「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
西城耳鼻咽喉科アレルギー科
西城 隆一郎 院長
あえて土地勘がないところでの開業
クリニックでも病院レベルの治療を目指す
一番の苦労
開業3年目までは、スタッフィングに悩まされた
マニュアル類の一覧
開業して3年間くらいは、スタッフの採用と管理に苦労した。看護師不足に加えて、「土日も診療」でやっていたので、給与水準を高く設定してもなかなか応募がない。やっと決まったと思ったら、電話の受け応えが非常識な人や、受付で私語する人だったこともある。人選や人の使い方については素人であったことが大きいと思うが、何度か入れ替わりがあって、4年目からやっと診療に集中できるスタッフ体制になった。
採用時には、まず履歴書をよく見ること。1年程度で転職を繰り返している人は何か問題があることが多いので慎重に採用を検討する必要がある。不安な場合は、前職の職場に照会することもある。「辞めた理由」が本人の言い分と食い違っていると要注意だし、本当に良い人は前の職場も率直に良い評価を伝えてくれる。
就業マニュアルも自作した。「受付で私語は慎むように」なんて一人ひとりに指導していられないから、暇な時間にコツコツと作っては、気付きがあるたび補足修正していった。マニュアルといっても、項目ごとA4半分くらいに注意書きをまとめただけ。でも就業開始時にこれをしっかり確認してもらうことで最初から一定レベルの業務が維持できるし、本人も仕事に入りやすくなる。
一番の秘訣
「ごく当たり前の事前準備」をする
私は医療一家に育ったので郷里で開業すれば地盤もあったが、「自分の力を東京で試そう」と、知り合いがいないところで開業した。耳鼻科医が不足している地域ではなかったので、はじめの半年くらいは患者さんが少なかった。事前に自分なりの準備と信念を持って開業したため、患者さんが少ない時期も前向きな気持ちで過ごすことができた。
秘訣は、普通の会社と同じで「当たり前の事前準備」をすること。当たり前とは、自分が患者さんだったら「行きたいと思うような場所」を選び、「通院可能な診察時間」の設定をして、「受けたいと思う診療」をすること。逆に言うと、家賃が安いだけで不便な場所にあったり、探そうと思っても探せない場所にクリニックを開設したりすると、患者さんは来てくれない。受診したくても時間的に無理な場合は診察を受ける機会を奪うことになる。また、適当な診察をされたり説明が不足していたりして診察後の満足がないと次に行きたいと思わない。患者さんに来てもらってはじめて医療サービスは意味を成す。私は物件探しも、事業計画立案も、融資申し込みその他の準備も、なるべく自分でやった。たった数千円で売っている「開業の手引き本」が随分と参考になるし、近隣医院がどんな開業時間でどんな治療を提供しているのかも、今ならインターネットを使えば大体確認できる。市場調査をすることで、「この地域でニーズ充足していない医療」がどんなものか把握できるはずだ。
あと、評判のよい診療所を見学させてもらうこと。なぜ皆これをやらないのか不思議だ。見学させてもらうコツは診療圏の競合しないクリニックにお願いすること。一日見学するだけで、病院勤めでは決して得られない、特殊なノウハウを勉強することができる。
一番の工夫
土日が先に埋まって、それから平日の患者数が伸びた
「日曜も診察しよう」と最初から決めていた。郷里の祖父や伯父が日曜診療をして患者さんから喜ばれていたのを知っていたし、祖父から「開業医に休みなし」と聞かされていたから。それに、近隣で日曜に開院しているところが当時ほとんどゼロだったので、「週末に医者に行きたい人は、さぞ困っているだろう」と考えた。
ところが開業して最初の日曜日は、患者数2人!自分もスタッフも暇でしょうがない。正直「これで大丈夫かな」と心配になった。でも半年を過ぎた頃から土日から先に一杯になった。一人で診ることのできる患者さんの数には限りがあるので、土日の初診患者さんが平日に再診してくれると理想的だが、そううまくはいかない、土日に来た人は土日に再来しがち。それは患者さんの都合だから仕方ない。
「患者さん集め」は、少ない広告予算を効率的に使うため、問診表に「医院を何で知りましたか」という欄を追加して統計をとりながら試行錯誤した。やってみてわかったのは、「開業当初は、近所の人から来院が始まるので、その人達に認知を高めるために目立つ看板が重要」「交通広告は費用対効果を考えると駅から近いクリニックであっても効果は乏しい。」「やはり口コミが基本」「ネット検索でクリニックを探す患者さんが医者仲間で言われているより多い」ことだった。
