「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
医療法人明皐会 石坂整形外科クリニック
石坂淳院長
わずか半年で医院経営が軌道に
患者の「居心地」にこだわった開業
一番の苦労
「丁寧さ」と「効率」を両立させるために
自らの戒めにしている手紙がある。おばあちゃんの患者さんから貰ったものだ。「年寄りの話をいつも根気良く聞いて下さって、有難うございます」という内容で、読んで「はっ」とした。実は私は、おばあちゃんの話を聞いてはいたものの、内心では「まどろっこしいなあ、面倒だなあ」と思って、辛抱していた面があった。外で待ち時間が長くなってイライラしている他の患者さんも気になるし。多分、そんな私の気持ちは、患者さんにも伝わってしまっていたと思う。それでもおばあちゃんは、感謝の言葉をわざわざ書き綴って、手紙にして持ってきてくれた。患者さんの「話を聞いてもらいたい」という気持ちを大事にしなければいけないな、とその時以来、丁寧な診療を心がけている。
ところが丁寧な診療は時間がかかる。時間がかかると当然、他の患者さんからは「待たせ過ぎだ」というクレームが入る。一時期は、待ち時間が3-4時間になってしまうことが珍しくなかった。当院は幸いにして、開業半年くらいで予想以上に順調に患者さんが増えたので、「これはマズい」と考えた。
なんとか「丁寧さ」と「効率」を両立できないかと工夫した。例えば、自分で何でもやるのは止めてスタッフに問診や診察準備をしてもらい、準備が出来てから私は診察室に入るようにした。そうすると、医師が2つの診察室を行ったり来たりしてフル稼働できるので、診療に使える時間が長くなる。さらに、診察時は背後にスタッフについてもらい、パソコン入力を代行してもらうようにした。パソコンの操作時間のロスをなくすためだ。結果として、スタッフ全員でパソコン画面を共有しながら仕事をするカルチャーになったので、2つの診察室だけでなく、受付やリハビリ室でも状況を把握しながらスタッフが自主的に動くようになった。院内全体の効率も上がった。
一番の秘訣
患者さんに感謝されるための心がけ
クリニックの評判を高めるには、やはり診療で患者さんに感謝されなければいけない。感謝は口コミにつながる。そして口コミこそが、患者数を伸ばす原動力だ。
感謝される秘訣は3つ。まず第一は先に挙げた「丁寧に診る」こと。医者は忙しくてつい効率的に診療を進めたくなるが、「もっと話を聞いて欲しい」と思っている患者さんは多い。だから丁寧に接すると、とても満足してもらえる。
第二は、「早く良くする」こと。例えば、「腱鞘炎に対するステロイドの注射」に私は積極的だ。効く場合は劇的だから、早く患者さんを楽にしてあげられて、感謝される。
そして第三は、「見込み」を伝えること。医師は自然歴を知っているが、患者さんは知らない。だから「この痛みはいつまで続くんだろう、ひょっとして治らないのか」と不安になったり、逆に痛みが取れてくると学生さんなんかはすぐに激しい部活動をしてしまってかえって治癒まで長引くケースがある。例えば肉離れの患者さんには「1-2週間は痛みが続くけれど、その後は楽になるからね。でも、その時点ですぐにスポーツをしてはダメで、もう1週間我慢してから始めないといけないからね。」と予め先行きを説明しておく。するとスムーズに治療が進む。これは、患者満足度ランキング1位とされる小児科の先生がTVで言っていたことで、なるほどと感心したので私も始めたが、皆さんも真似ると良いのではないだろうか。
一番の工夫
スタッフが気持ち良く働ける配慮
スタッフは多めに雇っている。診療所の口コミは、スタッフの評判によるところも大きいから、彼女達にゆとりを持って仕事をしてもらえるよう「少し過剰かな」と思うくらいの配置でちょうど良い。忙し過ぎて自分に余裕がなければ、患者には優しくできないから。
最初のうちは、私自身で接遇面の教育もした。「患者さんに具合を聞く時には、ちゃんとしゃがんで膝をつくこと」「自分の顔の位置は、患者さんの目線よりも下にすること」「MRなどの業者さんにも、丁寧に接すること」など具体的に教えた。今では先輩スタッフがそうした教育を自主的に新人さんにしてくれている。全員フラットで階層は設けていないが、上手く仲良く仕事をしてくれている。
