講座、1998年東京大学医学部附属病院循環器内科助手。2000年心臓血管研究所第3研究部長、2006年同研究本部長、2009年より同常務理事・研究本部長。日本心電学会(理事)、日本不整脈学会(理事)。