「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
井上歯科医院
井上宏一院長
基礎から学び直した1年間研修が
顕微鏡治療を駆使する
「MI特化医院」へのスタート台に
一番の苦労
開業直後の持て余す時間に何をすべきか?
写真提供:井上歯科医院
どんなクリニックの先生も同じだと思うが、開業して半年は苦しかった。しかも私の場合は、開業の2ヶ月後に麻疹に罹った。「よりによってこのタイミングで!」と思ったが、感染症を持ちながら診療を続けるわけにはいかない。予約をキャンセルして1週間、休診にした。
ある程度の土地勘があったし複数の診療圏調査で立地には自信を持っていたが、ジタバタしても患者数はゆっくりとしか伸びない。そこで診療以外の時間に何をしたかというと、せっせと「患者さん説明用のツール」を作った。それを診療時に使ったり、ホームページ上に掲載した。ちゃんと理解して歯を大切にしてもらいたい、そんな想いを込めて作った資料は、患者さんに評判を呼んだ。正確な情報伝達に努めようとする姿勢は、医療者として当然であるし、患者増加にも必ず寄与すると思う。
一番の失敗
カルテの入力ミスを患者さんに指摘されたとき
写真提供:井上歯科医院
患者さんに診療費を過大請求してしまったことがある。原因はカルテの入力間違え。しかもお金を頂いた後に、患者さんに言われて発覚した。当然、平謝りだ。口頭だけでなくお詫びの文書も差し入れたが、患者さんの信頼は完全には戻らなかった。以来、「忙しい時こそ慎重に」を心掛けている。もう一つ事故防止のために注意しているのは、「小さなミスの段階で芽を摘む」ということ。大きなミスは小さいミスの延長線上で起きる。例えば手術時に、患者さんの身体の上で器具の手渡しをする人がいる。これを「あの時の態勢なら、仕方ない」「些細なミス」と許していると、いつかは器具を落として患者さんを傷つける事故となる。
一番の秘訣
「自分は馬鹿だから」
私は自分を過信しない。「自分は馬鹿だから」を口癖にしている。虚勢を張る人が少なくない医療者としては、珍しいだろう。「センセイ、センセイ」と言われていい気になっていると進歩は止まり、ごまかしの治療をしていると自己流が染みついてしまう。特に開業して一国一城の主になると要注意だ。私の場合は月に数回、外部の勉強会に参加して、研鑽を怠らないようにしている。自分の症例に対して他ドクターから率直に意見を言ってもらい、基本に立ち返ることも多い。学会と違って臨床に直結する内容が多いので、「習得した技術を患者さんに還元しよう」という新たな意欲も湧きやすい。院長が「一生勉強をしていくぞ」という覚悟を持っていると、スタッフも向上心を持ち続ける。実際、職員と一緒にセミナーに出掛けた後は、現場のモチベーションアップを実感する。医院が一丸となって常に上を目指していることは、患者さんにも伝わるだろう。
一番の転機
人生を変えた一年間の研修
学び続ける姿勢は、恩師の鈴木真名先生に刷り込まれたもの。卒後5年してから鈴木先生の研修会に参加して座学と実習を繰り返し、本当に基礎から学び直した。そこで何度も怒られたのは、「患者さんにはもっと優しく!」「治療にもっと本気でやれ!」・・・当時も患者さんに冷たく接していたつもりはないが確かに麻酔の仕方一つとっても「もっと優しく」する余地はあるし、「もっと本気に」なったら違うやり方が見つかったりする。ペリオドンタル・マイクロ・サージェリーで世界的に著名な先生が、常に謙虚で貪欲であり続ける姿を間近で見て、努力に限界はないことを思い知った。
一番の特徴
患者さんを守ることにつながる顕微鏡治療
「治療計画書の提示」「患者さんとドクターの間を媒介するクリニカルコーディネーター」など、当院はいくつか特徴を持っているが、外観的に目立つのは「顕微鏡での治療」だろう。顕微鏡治療を導入している歯科医院は2009年時点で全国の3%程度と聞いている。例えば根管治療では通常、レントゲン写真を見ながら手探りで根の奥を治療するが、根の形状は誰でも同じではないため、余分に歯を削ったり逆に悪いところを残した状態で薬を詰める可能性がある。ところが顕微鏡で拡大して治療部分の視野を確保できれば、より丁寧で確実な診療ができる。さらには、全てが映像で記録されるため、患者さんや他ドクターから見ても間違いのない、ごまかしのない治療が行われる。このように患者さんから見てメリットが大きい設備は、今後も積極的に採用していきたい。
一番の夢
「MI特化の歯科医院」を実現
私は「自分で診たい」という性格だから、医院を大きくしたいとか、2院目を出したいとは、あまり思わない。むしろ「MI特化の歯科医院」になりたいと考えている。MIとはMinimal Intervention(ミニマル・インターベンション)の略で、2000年にFDI(国際歯科連盟)が提唱したもの。最小の侵襲で治療をしよう、あるいはそのための予防対策を取ろうとする歯科医療の在り方だ。患者さんが「自分の歯を残したい」「少しでも削らずに治療してもらいたい」と思った時には真っ先に当院が選ばれる、そんな歯科医院になることを目指している。
医院プロフィール
井上歯科医院
神奈川県藤沢市藤沢1051-5 ヘルス第7ビル1F
TEL:0466-29-2018
医院のホームページ:http://www.inodent.com/
院内は南国の別荘をイメージさせる癒しの空間。
診療は全て個室型で、患者さんが椅子に座ると多い時には3つのモニター画面が目の前に出てくる。
小田急線の藤沢駅から徒歩5分。詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
歯科、矯正歯科、小児歯科、歯科口腔外科
理念
“患者様が安心、信頼して通えるこれからの歯科医院”
院長プロフィール
井上宏一(いのうえ・こういち)院長略歴
1994年 鶴見大学歯学部歯学科卒業、同大学歯学部第二補綴入局
1997年 複数の歯科医院に勤務
2002年 井上歯科医院開設
所属学会
東京SJCD
質問するたび、「ちょっと待ってね」と説明資材やビデオをフットワーク軽く取りに動く姿に、日頃の患者さん対応の様子が伺えた。