毎日朝礼をして当番制で1分間スピーチをしてもらったり、定期的に個人面談をして家庭状況や職場の人間関係も含め、出来るだけスタッフの状況を把握するように気を配っているつもりだ。食事会やバーベキュー、職員旅行など、院内の懇親イベントも月1回くらいやっている。当院の掲げる“居心地の良い診療”を提供できるように、スタッフ自身が気持ち良く働ける環境づくりは大事だと思っている。
一番の特徴
患者さんの居心地のための空間づくり
居心地良く感じてもらうため、クリニックを設計する際に「病院らしくない」ことを重視した。建物の外観デザイン、内装の明るい色、柔らかいカーブの什器。いくつかのクリニックを見に行って自分のイメージを膨らませたし、そうしたクリニックの実績があるメーカーを選定した。おかげで患者さんからも「ホテルみたいで、気持ち良い」と好評だ。
最も特徴があるのは、リハビリ室は大きな吹き抜け空間。しかも天窓がついている。ベッドに横になってリハに励む患者さんの目に、青空や星空が入ってくる。「病は気から」という面があるから、院内がどんよりとしてはいけない。
服装も、スタッフは白衣を着ていないし、私も軽快感のあるケーシーにしている。外科は処置で血が飛ぶのでカジュアル服ではできないが、患者さんを服装で緊張させないことは重要だと思う。
また「院内処方」にしているのも、患者さん視点で考えた結果だ。足腰が悪い患者さんに、薬局に行ってもらって、私の知る限りは、流行っている整形外科は院内処方が多い。
一番のゆめ
経営拡大よりも、「スタンダード」から遅れないこと
医院運営は現在、順調だ。苦労せず短期間で軌道に乗った理由は、この地で開業していた、今は亡き父の基盤に負うところが大きい。開業前から近隣の人が応援してくれたし、周囲の開業医からもアドバイスをもらえたし、金融機関も信用してくれた。
でも患者さんが増えたからといって、分院を作ったり、医師の数を増やして経営拡大していこうとは考えていない。医師を雇うと、一人で医院運営するのとは違う課題が出てくるし、自分がそれに向いているとは思わない。
それよりも、きちんと最新の医療を患者さんに提供し続けることに労力を使いたい。例えば、関節リウマチ患者への生物学的製剤投与を連携先病院と開始しているが、これを本格実施に移行するには、処置室を作るなど新たな投資も必要だ。経営拡大よりもそちらに興味がある。 既に、医療機器や什器は最新のものを揃えているつもりだ。卸を通さずに自分自身で展示場に行って触って比較検討したし、価格交渉も自分でやるなど、こだわった。引き続き、クリニックであっても整形外科の「スタンダード」から遅れないようにして、患者さんひとりひとりの立場で最適の治療法を選択できる体制を強化していきたい。
医院プロフィール
医療法人明皐会 石坂整形外科クリニック
神奈川県海老名市中新田490-2
TEL:046-235-8882(代表)
医院ホームページ:http://www.myclinic.ne.jp/isizaka/pc/index.html
JR相模線・小田急小田原線・相鉄線の海老名駅から徒歩15分。高級ペンションのような建物が見えてくる。30台収容の広い駐車場も完備。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
整形外科・リウマチ科・リハビリテーション科
理念
ひとりひとりのお立場にたって最適な治療法を選択し、
お子様からご高齢の方まで皆さまに“居心地の良い医療”を提供
院長プロフィール
石坂 淳(いしざか・じゅん)院長略歴
1996年 北里大学医学部卒業 東京慈恵会医科大学付属病院整形外科学教室入局
1998年 慈恵医大整形外科学教室 助手
2003年 富士市立中央病院整形外科 医長
2006年 厚木北部病院整形外科 勤務
2007年 石坂整形外科クリニック 開業 院長就任
所属学会ほか
日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定スポーツ医
周囲の人が、頼まれなくとも応援したくなるような爽やかさを持っている。
開業後に医院が極めてスムーズに立ちあがったのも頷ける。