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高下小児科医院 高下泰三院長

読了時間:約 4分58秒  2010年11月09日 PM02:47
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高下小児科医院
高下 泰三院長

開業が42年間続いている秘訣は
「医師としてのバックボーン」と
患者さんの笑顔を心から喜ぶ気持ち

一番の苦労

病室なのに誰も看取ってやれなかった辛い経験

 僕はこの地域で医師を務めて約50年だが、独立開業したのは42年前だ。「借金なし、お得意さまあり」で始めたから、かなり恵まれていたと思う。
 それまでは、愛育病院というところに勤めていた。そこは、僕の敬愛する北海道大学の弘好文(ひろ・よしぶみ)教授が小児科の総合病院建設という構想でつくった施設だった。約5年して独立することになったとき場所を探していたら、その病院の近くの薬局が「うちの2階でやらないか」と声をかけてくれた。家賃もそう高くなく、僕が診ていた患者さんが開院当初から来てくれたから、スムーズなスタートだった。幸運な開業だったと言える。
 愛育病院では、たくさんの勉強をさせてもらった。中でも覚えているのは、僕が大学院生のころ、当直の夜に肺炎で入院していたお子さんが誰にも看取られずに亡くなったことだ。お母さんは疲れて寝ていたし、僕もその子の死に立ち会うことができなかった。その時、初めて弘先生に叱られた。「スケジュール通りに巡回するようじゃダメだ。病気の重い患者さんには徹夜で付いていなさい」と。それ以降、症状の重い患者さんにはずっと付くようにした。当直明けの日も僕は北大で働いていたから肉体的には大変だったけれど、医師としては大切なことを教わったと今でも弘先生には感謝している。

一番の秘訣

医師は精神的なバックボーンを持て

 僕は20代のころクリスチャンになった。最初のきっかけは医学部生のとき、教会に通っていた友人に「英語の聖書研究」のクラスがあるからと勧められたことだ。先生はアメリカ人だから、英会話の勉強になると思ってついていったのが正直な理由だった。
 やがて洗礼を受けると決めて父親に報告したとき、家は仏教なので反対されるのを覚悟していたが、意外なことにこう言われた。「いいアーメンになれよ」と。父は製薬会社にいて、いろんなお医者さんを見ていたのと、読書家でもあったことから「医師にはバックボーンが必要である」ということを理解していたのではと思う。
 僕自身は、医療とは奉仕の仕事だと思っている。普通の会社であれば、まずは利益を上げることが優先だろう。でも、医院はそうはいかない。患者さんがこちらに来てくれる、つまり患者さんから求められる存在。来てくれたらありがたいと思うし、場合によっては診療時間外に対応することも必要かもしれない。誠実な診療をしていれば、おのずと患者さんは増えていくし経営も成り立っていくのではないだろうか。

一番の工夫

痛くなく、苦(にが)くなく、怖くなく

 最近、患者さんから「別の先生はパソコンの画面ばかり見て、さっぱりこちらを見てくれなかった」という話を聞いた。これは医師としては悲しい振る舞いで、必ず患者さんの顔は見て診療をして欲しいと思う。
 僕は、必ずお子さんと付き添いのお母さんの顔を見て、いろいろな訴えに耳を傾けながら診察する。そして、聴診器を体の前や後ろにも当てて音をしっかりと聞く。そうすればお母さんが気づいていないけど、喘息の音がするなと気づくこともある。
 また、どうやったらお子さんが「痛くなく、苦くなく、怖くなく」診療を受けられるかを常に意識している。新しい薬を採用するときは、必ず僕と婦長とで味見をしながら飲みやすさについて相談しているし、注射もなるべく痛くないやり方を選んでいる。
 「ごほうびシール」もお子さんに喜んでもらうやり方の一つだ。「泣くのをやめて、えらいねえ」「大きなお口開けられたねえ」と、まずは小さなことでも必ずほめる。そのたびに机の引き出しを開けて選んでもらうが、ぎっしりといろんな種類のシールが並んでいるものだから、先に口を開けて待っているお子さんもいるぐらい(笑)。

