「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
プライマリ整形外科
寺尾友宏院長
ドラッカー愛読する、徹底した患者志向ぶり
目指すは、運動器疾患のイノベーションクリニック
一番の苦労
スタッフを古い常識から脱却させる地道な努力
スタッフの意識改革は一朝一夕にはいかず、思っていた以上の労力が必要と痛感している。
後述するが、私は徹底した「患者ニーズ」追求志向であり、その結果として保険外診療にも積極的だ。つまり「ある程度お金を出しても、いい内容のサービスを受けたい」患者さんがターゲットであり、ライバルは近隣医院ではなく高級スパやサロンになる。だから、健康保険内での治療が常識となっている患者さんに対して、自費診療の魅力を伝えて、根底から意識を覆す必要がある。そして、当院に通っていることを自慢してもらえるくらいになりたいと思っている。
ところが意外に大変なのは、スタッフの意識変革だ。私の考えは医療業界では異質なのか、スタッフには、時に患者さんより届きにくいと感じることがある。
理想の医院像を実現するためには、医師の治療内容だけでなく、スタッフによるサービスの細かなところでもサロンに勝てるくらいの差別化が必要。そのためスタッフにも、患者さんとの接し方を徹底して教育している。「思っているだけでは伝わらないのでちゃんと声に出しなさい」といった初歩的な指示から、相手のニーズのくみ上げ方まで、毎週目標を書いた紙をスタッフに回し、読んだ者にチェックさせるなど地道な作業を続けている。
一番の工夫
「丸見え」を、患者さんは意外と嫌がらない
人は「病院に来た」と思った瞬間、「患者」の意識になる。この心理は軽視できない。なぜなら、ネガティブなメンタルパターンに陥ると痛みの度合いが上がり、ポジティブになれば痛みが下がるという研究も報告されているからだ。
そこで病院然とした部分を極力排除するため、内装は設計士ではなくインテリア・デザイナーに依頼。コストがだいぶかかったが、期待以上の仕上がりになった。リハビリスペースの壁はガラス張りで、院内は一気に明るく、スタジオのような雰囲気に。夏場はリゾート地のように陽が入る。当初はリハビリする患者さんが丸見えになることを心配したが、意外と皆さん気にしない。気になる方には、遮蔽カーテンで対応している。
もう一つの工夫は、米国の病院システムに倣って、複数の小部屋を用意したこと。患者さんを診察室に呼び込むのではなく、予め部屋に待機していただいて、医療者の方が部屋に出向く。患者さんは極力動かない。これは、体の痛みに苛まれる患者さんには、非常に喜ばれている。
一番の失敗
院内の低稼働空間の改善を、ズルズル先延ばし
開業当初は、リハビリ室の配置が今と違い、もう少し贅沢な使い方をしていた。理学療法士の部屋とは別に、自主トレ専用スペースを設置していたのだ。
しかし、思いのほか自主トレに来る患者さんが少なく、来ても理学療法士がいるときだけのケースが多かった。そのため、あまり稼働しない部屋になっていた。私もそれに気付いたが、本気で問題視するのが遅かった。「理学療法士も広いスペースでやりたいだろう」と思ったり、開業前に自分が描いた自主トレのイメージをすぐに崩す気にもなれなくて、つい半年くらい放置してしまった。
でも本来は、無駄な空間を許すような余裕が個人クリニックにないのは自明だ。こうした問題が起きた時には、ある程度の様子見の期間も必要だが、経営者としてはもっと素早い意思決定が必要だったと反省している。
一番の拘り
最初に、徹底的に痛みを取り除く
私の基本方針は、患者さんの痛みを、最初に徹底的に取り除くこと。注射や針など様々な治療法を集約し、薬も様々なものを組み合わせる。
このやり方は、短期的には収益が苦しくなる。最初から高力価の薬剤を用いると保険が通らず、当初費用が医院側の持ち出しになりがちだからだ。また「治りが早い」から治療期間が短くなり、患者数の安定性は低下する。
ただ、中期的にはメリットが上回る。治療の効果を実感できるので、患者さんはリピートしてくれる。それに、「治療が効いた感じ」は口コミになりやすい。似た症状の知り合いをたくさん連れて来てくれる。
同様の視点が、コミュニケーション方法にもいえる。私は患者さんのニーズを拾うために会話を惜しまないので、当初は時間がかかってしまうが、良い評判となって口コミされるようだ。より短時間で「相手が求めるもの」「何をどう困っているか」を効率的に拾い上げたいところだが、そのスキルは日々精進である。
