タンパク尿を生じる腎疾患のポドサイトでRac1活性が上昇、そのメカニズムは?
大阪大学は3月28日、腎臓の中で働く細胞の一つ「ポドサイト」について、新しい細胞保護メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科腎臓内科学の松田潤特任助教、島田直幸氏(博士後期課程)、猪阪善隆教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Society of Nephrology」に掲載されている。

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ポドサイトは、アクチン線維を骨格とする細かな足突起構造を張り巡らしており、「たこ足細胞」とも呼ばれる。足突起は、ポドサイトが基底膜に接着する上で重要であると同時に、隣り合うポドサイト同士が足突起を組み合わせることで、タンパク質の尿への漏出を防いでいる。このアクチン線維の調節に関わっているのが、Rho GTPaseと呼ばれるタンパク質群である。その一つであるRac1がポドサイトで活性化すると、足突起の形態が変化してタンパク尿を生じることや、ポドサイトが基底膜から脱落し糸球体硬化に至ることが知られている。また実際に、タンパク尿を生じる病気(ネフローゼ症候群や高血圧性腎症など)でポドサイトのRac1が活性化していることが、ヒトの腎生検検体や動物モデルで報告されている。一方で、ポドサイトのRac1活性がどのように調節されているかについては未解明だった。
GIT2がRac1活性を抑制し、ポドサイトの形態・機能を維持していた
今回研究グループは、Rac1を抑制してポドサイトを保護するメカニズムを解明することを目的に研究を進めた。近位依存性ビオチン標識によって同定したRac1関連タンパク質の1つ、GIT2に着目。GIT2の腎臓における発現分布を調べたところ、尿細管や間質に比べて糸球体で発現量が多いことがわかった。
次に、ポドサイト特異的GIT2欠損(ノックアウト)マウスを樹立し、表現型を解析。複数のポドサイト傷害モデルにおいて、ノックアウトマウスでは対照マウスと比較して、ポドサイトの足突起形態が悪化し、タンパク尿も増加した。ノックアウトマウスにRac1阻害薬を投与すると足突起の形態変化やタンパク尿が軽減したことから、GIT2がRac1活性を抑制することでポドサイトを傷害から保護していることが示唆された。
培養ポドサイトを用いて、GIT2-Rac1経路の詳細を解明
続いて、培養ポドサイトを用いてその分子メカニズムを解明した。まずGIT2はポドサイトの接着斑に局在することがわかった。そしてGIT2発現が低下した細胞ではRac1活性が亢進し、細胞形態の変化や運動能の亢進が見られた。同細胞では、脱リン酸化酵素であるPTP1Bの接着斑への移行が障害され、接着斑にRac1を引き寄せるタンパク質であるp130Casのリン酸化が亢進していた。
これらの表現型は、細胞に再度GIT2を発現させることで改善したことから、GIT2はPTP1Bの接着斑への移行を助け、p130Casタンパク質のリン酸化を抑制することで、Rac1活性を抑えることが明らかとなった。
Rac1抑制メカニズム、腎疾患治療標的として期待
高齢化が進む中、高血圧やネフローゼ症候群から慢性腎臓病(CKD)をきたす人が増えている。CKDに対する薬物療法はいくつかあるが、ポドサイトは基本的に再生能を持たないため、ポドサイトが不可逆的な傷害を受けると腎機能の改善は難しくなり、最終的に透析療法や移植に頼らざるを得なくなる。今回の研究により明らかとなったRac1を抑制するメカニズムは、ポドサイトを保護して腎機能を維持する上で重要と考えられる、と研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU