内臓脂肪など非リンパ組織のTregにIL-7が与える影響は?
京都大学は4月3日、内臓脂肪に存在する制御性T細胞(Treg)の生存維持にサイトカイン1IL-7の受容体(IL-7receptor:IL-7R)が必要であり、内臓脂肪で産生されるIL-7が2型糖尿病を抑制するために重要であることを発見したと発表した。この研究は、同大医学研究科の生田宏一特任教授(兼:医生物学研究所連携教授)、谷一靖江特定講師(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Immunology」にオンライン掲載されている。

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Tregは過剰な免疫反応を抑制することで自己免疫疾患などを抑制するT細胞の一種。Treg以外のT細胞はサイトカインIL-7の受容体(IL-7R)を高レベルに発現しており、IL-7依存性に末梢組織で生存している。一方、リンパ組織のTregはIL-7Rの発現が低く、IL-7がなくても生存できることが知られていた。近年、Tregは非リンパ組織にも多く存在していることが報告されており、特に内臓脂肪に存在するTregは2型糖尿病の抑制に重要な役割を担っていることが知られていた。しかし、内臓脂肪をはじめとする非リンパ組織のTregにIL-7が与える影響は未解明だった。
Treg特異的IL-7R欠損マウス、野生型に比べ高血糖
研究では、Treg特異的に欠損するマウス(IL-7RΔTregマウス)を作製して、さまざまな組織のTregの細胞数を解析した。その結果、IL-7RΔTregマウスでは胸腺やリンパ組織、腸管や肺のTregの細胞数は野生型マウスと差がないにもかかわらず、内臓脂肪のTregのみが野生型マウスに比べて半数以下まで減少していることを発見した。また、IL-7RΔTregマウスの内臓脂肪のTregでは細胞死を防ぐタンパク質Bcl-2の発現が低下していることがわかった。さらに、IL-7RΔTregマウスの血糖値を測定すると、野生型に比べて高血糖となっており、インスリンが効きにくい2型糖尿病を発症していることがわかった。
TSLP欠損マウスでも高血糖、好酸球の有意な減少を確認
IL-7RはIL-7以外にもTSLPと呼ばれるサイトカインと結合する。そこで、TSLP欠損マウスを作製し、内臓脂肪のTregや血糖値に与える影響を解析した。TSLP欠損マウスの内臓脂肪において、Tregの細胞数はわずかに減少していたものの、その減少はIL-7RΔTregマウスの内臓脂肪に比べて軽微なものだった。それにも関わらず、TSLP欠損マウスは野生型マウスに比べて高血糖を示したことから、TSLP欠損マウスの内臓脂肪の免疫細胞を詳細に解析したところ、好酸球が有意に減少していたことがわかった。
内臓脂肪で産生されるIL-7とTSLP、Tregと好酸球を介して2型糖尿病発症を抑制
最後に、公共のシングルセルRNAシーケンスデータベースの遺伝子発現解析を行い、内臓脂肪でIL-7とTSLPを産生している細胞を探索した。その結果、IL-7は中皮細胞から、TSLPは脂肪幹細胞とマクロファージから主に産生されていることが明らかになった。
以上の結果から、内臓脂肪のTregの維持にはIL-7Rシグナルが必要であること、TSLPは内臓脂肪の好酸球の維持にとって重要であることを発見し、内臓脂肪で産生されるIL-7とTSLPは、それぞれTregと好酸球を介して2型糖尿病の発症を抑制していることが明らかになった。
新たな2型糖尿病の免疫学的治療法の開発に期待
今回の研究で、サイトカインIL-7とTSLPには、内臓脂肪に存在するTregと好酸球を介して全身の血糖値をコントロールしているというこれまで知られていなかった新たな役割があることがわかった。マウスの実験では、わずか1回のIL-7投与により、長期間にわたって高血糖が抑制できることがすでに報告されている。「今後、IL-7やTSLPの投与による、患者への負担が少ない新たな2型糖尿病の免疫学的治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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