「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
戸塚ヒロ眼科
佐久間浩史院長
開業当初の「閑散期」にめげず
丁寧な診察と治療を地道に継続
口コミ増加で劇的な集患
一番の悩み
オペ室を断念する
開業するにあたり、まずオペ室を作るか否かで非常に悩んだ。開業直前まで勤務医としてずっとオペをやっていて、そこに強いやりがいを感じていたからこそ悩んだ。でも手術はひとりではできない。オペをサポートできる看護師を揃えなければならない。
それに、手術をしている間は外来を閉めなくてはならない。他の先生に代診してもらうという方法もあるが、私は自分のクリニックの診療は自らが責任を持ってやりたいと思ったのでウエイトを外来診察におくと決心し、最終的に手術室は諦めた。
病院の場合、患者さんは施設を目指すもの。一方、当院のように個人開業のクリニックは、患者さんは医師個人を目指してやって来る。よって「この先生、嫌だな」「診てもらいたかった先生じゃない」と思われたら、患者さんはすぐに居なくなってしまう。だからこそ、子どもから高齢者の方まで、私自身が責任を持ってひとり一人の患者さんときちんと向き合って、丁寧な診療をしたいという思いがあった。
一番の苦労
ものの見事に外れた開業前の調査・戦略
開業前、今の場所は理想の物件に思えた。周辺に競合となる眼科がなく、ほどほどに都会、ほどほどに田舎という雰囲気。駅からも近く、駐車場も広いので、電車でも車でも来院しやすい。さらに当院が入っているクリニックビルには、内科、耳鼻咽喉科、歯科と主に首から上を診るクリニックが入っているのも面白いなと思った。また、眼科はよく「お年寄り科」といわれるが、開業前の診療圏調査で、すぐ近くに高齢者が多く住む団地があり、そこからの患者さんが見込めるとの結果が出ていた。
ところが、皆さんすでにかかりつけの眼科があり、開業したものの患者さんはまったくと言っていいくらい来なかった。1年くらいはそんな状態が続いた。しかしスタッフのお給料や家賃など払うべきものは払わなくてはならない。みるみる貯金は減り、自分の収入はゼロのまま。貯金残高とのチキンレースのような過酷な時期だった。学会などに行っても会う人会う人に「ひどい顔しているね」と言われるほど、この頃はやつれていたようだ。今でこそ「最近、余裕が出てきたじゃない」と冷やかされるようになったが、あの頃は正直言うとたくさんの同業者に会う学会などには行きたくなかった。開業は甘くはないと話にも聞いてはいたし、それなりの覚悟はしていたつもりだったが、診療時間中じっと座り、来ない患者さんを待っているだけというのは非常にもどかしかった。
さらに、開業から2~3年はスタッフが定着しなかったのも大きな悩みの種だった。当院は受付、会計、検査などすべての業務に対応できるスタッフを常時4~5人おき、例えば検査が混雑してきたら受付をひとり減らして検査にひとり入るというように臨機応変に対応する体制になっている。開業当初は「スタッフの人数が多すぎるのでは?」とか「患者さんよりスタッフが多い」と言われたりもしたが、自分が患者さんだったら、早く診てもらって早く帰りたい。そのためには患者さんを待たせる時間を最短にしたかったので、混雑時のことを考えるとここは妥協出来なかった。しかしながら、雇っては辞めるの繰り返しで、信頼できる良いスタッフが定着したのは、ここ2~3年ぐらいだと思う。
一番の契機
予想だにしていなかった、ママさん口コミの影響力
開業から1~2年は患者さんが来なかったりスタッフが定着しなかったりと、先が見通せず特に不安な時期であったが、たまたま引き受けた学校検診をはじめた頃から子連れのお母さん方が来るようになった。その口コミが広がるにつれ、徐々に患者さんが増えていった。
その頃から「子どもを診てもらえますか?」という電話も入るようになった。聞けば小さい子どもの診察を嫌がるクリニックも少なくないらしい。確かに、小さい子どもはこちらの思うように動いてくれないし、泣いてしまうと眼の診察は難しい。だからあやしつつ泣かせないように診察しなくてはならず、面倒だと嫌がる医師もいる。でも私は逆に子どもの診療を面白いと思っている。だから「あそこは小さな子どもも診てくれるよ」と口コミが広がり、ますます子どもの患者さんが増えていった。
また、開業当初は予想していなかったのだが、クリニックの前に500世帯の大きなマンションがあり、そこに入居している小学生の子どもさんをお持ちのお母さん方に来ていただくようになった。さらに、ここ数年はまわりに新しい家もたくさんできてきて、周辺の道路環境も非常によくなり交通量も一気に増えた。こうした周辺環境の変化で、このあたりの人口が増えてきたことも患者数の急増に繋がっているのでないかと思う。
一番の秘訣
日々、納得してもらえる丁寧な診察を心がける
口コミは多額の費用を使って宣伝する以上に効果があるが、反面、非常に怖いものだとも思う。患者さんは私たちの一挙一動を本当によく見ている。だから診療時は、「自分が患者さんの立場だったらどうして欲しいのか」を基準として考えている。症状や治療法や薬剤についてもきちんと説明するし、ときには厳しいことを言うこともある。どんな病気でも、治療や薬の必要性を理解してもらわないと結局は続かないし、自分が患者だったらそうして欲しいだろうと思うからだ。
