患者との間でトラブルを起こす職員はだいたい決まっている。でも、「せっかく採用できたのに、下手な叱り方をして辞められては困る」と内心ひやひやしながら指導している院長も多いのではないだろうか。そもそも院内での患者トラブルとは、どの程度発生しているものだろうか? 「院長」に対するアンケート調査でその実態を確認してみよう。(データはいずれもQLife調べ、N=283)
医療機関の職員は、近年「モラルダウン」気味
この10年間で医療スタッフのモラルはどう変化したのだろうか? 院長達に訊いたところ、「モラルは向上した」21%に対して「モラルは低下した」27%、つまり下がったとする院長の方が多い。特に大規模医院ではモラルダウン割合が大きく、40%にのぼる。ただし医院の経営状況によって差があり、「収益好調」な医院はモラル向上している傾向にある。
面白いのは、職員が忙しく働いている医院ほど、モラルアップもダウンも増える傾向にあることだ。仕事がキツいほど、モラルに差が出やすいのは、まさに経営の妙と言えるだろう。
具体的なモラル変化の「内容」を見ると、まず「向上」派では、「接遇レベル」と「個人情報取り扱い意識」の二つに言及する院長が多い。一方、「低下」派では「自分勝手に休む、辞める」ことを批判する院長が多い。ただし後述するが、「スタッフが休みたい時に休めるようにする」ことに腐心しそのための工夫をしているタイプの院長も多く、このような院長達にとっては「自分勝手に休む」のが即モラルの問題とは言えないわけで、ここに大きな意識ギャップが垣間見える。
モラル「向上」派の意見例
- 説明が詳しくわかりやすくなり、横柄な態度ではなくなっている。役所的ではなくなっている。(小規模/男性 53歳 兵庫県)
- 患者さんに対する説明責任などの意識が上がっている。(小規模/男性 49歳 滋賀県)
- 接遇のレベルはサービス業としての平均以上に向上していると思う。以前なら、患者さんや家族の、構成や疾患の話題を、仲間内で話していることもあったが、今は、個人情報に関することの話題は、意識的に触れない。(大規模/男性 51歳 香川県)
- 守秘義務について、一定の理解をした職員が増えている。(個人規模/男性 34歳 愛知県)
- 個人情報の取り扱い、弱者に対する対応等が自発的に行われている。また、患者さんのことを話題にしない。(小規模/男性 59歳 長崎県)
- 個人情報に関する意識が一般的なことも含めて高い。(小規模/男性 47歳 宮城県)
モラル「低下」派の意見例
- 髪型、服装が注意されないとひどい茶髪がいる。空いている時間はぼ~っとしたり、スタッフ同士で雑談をしている。医療従事者であっても「社会や人のため」に働いているのではなく「生活のため」というスタンスの人が増えた。(中規模/女性 40歳 千葉県)
- 権利の主張が多い。忙しい時でも平気で有給休暇をとって休んだり、雇われているという意識がうすく、上司の命令でも言う通りにしない。(個人規模/男性 65歳 高知県)
- 応募してくる職員の質が年々下がっている感じがする。身だしなみ、言葉遣いなど。「医療機関で働くということがどういう事を意味するのか」を分かっていない人が多い。(小規模/男性 49歳 北海道)
- 自分の都合で突然に欠勤、退職する。(個人規模/男性 60歳 徳島県)
- 自分の都合だけですぐやめる。金をかせぐことしか考えない。看護婦の質がとくに低下している。(小規模/男性 48歳 奈良県)
- 愛想がなかったり、茶髪やマニキュアのした長い爪、派手なピアスに指輪など身なりのモラルが下がっていると思う。(個人規模/女性 45歳 東京都)
「患者トラブル」は、ヒマ過ぎるとかえって増加
注:トラブルとは、院長からみて「職員側に非がある」ものに限定
患者トラブルは、毎月発生しているような多発医院から、「まったくない」と言い切る医院まで、その頻度はかなりバラバラだ。個人規模医院ではトラブルが少ないところが多いが、規模が大きくなるほどトラブル頻度は高まる。
面白いのは、収益性が良い医院の方がトラブルは増える傾向にあることだ。職員数・患者数が多い医院ほど接触数は多く、また人気医院ほど来院者の期待値も高くなって、良くも悪くも「うるさい客」が増えるために些細なミスも許してもらえなくなるからだろう。
なお「一人あたり仕事量」をみると、過多(忙し過ぎ)の医院にトラブルが多いのは当然だろうが、過小(暇過ぎ)医院でも逆にトラブルが増えることがわかる。過ぎたるは及ばざるがごとしであり、適度に忙しい方が良いようだ。