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内視鏡下の生検や観血的処置は、抗血栓薬中止から継続へと書きかえられつつある
頭蓋内出血で運ばれてきた患者さんが、ワルファリン投与中であるケースは少なくありません。頭蓋内出血、特に脳内出血や硬膜外出血の場合は、何よりもまず血圧を下げ、次に、第IX因子複合体製剤を使用します。第IX因子複合体製剤には保険適応がありませんので患者さんへの十分な説明が必要です。INRを下げるためにビタミンKを投与しても効果が出るのに半日から1日かかります。新鮮凍結血漿を使うことも考えられますが、ワルファリンを投与されている患者さんの多くは心臓が悪く、1時間あたり60ccくらいしか入れられないことから、必要量の800ccの投与には、こちらも1日かかってしまう。したがって、ビタミンKを入れて、第IX因子複合体製剤を投与するのが一番の道だと思います。
PCI後のステント内血栓の予防法は、抗血小板薬2剤の使用がエビデンスとして確立しています。抗血小板薬は心原性脳塞栓症の予防に効果はありませんから、予防が必要な際は、抗血小板薬2剤+ワルファリン(計3剤)という選択となります。当然、出血リスクは高くなるので血圧を下げることが非常に重要です。
ただし、患者さんが歳を重ねて85歳、90歳になった場合には、出血リスクがさらに高まるため、抗凝固薬1剤も考慮します。抗血小板薬に抗凝固薬の代わりはできませんが、抗凝固薬は抗血小板薬の代わりがある程度できるからです。欧米のガイドラインにはこの考え方がとり入れられつつあります。
小手術や観血的検査などの場合は、ガイドラインに従います。日本循環器学会の抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインの2009年改訂版では、抜歯と白内障は、「止めない」と書き入れています。これを、一般に啓発していくことが今、最も必要と思われます。大手術は止めざるを得ないわけですが、リスクが伴うことを念頭に置かなければなりません。内視鏡下の生検や観血的処置は、抗血栓薬中止から継続へとガイドラインが書きかえられつつあります。
いずれにしても、出血を伴うような小手術や検査を行う際は、患者さんに対してどのような対処法があるか具体的な選択肢を提示して、十分な説明をすることが重要です。患者さんの意識を高め、患者さん自身の決定権を尊重することです。たとえば抗血栓薬を中止する場合、当センターでは2008年より全員から同意書をもらうことにしています。
九州医療センターにおける脳血管障害患者の実態
設立当初から、地域医療支援病院であることを強く打ち出している九州医療センターには、紹介されて来院する患者さんが多く、脳卒中については「急性期は電話一本で全部受けます」と明言しています。
当センターでは、急性期の症例の場合はまず、SCU(Stroke Care Unit:脳卒中集中治療室)に収容します。その後、病態が落ち着いたら一般病棟へ。脳卒中の急性期はひじょうに病状が変わりやすいので、一過性脳虚血発作(TIA)や軽度の脳梗塞であっても全員SCUに収容しています。
また、積極的にクリティカルパスを用いて、地域連携医師と密に連絡を取り合い、入院患者さんのスムーズな転入・転出に努めています。軽症の患者さんや回復期を経過して退院した患者さんについては、基本的にはかかりつけの医師が診察し、年に1度、当センターでMRIなどの検査を受けてもらって、その情報をかかりつけ医と共有しています。福岡市医師会が連携パスを用いて、回復期のリハビリを担ってくれる病院約20施設と連携をしています。
新規経口抗凝固薬を採用する際のメリットと注意点
新規経口抗凝固薬を使うことのメリットは、患者さん・医師・病院、それぞれの管理が簡単になることです。患者さんは食事の制限がなくなります。INR測定のわずらわしさがなくなり、また、新規経口抗凝固薬は吸収が速いので在院日数も短くて済むのは、医師、病院にとってもメリットになります。
ただし、新規経口抗凝固薬は半減期が短く、周術期の管理がより楽になる一方で、飲み忘れの問題が生じるため、患者さんへの啓発が必須です。
今後の要望としては、出血に対する取り組みをしっかり行って欲しいですね。症例を登録して、出血の際の転帰・治療を開示し、データを積み重ねることで、より安全な抗凝固療法が発展していくと思います。
当センターでは、2011年11月時点で、70人ほどが新規経口抗凝固薬へスイッチしています。採血が少なくなることや薬価のことよりも、「納豆が食べられる」と喜ぶ患者さんが多いですね。これは食べても大丈夫かどうかと、食事の度に心配しなくてはならないのはストレスですからね。
外来治療で、出来うる限り出血リスクを減らす
頭蓋内出血が少ないことは、新規経口抗凝固薬の持っている特筆すべき性質です。しかし、出血リスクがゼロになるわけではありません。ですので、外来治療の際に出来うる限り出血リスクを減らしていくことが重要だと思っています。
私は普段から、以下の4点をセットにして外来で患者さんに伝えています。
- 血圧管理(最重要)
- 血糖管理(出血の有無には関係ないが、出血があった際に血腫が大きくなる)
- 禁煙(煙草は頭蓋内・脳内出血リスクを2倍、くも膜下出血リスクを3倍にする)
- 飲酒(過度は慎む)
日々、患者さんへ心配りすることで頭蓋内出血リスクを抑えることができます。新規経口抗凝固薬の登場により出血リスクが軽減され、ベネフィットを患者さんが享受できるようになることを期待しています。
※お話の内容は2011年4月時点のものです
矢坂正弘先生(国立病院機構 九州医療センター 脳血管センター 脳血管内科科長)
1982年熊本大学卒業。1985年~2005年まで国立循環器病センター脳血管内科勤務、途中1994年から2年間メルボルン大学オースチン病院神経内科で脳血流や脳神経超音波に関する臨床研究に従事。2005年から現職。専門は脳卒中学、抗血栓療法学、脳神経超音波学。