また、身内を診るような気持ちで患者さんと接することも心がけている。たとえば手術を勧めるか否か悩んだときに、もし自分の親だったら手術を勧めるか?という基準で考えるし、実際、患者さんに「もし自分の親だったら手術を勧めます」と言うこともある。また、緑内障など長期にわたる治療が必要な場合は、患者さんと長い付き合いになるから、信頼獲得は必須だ。いくつもある治療の道筋で、患者さんにとって最も良い選択をしていくには、その患者さん自身の生活スタイルや考え方も理解していないとできない。家族のように親身に接する一面が必要となる。
問診表に来院理由を書いていただいているが、「家族がかかっているから」「家族から聞いて」「近所、友人の紹介」というのが圧倒的に多い。最新の医療機器を導入したり、最新の知識や情報を仕入れる努力も大切だが、こうした地道で丁寧な診療が最も重要と思う。
クリニックの評判が近所に静かに広がっていくのを待つのは時間がかかるし、自分も今日の状態になるまで辛いときもあったが、まずは焦らずに、目の前の患者さんに対して最善をつくし、診療に対して満足してもらうことが大切ではないかと思う。
一番の配慮
医師なんて本当にちっぽけなもの
前述したように、スタッフが定着しなかった時期があり、集団で辞められたこともあったほど。「医療機関だから報酬がいいだろう」「眼科は血を見ることがなくて済む」など、安易な志望動機を持った人がたくさん集まってしまったのだ。また、開業当初はスタッフの雇用形態をパートタイムにしていたのも、離職率が高かった理由だったと思う。
そこで医療事務の専門学校を出た若い人を常勤で雇うようにしたら、結果として定着するようになった。雇用形態ひとつで良いスタッフが集まるようになるとは、最初はまったく知らなかったし、社会保険料を負担するのは大変なことだが、スタッフがにこやかに安定的に働いてもらえるならば、その方がメリット大きい。
仕事しやすい環境づくりにも腐心している。スタッフとは必ず朝礼と終礼を行うし、月に1回はミーティングをして問題点を全員にそれぞれ挙げてもらい、院内改善を討議している。さらに、スタッフには勉強をしてもらい日本眼科医会主催のOMA(眼科コメディカル)を修得してもらっている。国家資格ではないが、この資格を修得すると医療事務的な仕事から私の指示のもとでの検査など、可能な業務の幅が広がる。医師よりもスタッフの方が相談しやすいという患者さんもいるが、スタッフが勉強をしていると何か質問や相談をされた時に自信を持って対応できるようになるのは大きい。
開業医はひとりでは何もできずスタッフに支えられている。良いスタッフが集まってくると、自然と良いサイクルができて、次に入ってくる人もクリニックのカラーに合った人が入るようだ。医師なんて本当にちっぽけなもの。「私の宝はスタッフだ」と思えるほど、今は本当に良いスタッフに恵まれている。
一番の夢
眼で困っている人は助け続ける
開業して5年が経つが、よく続いたなと思う反面、まだまだ通過点とも思っている。「人生のなかで、5年なんて僅か」と、日々、自分を諌めている。あまり大きな夢や展望はないが、地域に役立つ医療を地道に続けていこうと思っている。
例えば、年に1回実施している患者さん向けの勉強会、春先に行う学校検診。また、近くの地区センターで健康講座も引き受ける事にした。こうした地域への協力はできるだけでやっていきたい。地域の方々には、いつまでも健康で眼が見える生活をして欲しいし、この地域の眼は自分が守るんだという意識は常に持っているつもりだ。
また、開業して分かったのが、「自分自身が健康であること」の重要性。代わりの居ない私が倒れたらダメなんだなと。だから規則正しい生活を送って、一日のスタートである朝礼で私自身が率先して元気に挨拶するようにしていきたいし、心身が健康かつ心穏やかな状態で、余裕を持って患者さんと接していきたいと思っている。
どんな小さなことでも、地域の方々が眼で困ったときには当院を思い出してもらえて、その期待に応えられるクリニックであり続けたい。
医院プロフィール
戸塚ヒロ眼科
神奈川県横浜市戸塚区汲沢1-10-46 踊場メディカルセンター3F
TEL:045-869-1311(代表)
医院ホームページ:http://hiroganka.com/
横浜市営地下鉄線「踊場」駅1番出口より徒歩5分。JRほか戸塚駅西口「戸塚バスセンター」7番線のりばから「戸53 汲沢団地」行「日産寮前」下車。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
眼科
理念
患者さんに納得してもらえる丁寧な診察と治療
院長プロフィール
佐久間浩史(さくま・ひろふみ)院長略歴
1996年 聖マリアンナ医科大学卒業
1996年 藤沢市民病院 臨床研修医
1998年 横浜市立大学医学部附属病院 眼科常勤医
2000年 佐伯眼科医院 医長
2002年 横浜労災病院 医長
2003年 横浜南共済病院 医長
2005年 横浜市立大学医学部附属病院 助手
2006年 戸塚ヒロ眼科 開設
所属学会
日本眼科学会専門医、日本眼科学会会員、日本緑内障学会会員、日本眼科手術学会会員、日本白内障屈折矯正手術学会会員