「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
医療法人社団 未知会 宮崎整形外科
宮崎 祐院長
12年間、患者数が毎年増加
地域密着の整形外科ながら
若年層割合も高く維持
一番の苦労
有能スタッフを怒ることができず、個人依存体質の医院運営に
開業2-3年目に、思わぬところで大きな壁にぶちあたった。長らくこの地で産婦人科をやっていた祖母が亡くなった時に、「地域医療の灯を消してはいけない」との想いがあり、私が開業することになった。けして用意万端ではなかったので、前の職場で実力も気心も知れていた数名に、立ち上げスタッフとして参画してもらった。
受付・会計も、看護も、リハビリも、思惑通りに円滑な運営が始まったな…と思ったのも束の間、逆に「仲良しチーム」から脱却できず行き詰ってしまった。個人で仕事を抱えるので残業が増え、新人を入れても育たず、休みの取り方もわがままでルールができない。患者数の増加ペースから見て、このままでは破綻するのは確実だった。一番の原因は、前職で「同僚」だった人達との間に規律を作れなかった、私の経営者としての未熟さ。端的に言うと、「怒れない」ことだった。
当時はマネジメント本を読みあさったり、悩みながら街をフラついたこともあった。労務セミナーでたまたま良い社労士に出会い、半年以上をかけて人事制度を作ってもらい、スタッフも入れ替えて、やっとの思いで組織化を進めることができた。指揮命令系統もつくり、朝礼も始めたら、遅刻する人がいなくなった。「個人スキルで仕事を回す」のと「組織として運営する」のでは、全然違うことであると、思い知った。
一番の工夫
「医療ミスは0%には出来ない」を前提に行動
「院内で起きたことは全て、俺が責任を取る」と日頃から繰り返し宣言している。何の話かというと、医療ミス対策。人間のやることなので、当院でもミスや事故はある。たとえば、同姓同名の患者さんに人違いの処置をしてしまいそうになったり、リハビリ用具の貸し出し時の寸法確認がおろそかだったり。あるいは、「そんなつもりで言ったわけでは・・・」という類のコミュニケーション上のトラブルも、患者さんが増えれば一定確率で起きる。
幸い大きなトラブルに発展したことはないが、一番重要なのは、ミスやトラブルを隠ぺいする体質にならないことだ。何か発生した時には、患者さんに事実を伝え、率直に謝るようにしている。同様の方針を取っている医院は多いだろうが、これは院長が心のなかで思っているだけでは不十分で、言葉と態度で示すことが重要だ。日頃からスタッフには、「ミスやトラブルは、すぐに言ってくれ。個人を責めることはしないから。」と伝えており、トラブル対処は人に任せず私自身が担当している。そして大きな事故につながらないよう、他に患者さんがいても最優先で対応する。
ミスを最少化するための業務改善努力も重要だが、過信してはいけない。確率ゼロにはならないことを考えた予防策も重要だ。たとえば「危険な薬剤は、出来る限り院内に置かない」「無理な処置は行わない」など、病院とは違う、個人開業医ならではの抜本的な対策もある。
一番の秘訣
職員モチベーションを維持する打ち手を、複数持つ
冒頭に紹介した組織化に成功して以来、院内はとてもうまく回るようになった。長く勤続しているスタッフもいて、本当に人材に恵まれている。そうした私の気持ちは、処遇面でも積極的に伝えるようにしている。とはいえ原資には限りがあるから、上手に使わなければならない。
まずは休みをきちんと取らせること。特に、主任から積極的に取らせることで、下の人間が休みを取得しやすくなるよう気をつけている。ボーナスも年に3か月分を目標にしている。報酬改定の年は収入全体が減るのでボーナスも減るが、頑張った人にはそれなりの金額を確保して私のメッセージが伝わるようにしている。特に就業直後は、基本給が少ないので上げたり下げたりしやすい。成長した人は上げ、問題があった人は下げることで、きちっと前向きなマインドを植え付ける。
一方、職員慰労会は普段あまり行けない贅沢といわれるようなレストランで食事をするなど、職員が楽しみにしてくれるようなイベントを心がけている。
一番の特徴
基本が大事、掃除やマニュアル徹底も
当院は9:00スタートだが、当番制で7:30に出勤して掃除をしている。これは開業当時からの習慣で、私も一緒にやる。トイレ掃除だって皆でやる。最近の若い女性には掃除が苦手な人も多く、男性スタッフの方が上手だったりする。
また、各種の業務マニュアルを整備して、徹底するようにしている。これは、ある人が退職する際に置き土産で作ってくれたものだが、以来ずっと内容をメンテナンスしていて、新しい人を採用した時に必ず渡し、遵守してもらう。「患者さんへの挨拶」も意外とできない人が多いので、そこから徹底している。
「掃除」や「挨拶」といった基本的なポイントを押さえることは、大事だ。技術や設備がいくら進んでも、医療は「人を治したいという気持ち」で成立している。医院経営もそれと同様で、当たり前なことの積み重ねの上で成り立っている。
一番のゆめ
診療幅の拡大は地元ニーズと世界ニーズの両方で
最先端の腰椎骨密度測定器
開業以来、患者数は少しづつ増えていて、今は1日250-300人。あと1-2割増くらいは効率化の余地があるだろうが、医師一人で診るにはそろそろ限界だ。もし日常診療を任せられるような医師と巡り合えば、在宅診療をしたり、リラクゼーション要素を取り入れた混合診療のリハビリを始めるなど、診療の幅を広げてみたいとは思っている。どちらも地域の患者さんからのニーズは大きい。
もう1つ着実に増やしていきたいのが、治験。現在4つを進めていて、収益的にも1-2割を占めるようになっており、また世の中の一歩先のことをするという職員のモチベーションアップ上の意義も大きい。特に、海外と同時進行する治験施設に選ばれると、私自身もインターネット上で英語のやりとりをしなければならず、新しい挑戦や刺激にもなっている。
このように、いろいろな次元でのニーズに敏感になっていれば、「患者数増加」とは違う経営拡大の仕方があると思っている。
医院プロフィール
医療法人社団 未知会 宮崎整形外科
東京都世田谷区桜新町1-3-2
TEL:03-3703-9111(代表)
医院ホームページ:http://www.youga.net/miyazaki/
東急田園都市線の桜新町駅から徒歩5分。以前は産婦人科だったため商店街から少し入った住宅街に立地する。6台収容の駐車場はこの地域の医院には珍しい。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
整形外科・リハビリテーション科・乳腺外科・外科・胃腸科
理念
患者さん一人ひとりの病気の状態に一番適した治療を真剣に考え、心身ともに健康な状態に戻るよう全力で治療することを目指している
院長プロフィール
宮崎 祐(みやざき・ゆう)院長略歴
1993年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業/慶應義塾大学医学部整形外科学教室入局
1994年 公務員共済稲田登戸病院整形外科勤務
1995年 けいゆう病院整形外科勤務
1997年 慶応義塾大学病院月ヶ瀬リハビリテーションセンター勤務/都立大久保病院整形外科勤務
1999年 宮崎整形外科開業
所属学会ほか
日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター
宮崎院長も、体育会系の元気や潔さが言葉から伝わってくるタイプ。
「32歳と若くして開業したのは良かった」と笑う。