「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
医療法人社団 清水内科
清水美津夫 理事長
19床の診療所が、患者数で大学病院に比肩。
地域に根付いた糖尿病の専門医院が、
患者さんの世代変化を敏感に察する。
一番の苦労
この10年の病院経営は順調だったが、最近「患者さんの世代交代」に直面。過去のやり方が通用しない患者さんが出てきた。
先代が開設した医院を受け継いで10年間、患者は右肩上がりで増え続けてきた。1か月のレセプトは2300枚に及び、うち1型糖尿病患者が120人、2型が1850人(2009年4月実績)。糖尿病患者の数でいえば、群馬・栃木・埼玉県下の大学病院と同等以上の水準になっている。
ところが患者さんの数が多いと、その変化も分かりやすい。糖尿病患者は、世代交代が始まっている。例えば、糖尿病治療で一般的な『教育入院』。栄養面に無頓着だった患者さんに食習慣を改めてもらう目的で、2週間程度でカロリー制限などの理解と実践に慣れてもらう手法だが、「教育」という言葉に、40代以下の患者さんはアレルギー反応を起こす。50代以上の患者さんなら教育=信頼感アップという受け取り方をするが、若い人達は強制・高圧的・洗脳などネガティブな印象を持つようで、「危うく、あの病院に”教育入院”させられるところだった!」と物議をかもしかねない。
また、患者会の運営も様変わりだ。途中で挫けず療養を続けるために、患者同士で支えあう意義は大きい。当院の患者会も30年の歴史を持つ(写真は、元巨人軍の新浦投手はじめ3人に講演してもらった30周年記念の会)。実は当院では、全員のHbA1cを名前を隠して毎月公表しているが、従来の患者さんは互いの数値を教えあって「あら、私も頑張らなきゃ」なんて言っていた。でも最近の40代以下の会員さんは自分の数値を隠しがちだ。そもそも「糖尿病とオサラバしたいのに、糖尿病の会に入るなんて」という反応も多い。確かに知識を得るだけならインターネットで済む時代だ。そのため若い世代向けに別の患者会組織を立ち上げたり、ディズニーランド・ツアーを企画したりと、過去とは違う取り組みをしている。
さらに、かつては通院中断してしまった患者さんに「様子伺いハガキ」を出していたが、このプライバシー配慮のご時世にならって、数年前に廃止した。糖尿病の治療は生活習慣に踏み込むだけに、世代間の習慣や感覚の違いに医療者側も対応していかなければならない。
一番の特徴
栄養指導の要はやはり栄養士。他に類を見ないほど充実し、治療・指導成果にも貢献している。
開業当時は、糖尿病を専門とするだけでも珍しい存在だった。夜の救急にも常時対応してきたので、それなりの安心を地域に提供できたと思う。お陰さまで「糖尿なら清水内科」と地元で言われるようになった。
でも当院の一番の特徴は、栄養士の体制だろう。療養指導士が4人いるのは、この規模の病院では例がないんじゃないか。その人件費は、食事作りを兼ねてもらうことで吸収しているが、彼女達は、栄養指導室だけでなく診察室や病室にも頻繁に出入りしている。患者さんのなかには、1回言っただけでは聞かない人もいるが、食事に一番近い人が医師や看護師と同じ内容を話すと、「ああ、本当にそうなんだな」と真剣に受けとめるようになる。
一番の秘訣
ここ2年で休みは1日。でも、大らかな気持ちをもてば、毎日は楽しい。「自分の性格にあう領域」を選ぶことが大事。
私は日曜日も朝9時には入院患者の顔を見に行く。365日、働いている。遠くに飲みに出掛けることもないし、家族との小旅行が僅かの楽しみもほとんどない。悲壮なワーカホリックに聞こえるかもしれないが、本人はそれが自然で、大らかに毎日を過ごしている。自宅が歩いて1分と家族に接しやすいことも大きいが、糖尿病という領域が、自分の性格にあっていることも大きいと思う。
医師には体育会系の熱血漢も多いが、私はマイペースでの積み上げ型。患者さんの生活習慣と付き合いながら、数値をコントロールし続ける毎日は、急性期の派手な治療が好きなドクターには不適だろう。
一番の助言
待たずに率先してやってみる。新しいことを始める時も、職員への指導方法も。
何か新たなことに踏み出す際には、患者さんが増えているうちに開始すべき。患者数が横ばいになってから、あるいは減少に転じてから、「このままではマズい。増患のために何か目新しいものを。」「ちょうど以前からやりたかった○○○に踏み出そう。」と新しいことに手を出しても、失敗するケースが多い。
それから、私は職員へ指示や依頼はあまりしない。任せる、ということをしてこなかった。その点は、今風のマネジメントとは違うかもしれない。率先垂範型でさっさとやってしまう方が、ストレスも溜まらない。職員の質にも依ると思うが、当院の場合はそのうち私の様子を見ていて他の者がやってくれるようになる。患者数が増加トレンドならば、こうした循環も良い方に回るのだと思う。
一番のゆめ
運動指導を強化して、新しい世代に適した糖尿病治療を拓く。
当院は栄養指導に強い反面、運動指導は遅れている。診療の際に5分程度の指導をすることもあるが、もっと実践的に行いたいと思っている。運動指導は点数が取れないために経営的には”患者サービス”になってしまうが、糖尿病治療には必要なものなのでリフォームや設備導入もして本格的に院内で実施できる環境を整えたい。
特に最近の患者さんは、具体的なものを求める。実際に見たり、食べたり、動かしたり、体験したものが、医師の話とつながるとドロップアウトが少なくなる。こうした傾向も踏まえて、次代の糖尿病治療を作っていきたい。最近は小中学生での2型糖尿病患者も増えてきた。将来的には、医学の道を志した娘と、世代をまたいで一緒に患者さんご家族を診る日が来るかもしれない。
医院プロフィール
医療法人社団 清水内科
群馬県高崎市飯塚町703
TEL:027-362-2838(代表)
医院ホームページ:http://shimizu-naika.or.jp/
高崎駅からタクシーで7分。北高崎駅から徒歩8分。
道路沿いに、タイル貼りの明るい外観の3階建てが見えてくる。糖尿病専門医3人のうち1人は女医。記事中にもある患者会は、『きしゃご会』という名称で現在の会員数は約90名。「きしゃご」とは、キサゴの貝殻を用いて遊ぶおはじきで、それを清水内科では栄養指導に使っていることから由来している。
診療科目
内科、糖尿病内科(代謝内科)、循環器科、消化器科
院長プロフィール
清水美津夫(しみず・みつお)略歴
1985年 帝京大学医学部卒
1985年 群馬大学第2内科入局
1986年 国立高崎病院
1988~1990年 朝日生命糖尿病研究所付属丸の内病院
1994年 県立心臓血管センター
1996年 清水内科 理事長就任
所属学会ほか
日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会
日本糖尿病学会糖尿病専門医
内科学会認定医
取材の帰りに雨が降りだしたら、「駅まで送っていきますよ。」
なんと車を自ら運転してくださった。
「ひょうひょうとしていながら、一方ではすごくマメな人。」とは夫人の弁。