「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
翠皮フ科・アレルギー科
飯塚仁院長
予測値最悪だった診療圏調査
リーズナブルな美容治療と漢方診療、
丁寧な診療で患者数伸ばす
一番の決断
患者さんのニーズに応えられる全般的な治療をしたい
開業を決断したのは、院長として勤めていたクリニックを辞めることになったことが直接のきっかけだった。もともと開業を考えていたわけではなく、大学病院や一般病院に戻るという選択もあったものの、仮に開業するとしたら機会はこのタイミングしかないのではと思った。良好な漢方薬効果を目の当たりにしていたこともあり、自身のクリニックでも西洋薬だけでなく漢方薬を用いた幅広い保険診療を実施したいと考えた。
一方、美容治療は自由診療ということもあり、来院数が見えない。ただ開業当初はもちろん、長い目で見た医院経営のかなめに十分なりえると考えた。患者さんの要望にはできるだけ応えて積極的に導入していきたいという思いはあったものの、患者さんの美容における希望のほとんどはシミ取りであったので、開院当初はシミ取りに絞った。
一番の選択
偶然出合ったこの場所で開業した理由
この場所での開業を決めたのは、いくつもの「たまたま」とある人の一言がきっかけだった。クリニックを辞めることが決まった2日後、私は「たまたま」JR亀有駅周辺に自転車で来ていた。隣町に住んでいるため、普段はこの地域に来ることはほとんどない。私は、信号待ちのためある交差点で止まった。視界にあるビルに「たまたま」目がいき、3階にテナント募集中という文字を見かけた。そのとき、以前行った小料理屋のオーナーが「交差点は商売するのには好立地」と言っていたのを唐突に思いだし、ここで開業しようと思い、その場ですぐにビルの不動産屋に電話した。
話は脱線するが、有用な情報やアドバイスは、日常の何気ないシーンから気づくことが多い。もちろん、開業医仲間の飲み会や、学会での情報交換も有用ではあるが、「たまたま」入った小料理屋で交わしたオーナーの一言は具体的かつ説得力のあるアドバイスだった。何故この場所に店を構えたのか?という私の質問に、何故この店に入ったのかと逆に聞かれ、信号待ちの時にのれんが見えたからと答えた私だったが、オーナーは「長い信号待ちをしている時によく見える場所」に入ろうと思う心理を逆手に取ってここに決めたと言っていたのだ。その言葉を交差点で思いださなければ、この地での開業はなかったと思う。テナントのオーナーは、できればクリニックに入ってほしいと以前から思っていたようで、話はトントン拍子に進んだ。
一番のリスク
報告書の数値は最悪一歩前
診療圏調査は2社に依頼した。ひとつは1日13人と最悪で、もうひとつは30人だった。競合は近隣に2軒あり、駅の反対側にあるクリニックは1日50人、当院のすぐ近くにあるクリニックは1日100人近く、多い時は200人弱と、かなりの強敵。報告書の数値だけみれば最悪か、悪い立地であることは明らかだった。しかし、診療圏調査は内科の数値が中心で皮膚科はあまり関係ないと思っていたのと、映画館やショッピングセンター、専門店が入居している複合施設アリオ亀有が目の前にあり、人の流れが良さそうな場所であれば、リピーターも増えることが容易に想像がつき、何より未来への可能性を感じる場所といえる。開業しても問題ないという確信にゆらぎはなかった。
当院は環七に面した交差点にある。人通りも多く、ショッピングセンターに来る買い物客も世代を問わず相当数にのぼる。交差した道路は、環七の東側を流れる中川にかかる数少ない橋のひとつにつながっている。橋が交通の要所としての重要な役割を果たしており、立地は申し分ない。とはいえ数値的な裏付けも欲しいと思い、数日間、交差点を行き交う歩行者や自転車の数を自分でカウントしてみた。15分間で自転車が100台を超えた時間帯もあり、これならいけるだろうと判断した。かつて自分が入った小料理屋のように、交差点の信号待ち時に目に止まれば患者さんは来てくれるはず。美容をやれば駅からの距離を考慮し遠くからでも患者さんは必ず来るという確信もあった。
開業して、やっと一年。人通りが多いという予想は大きくは外れていないが、近隣の競合を前に苦戦していることは否めない。中川の向こう側に住んでいる患者さんが橋や道路を超えて通院してもらうまでに、約3ヶ月かかったのは、診療圏調査報告書通りだった。中川の向こうからショッピングセンターに来る人の最寄りの駐輪場がクリニックとは離れた場所にあり、買い物客は交差点まで来ないことも開業後にわかった。ショッピングのついでに診察、診察が終わったら買い物をして帰宅。そんなスタイルを理想としたい。
一番の誤算
予想外の出費で予算オーバー
開業費用は約1500万円と予測。実際は約1700万円で200万円オーバーとなった。予測と大きく異なり一番お金がかかったのは、内装費用だ。36坪(約110平米)のフロアで400万円程度と見ていたが、実際は800万円強かかった。エアコンが入っておらず、空調関連機器設置だけで約200万円ほど。他を切り詰め、全体の予算オーバー分は200万円以内におさめた。