一番の配慮

子どもだけでなく親にも安心を

 付き添いの親御さんには、症状や処方について丁寧な言葉で、わかりやすく説明するように心がけている。例えば、同じ薬を従来と異なる効能を狙って使う場合、親御さんは口に出さずとも「あれ、なんでこの薬を?」と不安に思うかもしれない。しっかり説明することが親御さんの納得と安心につながる。
 また、病気でなくとも子どもの成長に悩んで訪れる母親も多い。そんな時でも最初に大事なことは、わかりやすい言葉を使った説明で親御さんに十分に安心してもらうこと。例えば、食が細くて成長が心配なお子さんを連れてくるお母さんにはこのように話している。「私達のからだには、戦い用の神経と、お休み用の神経があります。楽しく食べるときはお休み用の神経が働いて消化もよく働きますし、口から唾液もたくさん出ます。人間がおいしいと言うのは、このヌルッ、トロッとした感覚が大切ですから、唾液が出ないとおいしく感じない。だから少ない量でも楽しく食べることが大事なんですよ」と。説明しているうちに、お母さんの深刻だった表情が、納得した表情に変わり、そして安心した顔になる。すると、傍にいるお子さんも安心した明るい顔つきになる。この瞬間こそが、僕にとっては何よりもの報酬だ。

一番のアドバイス

親子の安心と笑顔を喜びの糧に

 ここ札幌市では、道内でも開業が集中しているので先生方も大変だろうと感じている。なんとか患者を増やしたいと、いろんな工夫もされているようだ。設備などのハード面や宣伝に力を入れて負担を重くしてしまう方もいる。僕は、その前に「医師としてのバックボーン」は何かということをまず考えてもらえればと思う。
 僕はずっとここに腰を下ろし「この地域での子どもたちの守り神だ」という気概を持っている。だから園医や校医も引き受けてきたし、健康教育のためにグループをつくって一般の人向けの講座も行ってきた。今でもボランティアで「さっぽろ赤ちゃん110番」という電話相談の小児科医担当をしているし、頼まれれば講演もするが、それで患者が増えたという“宣伝”にはあまりなっていない。でも、僕はそれでいいと思っている。僕の診療を受けた子どもたちやお母さんの安心した顔、喜んでくれた顔、道端で会ったときに「あっ、高下先生だ!」とお子さんが名前を呼んで挨拶してくれるときの嬉しさ。それは何ものにも代えがたい報酬で、だからこの仕事は辞められない。
 80歳近くになった自分がこの先いつまで続けられるか分からないけれど、他の先生方にもこういった医師としての喜びを大事にしていってほしいと願っている。

医院プロフィール

高下小児科医院

札幌市中央区北四条西16-1 第一ビル2F
TEL:011-631-6521


JR「桑園(そうえん)」駅、地下鉄東西線「西18丁目」駅から徒歩約12分。車では札幌から北5条通りを西方向へ向かい、北4西16の交差点を越えた左側2軒目、第一ビル2階。西隣に提携パーキングがある。

診療科目

小児科、内科

理念

地域における子ども・健康の守り神であれ

院長プロフィール

高下 泰三(たかした・たいぞう)院長略歴

1956年 北海道大学医学部卒業
1961年 北海道大学大学院医学研修科(内科系小児科専攻)博士課程修了
1961年 北海道大学医学部(小児科学教室)助手
1962年 財団法人小児愛育協会附属愛育病院(札幌)小児科医長
1968年 高下小児科医院院長

資格・所属学会他

日本小児科学会、日本東洋医学会
北海道医師会常任理事、北海道学校保健会理事、日本医師会学校保健委員会委員などを歴任。現在「さっぽろ赤ちゃん110番」理事長など

50年のキャリアを持ちながらも、常に勉強を絶やさず、講演会やドクター相談など日夜・休日を問わず地域のために奔走する姿に、スタッフの皆さんも心から尊敬している様子でした。