一番の秘訣
何を提供できるかではなく、相手が何を欲しているか
プライマリ整形外科ホームページ
ドラッカーの著書を愛読している。共感する部分が多い。私も、「こちらが何を提供できるかではなく、相手が何を欲しているか」に合わせて商品を提供していくことを基準としている。
我々にとって、患者さんは「顧客」だ。しかし商品は、「疼痛を減らす」などの医療サービスであり、物販と同じ計算はできない。コストの考え方も、目に見えるコストだけでなく、見えないものもある。医療の利潤とはその場の採算ではなく、次につながるか否か、患者が帰って来てくれるかどうかだ。そのため「患者の要望を間違いなく捉え、返せる企業」になりたいというコンセプトを持っている。
対外的戦略では、ウェブ活用に重点を置いている。当院のホームページには疾患アーカイブがあり、膨大な量の説明が掲載されている。「とりあえず当院に来れば、情報が手に入る」と思ってもらうのが目的だ。検索エンジンにひっかかりやすい構築法など、専門業者に協力してもらって進めている。患者さんにはオフィスワーカーが多く、彼らは調べる際にウェブを使いがちなので、効果は上々だ。現在のアクセス数は月間2万人~3万人で、個人クリニックとしては異常とも言えるレベルに達している。
一番の夢
運動器疾患医療のイノベーションクリニックへ
個人クリニックには、そこでしかできない医療がある。私は勤務医時代にやりたい医療を見つけ、それが病院ではできないから開業した。これから開業される方にも、「最新機器を揃えた大学病院には真似ができない、自分なりの医療を提供する」という気持ちで開業して頂きたい。
それには、困難がつきまとう。私の場合、今の医療制度では保険の縛りがきついことが時にネックとなっている。患者さんが痛がっているのに使えない薬があるなど、本末転倒だ。解決策としては、保険治療は維持しつつも主軸とはせず、リハビリなど自費の部分で高い質のものを提供して収入獲得する形にしたいと考えている。
そして将来は、当院を「運動器疾患医療のイノベーションクリニック」にしたいと思っている。米国にはNCCAM(The National Center for Complementary and Alternative Medicine)という、整体や針、アーユルヴェーダなどの代替医療をまとめて研究している国の施設がある。それを模して、複合的な治療法を用いて「痛みを早く徹底的に取り、手厚いリハビリを中心とした治療」を主軸に、患者さんニーズに合わせた新しい医療を提案したい。痛いからと機能不全を放置したり、老人を寝たきりにさせたりするのではなく、「諦めさせない」医療のイノベーターでありたいと思う。
医院プロフィール
プライマリ整形外科 麻布十番クリニック
東京都港区麻布十番1-5-18 カートブラン麻布十番9階
TEL:03-5474-2700(代表)
医院ホームページ:http://www.po-ac.jp/
地下鉄大江戸線・南北線麻布十番駅から徒歩5分。クリニックは高級感漂う麻布十番の街中にあり、なかに入るとガラス張りのお洒落なスタジオのようだ。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
整形外科、リハビリテーション、鍼灸治療
理念
患者さんが少しでも楽しく生活できる為に、医療技術を用いてからだの問題を解決・サポートすること。
院長プロフィール
寺尾友宏(てらお・ともひろ)院長略歴
1997年 東京医科大学医学部卒業
1997年 東京医科大学整形外科講座
1999年 東京警察病院整形外科勤務
2003年 洛陽病院勤務
2007年 京都大学大学院医学系研究科修了
2007年 東京ミッドタウンクリニック 整形外科長就任
2009年 プライマリ整形外科麻布十番クリニックを開業。
資格・所属学会他
日本整形外科学会認定 専門医、日本整形外科学会認定 スポーツ医、日本医師会認定 健康スポーツ医、日本体育協会公認 スポーツドクター、NPO法人芸術家のくすり箱に参加
本当に患者さんに必要な医療が見えてきた」と寺尾院長。
明るくて気さくな人柄だが、どんな話をしていても
「患者さんのため」という軸からぶれない。