抗インフルエンザウイルス剤(以下、抗ウイルス剤)についてもここ数年は、「インフルエンザ患者の異常行動」「タミフル耐性ウイルスの流行」「長時間作用型の抗ウイルス剤の登場」など、話題は多い。こうした状況下で、どのような処方判断と患者説明を行うべきだろうか? 全国の内科・小児科を中心とする医師へのアンケート調査(N=505)から、そのヒントを確認してみよう。
▼実施概要
(1) 調査対象:2010-2011年に抗インフルエンザ薬を処方した全国の医師
(2) 有効回収数:505人(内科75%、小児科17%、耳鼻咽喉科6%、感染症科2%)
(3) 調査方法:インターネット調査
(4) 調査時期:2011/9/1~2011/9/10
薬剤選択について
2010-2011年実績は、タミフル
抗ウイルス剤が4剤出揃った2010年~2011年にかけてのインフルエンザシーズンにおける処方比率(患者数)は、平均値でタミフルが57%と最も処方されており、次いでイナビル20%、リレンザ19%、ラピアクタ2%と続いた。今後の処方意向に関しても「対成人」「対10歳未満」の両方でタミフルの優位は揺るがない。ただしリレンザは、対成人と対10歳未満とで大きく違いが現れた。
薬剤選択の基準は、「効果」、「安全性」の順
抗ウイルス剤を選択する基準として最も重視している要素は、「効果の確実性」が圧倒的で59%。2番目に重視するものとしては「高い安全性」が46%と続き、辛いインフルエンザ症状からの早い回復を最も重視している結果となった。3番目の重視項目は回答が分散したが、「服用しやすい剤形」を挙げる医師が最も多かった。
以上の結果について、国立病院機構九州医療センター 名誉院長 柏木 征三郎 先生は、「医師は高い安全性を前提とした上で、確実な効果や剤形の服用のしやすさを求めており、それが最終的にタミフルの処方に結びついているのではないかと考えられます。2008~2009年にかけて新型インフルエンザが世界的に流行した際に日本の死亡率が他国と比べて圧倒的に少なかったのは、タミフルやリレンザが適切に処方されたことが大きい。いずれにせよ、抗ウイルス剤の選択肢が増えたことは患者さんにとっては朗報です。」と語る。
タミフル耐性ウイルスに対する誤解は多い
タミフル耐性ウイルスは流行しているのか?
抗インフルエンザウイルス剤に対するタミフル耐性ウイルスに関しては、情報が錯綜しているようだ。「市中で広く流行しているとお考えですか」との設問に対して、「流行している」「流行していない」の両回答とも21%と拮抗し、「どちらともいえない」が48%であった。
耐性ウイルスの増殖性、病原性
また、耐性ウイルスの増殖性、病原性について、どう考えているかについても、「耐性ウイルスの方が強い」が18%と、「通常のウイルスの方が強い」12%を上回った。
以上の結果について、国立病院機構九州医療センター 名誉院長 柏木 征三郎 先生は、「タミフル耐性ウイルスについては誤解が多いようです。タミフル服用によって耐性ウイルスが出ることは開発段階からわかっており、発売からおよそ10年たちましたが発現率は増えていません。また、耐性ウイルスが出たとしても患者さんの免疫によって排除されるか、たとえ伝播しても増殖能力が劣るため、流行株になることはないと考えられています。ですから、タミフル耐性ウイルスそのものが流行していない限りは、耐性ウイルスの拡がりを懸念してタミフル処方を控える必要はありません。また、2008年に北欧で自然発生し、世界的に流行した季節性Aソ連型タミフル耐性ウイルスは、2009年の新型インフルエンザ発生以降は消滅しましたから、現在では気にする必要はないでしょう。」と述べている。
タミフル耐性ウイルスの真実(動画)は以下よりご覧いただけます。
柏木 征三郎 先生
国立病院機構九州医療センター 名誉院長
NPO九州医療システム研究機構 理事長
抗インフルエンザウイルス剤の処方動向調査2011