開業直後に非常に効果あったのは、「自治会報」と「保育園巡り」。保育園には、昼休みに自作チラシを持っていった。ただし一定の認知が行き渡った後は、どちらも、そこでの認知度が飽和したと思われ、初めほどの効果はなくなった。代わりにここ数年はインターネットがどんどん伸びて、新患の3割以上はネット経由になっている。例えば、夏に耳鼻科は暇になりがちだが、子供に「夏の鼻血」が多く発症するので、ホームページのなかに「鼻血(鼻出血)の原因と治療法」コーナーを設けたら、夏の患者さんが増えた。
グラフ:開業以来の初診患者の「当院認知」経路(再診含まず)
一番の拘り
「患者さん目線」は、言うは易し、行うは難し
ラミネート加工すれば何度でもマーカーで説明描きできる
「ウチは看板やホームページがなくても患者は来る」という先生がいるが、私は視点が違う。自分がクリニックを探す立場になれば分かるが、どんなに腕の立つ先生がいても、患者さんがたどり着けなかったら意味がない。「調子が悪い時にすぐ見つかる、行きたい時に苦労なくたどり着ける」のが、良いクリニックだと思う。病院とは違いある意味コンビニ受診をある程度許容するのがクリニックであると考えている。
それから「待合室に患者さんを溜めること」はさけたい。当院では受付を済ませた後はなるべく院外で待ってもらうようにしている。順番がきたら携帯に連絡するようにしている。患者さんは待ち時間を好きに使えてストレスがないし、私も大勢の人がイライラしながら待っていると心配せずに診察できストレスがない。何より、感染症が多い耳鼻科では、待合室での感染機会を減らせる意義が大きい。ビル開業でスペースが取れない場合は待合室のスペース節約にもなる。
「患者さん目線」で発想することは大事。医師という職業が偉いわけでも何でもない。自分の専門知識や治療法は、先輩医師から教わったり患者さんのおかげで身に付いたことばかりで、自分ひとりで考え出したものではない。それに、病気が治るということは、患者さんに「治る力」があってはじめて治るのであって医師がすべてを治しているわけではない、我々は手助けをしているに過ぎない。それを忘れてはいけない。
一番の助言
拡大路線ではなく縮小路線
開業したばかりはガムシャラに働くべき。スタートダッシュして、早くに医院経営を軌道に乗せる方が、精神衛生上も良い。私も開業して丸5年、ほとんど休みなく仕事した。ただ最近は、昼間に患者さんが多い日は、夜遅くまで仕事するのがきつくなってきたので、「自分の健康も大切にしよう」とペースを落とし始めている。
それに、大局的にはもはや開業医はお金持ちになれない。もともと医師は“ブルーワーカー”だが、30年前までは開業すると金銭的には恵まれていた。しかし最近の医療行政をみると、治療費を払う側にお金がなくなって医療費削減路線となっているわけだから、開業医の収入は減る一方だろう。これからは赤字経営のクリニックも増えると考えるのが自然だろう。その中で開業医を目指すなら早い者勝ちと考えざるを得ない。医療費が下がり過ぎないうちに早く開業して借金を返すことが唯一の自衛策である。私個人としても、現在は医療の質を保ちながら固定費の余りかからない縮小路線を目指している。
医院プロフィール
西城耳鼻咽喉科アレルギー科
東京都世田谷区成城2-40-5-2F
TEL:03-3415-8749(代表)
医院ホームページ:http://www.saijo-enta.com/
小田急小田原線成城学園前駅から徒歩1分
高級住宅街として名高い成城学園前駅に隣接する建物の2階。待合室、診療室の南側が全面ガラス貼りなので、採光は充分。「やや手狭」と西城先生は言うが、アットホームな雰囲気。
診療科目
耳鼻咽喉科・アレルギー科
理念
次に掲げる5つを心がけて、患者さんの立場に立った診療をいたします。
1.画像を見せて、丁寧に説明
2.できるだけ薬を使わない治療
3.できるだけ通院回数を減らした治療
4.常に最新の医療情報を提供
5.病診連携を心がけた治療
院長プロフィール
西城隆一郎(さいじょう・りゅういちろう)院長略歴
1995年 昭和大学医学部卒業
1995年 三重大学医学部耳鼻咽喉科学教室入局
(医局派遣により鈴鹿中央病院、私立四日市病院、済生会松阪総合病院、前田病院、関病院などに勤務)
2005年 三重大学大学院修了
2004年 西城耳鼻咽喉科アレルギー科 開業
所属学会ほか
日本内科学会総合内科専門医
日本耳鼻咽喉科学会専門医
耳鼻咽喉科臨床学会
スラリとしたイケメン先生としても近所で評判。
院内はなるべく物を置かない主義なのか、
すっきりと整理されている。
でも、お子さんの患者さんからの「おてがみ」は大切に保存。