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「看取り」から始まる医療がある~“大病院だけのハナシ”ではない臓器提供の実態 第1回

読了時間:約 4分23秒  2013年06月25日 AM11:30
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第1回 患者側の臓器提供意識の高まり。そして医師側の誤解・先入観の高止まり


著者の吉開医師

医療従事者が「移植、臓器提供」の言葉を見聞きしますと、どのような思いが真っ先に浮かぶでしょうか。大変そう、面倒だ、問題が多い、関わりたくない、トラブルに巻き込まれる。このようなマイナス側の印象が多いでしょう。一方で、ぜひ日本国内で推進すべきだ、自分自身が積極的に関与したいと思う方は、ごく稀でしょう。

私は、一般病院に勤務する脳神経外科医師であり、特に移植医療の教育を受けたことは無く、また移植医療に積極的に取り組むよう勧められたこともありません。

かつて私は、移植医療を何か「うさん臭い」ものと考え、移植専門医師らが、脳神経外科医師が助けられなかった脳死患者の臓器を漁(あさ)りに来るとは失礼千万な、と考えていました。しかし2004年、心停止下腎臓提供に偶然関ったことをきっかけに、移植医療に関する誤解や偏見を払拭し、更に自身の了見の狭さを恥じました。そして同時に、日本の移植医療が発展しづらい理由、特に臓器提供側の情報が国民に十分に知らされていない事情を理解し、臓器提供側から見た諸問題の解析を元に啓発活動を始めました。

■今、どれだけの移植待機者と臓器提供者がいるのか?

移植を待つ患者の多くは腎臓希望者

(クリックすると大きな画像を見ることができます)

日本臓器移植ネットワークのホームページ(http://www.jotnw.or.jp/)には、移植医療についての多くの情報が掲載され、特に臓器ごとの移植待機者数や提供者数が、毎月更新されています。

それに依りますと、移植待機者総数13,681名の内、心臓約250名(全体の1.9%)、肺約200名(1.5%)、肝臓約400名(2.8%)、小腸2名(以上、脳死下でのみ提供可能な臓器)、腎臓約12,500名(92%)、膵臓約200名(1.5%)(以上、脳死下でも心停止下でも提供可能なふたつの臓器、諸事情あり心停止下では主に腎臓が提供される)であり、変動はほとんどありません。

日本では、臓器提供は脳死でのみ行われる、脳死は人の死と思わなくてはならないなどの誤解から、「移植問題は即ち脳死問題」と直結して考えられています。しかし本当は、臓器移植の王道は心停止下提供であり、脳死下提供は非常に特殊な場合に限られる手段なのです。

法改正後、心停止下提供は逆に減少

(クリックすると大きな画像を見ることができます)

では、提供数はどうでしょうか。患者ご本人が臓器移植意思表示カードを持たなくとも、ご家族の同意のみで脳死下提供を可能とした改正臓器移植法が、2010年7月に施行されました。

旧法下での臓器提供数は、直近5年間の平均で脳死下提供約10名、心停止下提供約94名でしたが、改正法下では、脳死下提供が2011年に44名、2012年に45名と増加しました。しかし、心停止下提供は同68名、65名と減少してしまいました。その結果、脳死下で提供される心臓、肺、肝臓の数は3~4倍に増えましたが、腎臓は旧法下の年平均182件から改正法下の202件へと微増にとどまりました。更に2013年度は、過去2年間と比べ脳死下心停止下のいずれの提供数も減少の傾向にあり、臓器提供の機運が単なるブームに終わるのではと懸念されます。

しかしこのような、必要とされる臓器数や実際の提供数などのデータがメディアで報じられることは稀であり、医療従事者でさえ興味を持つことは少ないでしょう。まずはこのような臓器提供の貢献の意義を、データに基づき国民に解説することが、啓発の第一歩と考えています。

■個人的嫌悪感によって、臓器提供への関与を忌避する医療従事者たち

「臓器提供したい」人は年々増えている

(クリックすると大きな画像を見ることができます)

では医療従事者は、移植医療問題にどのように取り組むべきでしょうか。

改正法後2年4ヶ月間の脳死下提供114件中、本人のカード所持が22件、カード所持なしでの家族同意下提供が92件(カード所持の4倍)でした。

日本国民の臓器提供同意のカードの所持率は約10%と言われていますので、上記のデータから、家族同意率は約40%と想定されます。つまり、お亡くなりになる方やそのご家族の実に半数は、臓器提供を同意することになります。さらにほとんどの日本国民は、カードに提供の意思を記入すれば、必ず臓器提供がなされるものだと思っています。

しかし現実には、そんな、医療従事者の「嫌だ、面倒だ、関わりたくない」などの主観が障壁となり、国民の臓器提供への貴重なご意思はほとんど実現されることなく、闇に葬られています。

人を助けることを職業上の使命とする医療従事者たちは、臓器提供をすることで人の役に立ちたいと願う人たちと、その臓器を受けて元気になりたいと願う人たちが現にいることを理解し、その間を取り持つべきなのです。医の道のプロが、面倒だから忙しいからなどの個人的な主観を盾に臓器提供への関与を忌避する間に、どれほど大勢の方々が移植の夢叶わずに亡くなっていったかを敢えて無視することは、プロとして正しい態度ではありません。

また、死に際に体を切って臓器を取り出すなんて残酷で可哀想だ、臓器提供は救命医療の敗北だなどと考え、カード確認や提供意思の有無確認(オプション提示)を避ける医師も多くいます。しかし、臓器提供に同意するか拒否するかはご本人やご家族が決めることであり、他人である医療従事者が勝手に憶測し拒否することは許されません。目の前の重症救急患者は救えない、その時に、今まで一度も会ったことがない待機者たちを救うことを考える。これこそが、医療従事者が心すべき最大のポイントではないでしょうか。

私は過去7年間に計100回以上の学会発表や講演活動を行ってきました。その中で、自分は絶対に臓器提供に関与しないと明言する大学の指導者、臓器移植の勉強会に自分の医局医師らの参加を禁じた大学の指導者、脳死患者がカードを所持しそのご家族も臓器提供を望んだにもかかわらず「死体に貸す手術室はない」と拒絶した救急専門医師、臓器提供を手がけていると臓器を奪い獲る病院だとの風評が広まると危惧する病院長、移植医療をハイエナやハゲタカと表現する部長医師ら、オプション提示が治療を諦めたとの宣言となるから敢えて行わないと明言する病院長、そのような残念な例を多く知りました。

これらは、当該医師ら個人の問題ではなく、臓器提供についての広く正しい教育がなされていない結果なのです。

次回は、移植法改正に伴う多くの問題点の推移などを解説したいと思います。

※文中で使用しているスライドは、『医療ボードpro』へのダウンロード使用可能です(無料)。
『移植医療(脳死下・心停止下提供)の実際』

吉開 俊一(国家公務員共済組合連合会 新小倉病院 脳神経外科部長)

1984年 九州大学医学部卒業
1991年 臨床大学院課程修了、医学博士取得
1993年 日本脳神経外科学会専門医取得
その後、脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍など、主に脳神経外科救急領域にて従事
2009年より現職

著書:移植医療 臓器提供の真実 ―臓器提供では、強いられ急かされバラバラにされるのか―