「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
杉浦内科クリニック
杉浦芳樹院長
時代より早い「睡眠時無呼吸」特化で
当初は集客に苦しむも、
「核がある総合診療医」クリニックが実現
一番の苦労
半年間は不安で頭がいっぱいに
一番の苦労は、開業当初は患者さんが少なかったこと。最初の半年間は本当に悩んだ。外来患者さんは1日10人いない状態だし、入院患者さんにいたってはほとんどゼロ。宣伝もあまりできなかったから、待つことしかできず、「大丈夫かな」「やっていけるんだろうか」と、不安で頭がいっぱいだった。
半年経った頃に患者さんが急に増え始め、開院1年後から黒字基調になった。その理由は、やはり時間をかけて認知が広がったことと、来院した患者さんの口コミの効果だろう。当院には一般内科の患者さんと睡眠時無呼吸症候群の患者さんの両方がいらっしゃるが、途中からは睡眠時無呼吸の患者さん数の伸びがやや強くなった。今から振り返れば比較的早く軌道に乗った方だと思う。
もう一つ苦労した点は、専門領域外の対応。大学病院や総合病院とは違って、患者さんは身体の不調や不安、悩みを何でも私に聞いてくる。眼科領域の相談や、硬膜下血腫の手術適応のセカンドオピニオンを求められたりして、最初は戸惑いを覚えたし、困り果てた。でもそうした相談をしてくれるのは、患者さんが私を「かかりつけ医」として信頼してくれている証拠なので、開業医としては喜ぶべきこと。今では、専門外のことでもできる範囲で「少し様子を見ようか」「それは眼科に行った方がいいよ」と応えている。
一番の秘訣
患者第一は、医療スタッフのモチベーションにも響く
医院運営の秘訣は「患者さんの利益第一」。これに尽きると思っている。
勤務医時代には、病院としての利潤追求が優先されて「理想の医療は捨てろ」と言われたことさえあった。診療報酬を得やすい処置や検査を、さして必要ない場合であっても積極的に実施するよう上層部から指示されていたこともあった。
模範的な医療機関を目指すならば、患者にとって本当に必要な医療を見極め、場合によってはそれをボランティアで行っていく気概が必要だ。例えば、私は勤務先で「呼吸リハビリ」を始めたことがある。当時、学会ではすでに有効性が証明されていたが保険適用ではなかった。だから事前に上層部に相談しても却下されるのが分かっていたので、リハビリスタッフを説得して現場判断で開始した。
その病院では、「利益にならないことはやるな」といった意識がまかり通っていたが、それは間違いだと思う。結局は患者さんとの信頼関係を損ねてしまう。それだけでなく、医療スタッフのモチベーションも下がってしまう。医師も看護師も、医療に携わるスタッフは「患者さんがよくなること」「患者さんの役に立つこと」に仕事のやりがいと喜びを持っているのだから、「利益を上げろ」と言われて、やる気になる医療スタッフはいないだろう。
特に街のクリニックは、患者さんに信頼されて成り立っている。患者さんのための医療を届けることで喜んでもらい、医療スタッフのやりがいやモチベーションを保てば、皆がハッピーになれる。経営としての利益は、その上で後からついてくるものだ。逆に経営利潤を先行して追いかけると、患者さんに見抜かれ、足が遠のき、結果として誰も幸せになれない。
頭ではそれが分かっていても、開業当初や近隣の環境変化などで、実際に「患者さんが来ない」という不安や悩みを抱えると、つい忘れて悪循環に陥ってしまう。どんな時も「患者さんの利益第一」を見失わないようにするのが大切だ。
一番の自慢
医師冥利に尽きる、患者さんからの言葉
私は特殊な専門分野の診療を行っている一方で、地域密着した「街の親しみやすいお医者さん」でありたいとも思っている。
