3D MRIで加齢性脳萎縮とアルツハイマー病・MCI・ハキム病を判別できるのか?
名古屋市立大学は3月28日、3次元脳MRIから、アルツハイマー病、ハキム病、軽度認知障害(MCI)に特徴的な脳萎縮や圧縮変形を同定したと発表した。この研究は、同大、滋賀医科大学、東北大学、山形大学、東京大学、大阪大学、東京科学大学、洛和会音羽病院、富士フイルム株式会社の共同研究によるもの。同研究は、ヒトの脳血液循環と脳脊髄液の動きをコンピューター上で再現してヒトの脳の自然老化現象をシミュレーションし、ハキム病、アルツハイマー病などの認知症、脳卒中などの脳環境代謝に関連する病態を解明すること(脳循環代謝数理モデルの確立)を目指す医工連携、産学連携の共同研究であり、研究成果は、「Brain Communications」に掲載されている。

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研究グループは、3次元(3D)画像解析システムSYNAPSE VINCENT(富士フイルム株式会社)の「脳区域解析」AIアプリを使って、3D MRIから脳と脳脊髄液を自動領域分割して、健常者の加齢性変化の特徴と、その影響による脳脊髄液(CSF)の増加、さらにCSF増加によりクモ膜下腔と脳室がどのような加齢性変化を来すかについて調査し、その成果を2023年4月に公表した。当時は、脳を21領域、CSFを5領域に自動分割するAIだったが、2024年にバージョンアップし、脳を100領域、CSFを7領域に自動分割できるようになった。「脳区域解析」アプリは、2020年より医療機器の認証を得て、病院や脳ドックなどで使われ始めている。
アルツハイマー病は最も頻度の高い進行性認知症であり、発症の前段階であるMCIのうちに発見し、予防的な介入治療や、発症後もできるだけ早期に診断を受けて進行を遅らせる治療を享受することができる。一方、ハキム病はアルツハイマー病ほど頻度が高くないが、認知機能障害に加え、歩行障害、尿失禁の症状が次第に増悪する疾患だ。CSFの排出障害が原因の水頭症であり、腹膜など頭蓋外でCSFを吸収してもらうための管を埋め込むシャント手術が行われ、早期であれば症状の改善が十分に期待できる。しかし、症状を年齢のせいと判断して病院を受診しない患者が多く、また、脳を専門とする医師にも十分には知られておらず、現在も見逃されやすい疾患だ。
いずれも早期発見が重要な脳の病気だが、脳ドックなどでMRIを受けても加齢性脳萎縮との区別がつきにくいことが課題だった。そこで研究グループは今回、SYNAPSE VINCENTの「脳区域解析」AIアプリを用いて、3D MRIから「加齢性脳萎縮」なのか「アルツハイマー病・MCI・ハキム病」などの認知症の可能性があるのかを定量的・客観的に判定できるようにしたいと考えた。
MCIは60歳以下では大脳皮質灰白質の萎縮を確認、70歳以上は同年代健常者と変わらず
研究グループは、アルツハイマー病患者256人、MCI患者163人、ハキム病患者77人(うち25人はアルツハイマー病を合併)、20~90代までの健常ボランティア474人(うち50歳以上の健常者400人)、計970人の3D T1強調MRIを使用し、AIで脳を100領域、CSFを7領域に自動分割した。
その結果、大脳皮質灰白質、皮質下灰白質、大脳白質の容積比は全年齢層で健康者が最も大きく、アルツハイマー病患者が最も小さく、MCI・ハキム病・アルツハイマー病併発ハキム病の患者がその中間くらいの体積割合だった。特に60歳以下では、MCI患者の大脳皮質灰白質の平均容積比が同年代の健康者よりも有意に小さかったが、70歳以上ではMCI患者と健康者は同程度だった。また、ハキム病は、脳室拡大とくも膜下腔の不均衡分布(DESH)の影響で、頭頂葉の縁上回、前頭葉の三角部および傍中心回、側頭葉の島皮質が最も圧縮されやすいことがわかった。
アルツハイマー病患者は海馬・側頭葉の容積比が同年代健常者と比較し有意に低下
アルツハイマー病患者は、海馬および側頭葉の容積比が同年代健常者と比較して有意に低下しており、特に嗅内皮質、紡錘状回、下側頭回の容積比が全年齢層で他の疾患よりも顕著に小さかった。ハキム病患者およびアルツハイマー病併発ハキム病患者では、頭頂葉の縁上回、前頭葉の傍中心回および三角部、側頭葉の島回の容積比が他の疾患よりも有意に小さかった。これらのことから、アルツハイマー病は海馬と側頭葉の萎縮が目立ち、診断に有用であることがわかった。
早期診断・治療介入後の変化だけでなく、発症予測や治療効果予測にも有用である可能性
MRIによる脳萎縮の判定には被検者の年齢が重要であり、今後は海馬に限らずAIによって脳を細かく自動領域分割し、脳局所の萎縮や圧縮変形などを定量的に判定する時代が訪れると予想される。
「健常な加齢性脳萎縮とは異なるアルツハイマー病を示唆する病的脳萎縮やハキム病に特徴的な脳室拡大・DESHと、それによる局所脳の圧縮変形の程度を定量的に評価することができ、早期診断、治療介入後の変化だけでなく、発症予測や治療効果予測にも有用と考えている」と、研究グループは述べている。
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・名古屋市立大学 プレスリリース