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心房細動の診断と治療は、「生命予後」「脳梗塞」「生活」から考える
まず、心房細動と診断確定してから治療方法を決めるまでについてですが、患者さんの「生命予後」「脳梗塞」「生活」の、3つの観点から考えています。心電図を正常にすることを目的に治療を行っても、患者さんの生命予後がよくならないことは、今までの多くの大規模臨床試験でも示されています。心房細動以外の背景因子がどれだけうまくコントロールできているかが重要です。例えば心不全の心房細動ならば心不全のコントロール、高血圧の心房細動は血圧のコントロール。これらが生命予後を左右することになりますので、しっかり診る必要があります。
実際の診療現場ですと、どうしても心電図に左右されがちですが、まずはCHADS2スコアで背景因子をみて、脳梗塞予防をするべきかどうかを考え、心電図に目を向けるのはそれからで十分だと考えています。
CHADS2スコアは医師・患者間の共通言語
CHADS2スコアは、医師にとっても患者さんにとっても分かりやすい指標です。患者さんへの説明の際、CHADS2を使って、「あなたは点数が2点ですから、年間の脳卒中発症率は4%です」「4点なので、年間脳卒中発症率は8%ですよ」と説明すると、患者さんはきちんと理解して「薬をきちんと服用しなければ」と考えてくれるようです。つまり、心房細動治療において、医師と患者さんの間にCHADS2スコアという共通言語ができたわけです。医師・患者間のコミュニケーションが円滑にした点で、CHADS2スコアの果たした役割は大きいと言えます。
但し医療は、「エビデンス」「医師の診療経験」「患者の嗜好」の3つが整って初めて成立すると思っています。ゆえに、単純にCHADS2スコアのみを指標とするわけではなく、これまでの診療経験の中で、C(心不全)、H(高血圧)、D(糖尿病)それぞれのスコアの意味を考え、スコアの捉え方を変えていいと思います。
例えばですが、私の場合は、血圧コントロールがうまくいっていれば、Hは「0.5」、HbA1cが7以下ならDは「0.5」と考えます。一方で、既往に脳卒中や一過性脳虚血発作があれば、CHADS2スコアに関わらず、ワルファリンを使用します。
また、CHADS2スコアが3点であっても、患者さん本人が「ワルファリンを飲みたくない」というようなケースもありますが、希望を尊重して対処しています。患者さんの嗜好も重要な側面だからです。「エビデンス」「医師の診療経験」「患者の嗜好」、それぞれが役割を持ち、三位一体となってバランスがとれていれば問題ないと思います。
近年、CHA2DS2-VAScスコアが新たに提唱されましたが、こちらは学術的な評価法と考えています。CHADS2スコアの1点は、ほとんどがCHA2DS2-VAScスコアでは2点以上になります。「CHADS2スコア1点の患者には脳梗塞予防を」というメッセージと同様で、共通言語の線引き・敷居の高さが変わっただけという理解です。ただ、実際、患者さんに対して使用するには複雑すぎるので「共通言語」にはならないと思っています。
「一次予防」=「一次治療」であることを忘れない
久山町研究における2000年までの心原性脳梗塞の死亡率をみると、1カ月では25%、1年では50%。つまり、心原性脳梗塞になってからでは遅過ぎるのです。発症したときに、もう運命は決まってしまうと言っても過言ではありません。ですから、心原性脳梗塞では、予防が最重要であることをしっかり認識していただきたいと思っています。
また、一次予防は「一次治療」にもなっていることを忘れずにいただきたい。例えば、ワルファリンを服用していても脳梗塞を発症する可能性はあります。しかし、発症した際にワルファリンが効いていた方は、退院・自立生活ができる確率は半分以上、予後が極めて良いことがわかっています。一方で、脳梗塞を発症したときにワルファリンを服用していない方では死亡率は2倍となり、半分以上の人が要介護になります。この差は非常に大きい。ですから、「一次予防」というと、予防だけをしているように思えますが、まったく違います。予後という観点からすると「一次治療」と考えていいと思います。
高齢者患者のワルファリン治療の難しさ
心房細動治療の一番難しい点は、ワルファリンです。これまでに苦労した経験として、一人暮らし高齢者のケースが挙げられます。この方はご自分の治療に対してご理解があり、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)を測定しながら薬を増量し、状態は安定しているように見えました。しかし、突然脳出血を起こして倒れて当院に運ばれて来ました。結局患者さんは亡くなってしまったのですが、家族がいらっしゃらなかったので、正しく薬を服用していたのか、前兆となる症状があったのかなど、倒れるまでの状況がまったくわかりませんでした。この経験から、継続的な観察を必要とするワルファリン治療は、一人暮らしの高齢者には不向きだと感じました。
さらに、ご高齢の患者さんには他剤との飲み合わせについても、細やかな注意が必要です。ご高齢の患者さんは複数の科にかかることが多く、処方されている薬剤すべてを把握するのが難しい。その点においては総合病院やかかりつけ医のほうが向いていると思います。
※お話の内容は2011年4月時点のものです
山下武志先生(心臓血管研究所 常務理事・研究本部長)
1986年東京大学医学部卒業。内科研修医を経て1988年東京大学医学部附属病院第二内科。1994年大阪大学医学部第二薬理学講座、1998年東京大学医学部附属病院循環器内科助手。2000年心臓血管研究所第3研究部長、2006年同研究本部長、2009年より同常務理事・研究本部長。日本心電学会(理事)、日本不整脈学会(理事)。