医師にはいろいろなタイプがいる。絶対的なカリスマ性を持ち「俺の言う通りに治療すればいい」というスタイルで治療にあたる医師もいて、そういうドクターを好む患者さんもいる。しかし自分は「患者さんと対等な目線で話す医師」でありたい。治療方法も「こんな方法があるよ」ということを、できるだけわかりやすく説明して、患者さんと話し合いながら一緒に治療していきたいと考えている。
自慢というとニュアンスが違うが、とても嬉しい言葉を患者さんから頂いたエピソードがある。
患者さんのところに往診に行った時のこと。「私の身体はすべて先生にお任せしている。死亡診断書も先生に書いてもらうと決めているよ。」と患者さんがおっしゃったのだ。医師冥利に尽きる言葉だと思って、本当に感激した覚えがある。
一人の患者さんと深く接して、全身を診る「かかりつけ医」として信頼してもらえるのは、勤務医時代にはなかったやりがいだ。大学病院などでは風邪などの軽い疾患で来院すると「それくらいで…」といった雰囲気になってしまうが、当院ならば健康相談に気軽に来ていただける。先ほどのエピソードのように、アットホームな医療ができていることを実感している。それが自慢と言えば、自慢なのかもしれない。
一番の失敗
院内の間取りが、患者さんの増加に融通効かず不便に
失敗というほどの大きな失敗ではないが、院内の間取り設計で「こうすればよかった」と少し後悔していることがある。睡眠時無呼吸症候群の専門クリニックであることを第一に考えて、二階の全フロアを無呼吸診療のための設備を整え、4床の入院施設を完備した。ところが患者さんが増えるにつれて、一般の内科診療のスペースにしている一階が、少し手狭になってしまった。
一階は点滴する際のベッドがない。リクライニングソファを使えば多少ゆったりとはできるが、寝ることはできない。しかも2台しかないので、同時に3人以上の点滴が必要な場合は2階で行う場合がある。一般の内科診療の拡大も考えて、もう少し広めのスペースを確保できるようにすべきだったと思っている。
実際に診療してみないと気づかない部分はあるが、「少し広いかな」と思うくらいの空間設計をしておいた方が後々の変化に対応できるので、良いと思う。
一番のゆめ
学術面でも貢献して、睡眠学会の認定施設に
現在、当院の睡眠時無呼吸症候群の症例数は、月間にして500~600人ほど。潜在的にはまだ相当数の患者さんがいるとされるので、来院数は増加していくだろう。睡眠時無呼吸を専門的に治療できるクリニックは少ないので、症例をまとめて情報発信することが専門医としての義務だと思っている。こうした取り組みは、アカデミックな方面で役立つだけでなく、自分自身のブラッシュアップにもなるので、是非取り組みたい。
現状では、忙しくてなかなか進んでいないが、近いうちに取りかかり、形にして発表していきたい。「やりたい」と言っているうちに歳をとってしまうので、すぐに実現しようと思う。そのステップを経て、睡眠学会の認定施設を目指し、軌道に乗せていきたい。
医院プロフィール
杉浦内科クリニック
名古屋市昭和区隼人町8-3
TEL:052-861-3511
医院ホームページ:http://www.sugiura-sleep.com/
名古屋市地下鉄鶴舞線「いりなか」駅下車すぐ。詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
内科・呼吸器科・睡眠時無呼吸症候群
理念
患者さんの利益第一。地域密着で患者さんとの対話を重視。
院長プロフィール
杉浦芳樹(すぎうら・よしき)院長略歴
1985年 名古屋市立大学病院第2内科臨床研修医
1987年 大同病院呼吸器内科勤務
1993年 静岡厚生連遠州総合病院 内科(呼吸器内科)勤務
1996年 名古屋市立大学病院 第2内科助手
2003年 名古屋市立東市民病院 第4内科部長
2006年 杉浦内科クリニック開院
資格
日本内科学会 認定医、日本呼吸器学会 専門医、日本リウマチ学会 専門医
所属学会
日本内科学会、日本呼吸器学会、日本リウマチ学会等
身振り手振りで丁寧に説明をしてくださった。