「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
医療法人社団プラタナス 用賀アーバンクリニック
野間口聡 理事長・院長
「家庭医コンセプト」や「カルテのネット開示」
斬新な取り組みが、常に注目されてきた。
いま10年の節目を迎え、次の10年プランを語る。
一番の苦労
スタッフ離職に悩み、診療時間後の暗い待合室で一人ボーッとすることも。「うつになったかも」と思った。
当院は成功事例として取り上げられることもあるが、5年目まで内情は大変だった。開業後3年経ても「退職したい」話が後を絶たず、「私に人望がないからか」「給料がそんなに悪いのか」など心中穏やかでない日々が続いた。心労が積み重なり、人生最大のスランプだった。
一つの原因は、労働時間が長いわりに休みが少なく、精神的にも肉体的にもキツイこと。当院は、朝8時から夜の7時まで休診なし。交代で1時間の昼食休憩をとる以外は、皆で診療に没頭というスタイル。だから一人が抜けると別の人に負担がかかって・・という医療現場崩壊のような悪循環が起きた。
一番の工夫
辞めやすいシステムにしたら辞めなくなった。”チーム”として安心して仕事できるように、明文化や情報共有をした。
私はガムシャラにやり続けていた。でもスタッフは、際限なく負担増大していくかのような不安を抱き、それが院内の歯車を狂わせ、部門間の摩擦を生んだ。小さな診療所だから、医師だ看護師だ薬剤師だと、専門の仕事だけでは回らない。各自が担当領域を超えて互いに助け合い、患者さんの方を向いて有機的に連携するのが当然なのに。
ある時、各人の業務を書面化した。スタッフが交代できるように。極端に言うと辞めやすいように。ところが明文化され「自分の本来の業務分掌」が分かるようになったら、みんな安心して担当外の仕事をするようになった。スタッフ全員が”チーム”になり始め、辞めなくなった。
さらに、週1回の定期ミーティングを始めた。司会は事務長、時間は60分。議題は「週の出来事報告」「他院紹介患者さんの情報共有」「各部門からの来週予定発表」だが、スタッフから「問題提起」があると皆でそれを議論する。誰もが積極的に発言することを奨励し、むしろ人事査定項目に入れている。このミーティングを始めてから、部門間の軋轢や見解食い違いが激減した。
一番の失敗
無駄になったCT室。でも、脳神経外科医としてのシンボルを捨てる決断は、「家庭医」意思が揺るがなかった証。
「もったいなかったなー」と思うのは、CT室。鉛をばっちり張ったけれど、一度もCTスキャンを入れなかった。私のバックグラウンドは脳神経外科医。自分の武器としてCT導入は当然だったが、開業直前になって迷った。「本当に患者さんにとって良いことか」「資金繰り圧迫に耐えられるか」を考え、近所にCT利用させてもらえる医院が見つかったこともあって、導入しない決断をした。
病院勤務していた時は、簡単にCTをオーダーしたし、それを望む患者さんも多かったが、今は逆に「必要ないよ」と言って差し上げられるということが、自分を取り巻く医療経済へのベスト貢献の形と思っている。
一番の助言
若い開業医の皆さんには、想い描いた「理想の診療」像をまずはやってほしい。損得勘定をし過ぎないこと。
当院は、患者さんに対する気の遣い方が尋常ではない、と自負している。今でも、他の病院に自分がかかった時には、「患者目線に戻るチャンス」とばかり五感で「患者はどう扱われたいか」を意識するようにしている。儲からない「院内処方」を頑張って続けるのも、「体調悪い患者さんにとって、薬は、少しでも早く、楽に、もらいたいもの」だからだ。
開業したての開業医は、借金のプレッシャーなどもあるだろうけど、まずは自分の信じる道を進むべき。ダメだった部分だけ、少しづつ修正していけばよい。「患者さん満足」と「短期的収益性」を、切り分けて考えて欲しい。「金儲け主義」の匂いは、患者さんに必ず伝わる。
一番の秘訣
自分の限界を知り、「できること」「できないこと」を切り分けること。地道に続けること。
繁忙期は一日200人を超える患者さんが押し寄せる。全員に満足いく医療を提供できるわけではない。厳しいご意見をいただくこともあるし、それらご意見のすべてに改善対処できているわけでもない。
当院はすでに、インターネットを見て来院する新患比率が半数近い。ネット上では簡単に評判が検索できる。評判を見て来院した人は、当然、高い期待値を抱く。こんなに巨大な”期待の塊”に、自分達は応え続けられるのか?という怖さを、正直、感じることも。
でも私達は、地域拠点の小さな「箱」であり、キャパは限られている。できることを着実に続けるしかない。そんな開きなおりも必要と思う。
一番のゆめ
自慢は「10年間、ブレずに続けられた」こと。医療は続けてなんぼ。次は「ネットワーク構築の10年」にしたい。
当初は「このスタイルでは、いつ潰れるかな」と思っていた(笑)。それが開業10年目を迎えられたことは、「地域に認めていただけた証」とも総括している。初期の目標は達成された、と思う。ただ達成できなかったこともある。それはグループ診療。
当院は良くも悪くも私の色が出ている。医療法人としては他にも施設は増えたが、有機的に繋がっているとは言い難い。一方で、当院の田中副院長はじめ、私より優秀なドクターが仲間のなかに育っている。こうしたリソースをネットワーク構築するのが、次の私の責任だ。
グループ診療は、患者さんメリットも大きい。休診日に別の医院で安心して処方を受けられたり、健診や訪問診療ともシームレスに連携されていれば、サービス業としての質が上がる。それに個人的にも、これまで診療現場にどっぷり浸ってきたので、自分をブラッシュアップする機会も持ちたい。新たな10年に向けて足を踏み出していこうと思う。
医院プロフィール
医療法人社団プラタナス 用賀アーバンクリニック
東京都世田谷区用賀2丁目41-18 アーバンサイドテラス 1階
TEL:03-5717-6331(代表)
医院ホームページ:http://www.plata-net.com/yoga/index.html
渋谷から東急田園都市線に乗って、用賀駅徒歩1分。
外資系やIT系のビジネスマンが時折り行き交う駅前からほど近い住宅街にある。入口から診察室までまったく段差がない。待合室は、一般家庭のリビングルームのようなテーブルや椅子で、気持ちがなごむ。
運営母体のシンボルであるプラタナスの葉が、いたるところにデザインされている。トイレのスペースが大きめで、子連れの患者さんに便利。
診療科目
内科、小児科、呼吸器科、皮膚科、循環器科、外科、脳神経外科、小児心療内科
理念
- ファミリークリニックのドクター(家庭医でありたい)
- サービス業としての医療
- 患者様参加型医療
院長プロフィール
野間口聡(のまぐち・さとし)略歴
1988年 鹿児島大学医学部卒業
1988年 鹿児島大学医学部附属病院勤務
2000年 医療法人鉄蕉会亀田総合病院勤務
2000年 用賀アーバンクリニック開業
所属学会ほか
日本脳神経外科学会(専門医),日本脳神経外科コングレス,日本てんかん学会,日本定位脳手術研究会,日本脳波節電図学会,日本脳血管内手術研究会
通勤は真っ赤なスクーター。「昨日も、“入口が汚いね”と誰かが言ったら、
“じゃあやろうよ”と診療時間後にデッキブラシで率先して掃除したのは、
院長でした。」とは事務長の弁。