最初から電気メスを導入するつもりであったが、それを余裕ができてからの導入に検討し直したり、医療用品以外の物品購入を、すべてインターネットでの通信販売で安いものを探して実施した。書籍の本棚、鍵付き薬品庫、待合室の椅子や診察室の机も椅子もすべて通信販売である。MS法人に頼むのは、どうしても自分で探して購入ができないものだけを依頼し、できるものは自分で通販で購入するようにした。もともとの品質を十分理解していたからこそできた方法であり、最初から通信販売で購入することは普段はあまりしていない。
一番の拘泥
競合クリニックにない特徴をプッシュしたい
保険治療でやれる範囲は限られており、細かいニーズに応えられないため、高濃度ビタミンC点滴療法、シミ取りの軟膏処方などは自由診療にしている。患者さんの金銭的負担をできるだけ減らすため、他院のような初診料、再診料、処置料などを自由診療では設定せず、軟膏料や処置料のみとしている。自由診療は、クリニック独自に価格を設定できるとは言っても、患者さんの過度な負担になってしまっては意味がない。経営面から見ると悩ましい点ではあるが、できるだけリーズナブルな設定にし、回数多く通院してくれる体制を整えたい。
美容治療も値段がリーズナブルであれば、遠方からでも患者さんが来ることは、従前のクリニックでも体験済み。医療用レーザーでのシミ取り治療の本格スタートを集患数アップの起爆剤とし、当面の患者数目標は1日あたり60人としている。開院当初に予定していた電気メスもやっと導入が検討できる状態であり、要望に応じて保険診療で簡単な手術ができるようになる予定である。今後も患者さんのニーズにはできる範囲内で積極的に取り組んでいく予定だ。
漢方診療については、皮膚科疾患では重症のアトピー性皮膚炎と、ニキビを中心にして治療に勧めている。漢方診療をしていることで急に患者数が増えるというようなことはないが、漢方診療を取り入れたほうが治療の幅が広がると考えている。最近は、漢方を処方してくれるクリニックという口コミの効果もあり、頭痛や肩こり、冷え性、気分の落ち込みなどを漢方で治したいという内科疾患などの患者さんがちらほら受診するようになってきた。今後も要望があればお手伝いしていきたい。
ホームページは業者に依頼せず、仕事の合間に自分で作っている。元々工学系に進みたいと思っていたので、この程度の作業は難しいとは思わない。皮膚科治療は日常生活の改善も治療のひとつと考えているため、生活時のアドバイスなどきめ細かく説明を適宜掲載している。
一番の応援
患者さんが患者さんを呼ぶ口コミの威力
初診時のアンケートで、通院のきっかけを尋ねると「知人・家族の紹介」が圧倒的に多い。ホームページなど情報は適宜更新しているが、ホームページを見てという患者さんは、遠方の方が多く、近所の方はほとんど口コミといえる。いい治療をして、患者さんが満足してくれれば、口コミは今以上に広がると期待している。
当院を影ながら応援してくれている方の存在も忘れるわけにはいかない。診察室の配置など設計全般は、医療用レーザーのメーカー担当者がすすんでやってくれた。開業前の下見時に雨が降っていたのだが、夕方の人通りのなさを見て開業は大丈夫かと本気で心配してくれ、レーザーを販売しても有効活用できないと言われた。後日、晴天時の人通りの多さを見て、これならOKと太鼓判を押してくれた。レーザーの本格導入まで一年間待ってもらったが、良いおつきあいになりそうだ。
当院は、特に理由はないが門前薬局をもっていない。使用する漢方薬が約80種と多いこともあり、周囲の薬局さんには在庫管理も含めて、お世話になりっぱなしだ。薬局に勤められている方が患者さんとして来てくれるケースや何かの折りに当院を薬局に来られた方に紹介してくれることもあり、門前薬局がないという点は必ずしもデメリットではないと考えている。
一番の夢
症例のデータベース作りを未来に生かす
近い将来、漢方薬の処方や患者さんの属性、症例など過去のデータをさまざまな角度から分類・蓄積し、データを入れると将来が予測できる、そんなシステムを作りたいと思う。過去のデータから将来の予測をひもとく人工知能のようなものを具体的に考えている。壮大な計画ではあるが、まずは漢方薬の処方と症例の分類分けを来年夏を目処に完成させたいと思っている。
医院プロフィール
翠皮フ科・アレルギー科
東京都葛飾区亀有3-37-17 メディク関東3階
TEL:03-6662-4232
医院のホームページ:http://midorihifuka.jp
JR常磐線・亀有駅下車徒歩6分、アリオ亀有環七側入口徒歩1分。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
皮膚科、アレルギー科
理念
常に「相手の立場を意識」し、「自分の心を開き」、「和」をもって「安全第一」に「ありがとう」をいただける医療を実践
院長プロフィール
飯塚仁(いいづか・じん)院長略歴
2001年 防衛医科大学校卒業 及び 航空自衛隊入隊
2001年 初任実務研修医
2003年 航空自衛隊硫黄島基地隊
2005年 自衛隊中央病院皮膚科
(2006年 2月~2006年9月 ゴラン高原派遣輸送隊(UNDOF))
2009年 航空自衛隊退職
2009年 あらなみクリニック
2010年 翠皮フ科・アレルギー科 開業
所属学会
日本皮膚科学会