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自己免疫疾患に細胞治療の可能性、iTregの免疫抑制能を強化する方法を開発-阪大ほか

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2025年04月09日 AM09:30

iTregの臨床応用、課題の一つは炎症環境での安定性

大阪大学は3月28日、ヒトCD4+ T細胞において転写因子RBPJを除去することで、iTregの分化、安定性、および免疫抑制能が向上することを発見したと発表した。この研究は、同大免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)のKelvin Chen特任助教、坂口志文特任教授らの研究グループと中外製薬株式会社の木林達也氏らの共同研究によるもの。研究成果は、「Nature」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

Tregは、自己免疫寛容の確立と維持に中心的な役割を果たしており、自己免疫、アレルギー反応、移植免疫、腫瘍免疫などのさまざまな免疫応答の調節において重要だ。従来のナイーブCD4+T細胞からin vitroで誘導されるiTregは、生体内で分化するTregの機能を模倣し、自己免疫疾患に対する細胞治療への応用が期待されている。しかし、iTregの効率的な誘導、安定性、抑制能、および生体内持続性などの課題が、臨床応用のボトルネックとなっている。

iTreg細胞療法における課題の一つは、抑制するべき炎症環境がiTregを不安定にする可能性があること。そのような条件下では、iTregは抑制能を失い、場合によっては炎症促進に寄与し、病態を悪化させる可能性がある。

iTregのマスター転写因子FOXP3、ヒトにおける発現制御機構はほとんど解明されていなかった

Tregの機能とアイデンティティの重要な決定因子は転写因子FOXP3であり、これはTreg系統を定義するだけでなく、その抑制活性にも不可欠だ。これまでのCRISPRスクリーニングを用いた報告では、マウスモデルにおけるFoxp3の調節因子が特定されていたが、ヒトiTregにおけるFOXP3発現を制御する因子はほとんど解明されていなかった。

今回の研究では、CRISPRノックアウトスクリーニングを利用し、従来のCD4+T細胞をiTregに転換する過程においてFOXP3発現を正または負に制御する可能性のある数百の候補を特定した。

Perturb-icCITE-seq解析により、FOXP3発現制御の分子ネットワークをカタログ化

フローサイトメトリーを用いる従来の方法では、通常、FOXP3タンパク質などの限定的なパラメータ解析にとどまり、CRISPRノックアウトによる広範な表現型の変化を一度に効率よく解析することができなかった。

この制約を克服するため、研究グループはPerturb-icCITE-seqという新しいシングルセルRNA-seq解析手法に目を向けた。この手法はスケーラビリティにおいて大きな利点があり、各標的ノックアウトによるFOXP3タンパク質発現と転写プロファイルの両方を直接測定することができる。この方法により、各候補がFOXP3に与える影響だけでなく、iTreg分化中に生じる表現型変化についても深く理解することが可能となった。このアプローチは、iTreg分化制御に関わる複雑な調節ネットワークへの貴重な洞察をもたらした。

FOXP3発現の新規抑制性因子としてRBPJを同定

今回の研究では、特にRBPJという遺伝子に着目した。Perturb-icCITE-seqによる解析から、RBPJのノックアウトによりFOXP3発現が増加し、かつ既知の相互作用分子もFOXP3調節因子として同定されたため、FOXP3を抑制するための協調的なメカニズムの存在が示唆された。そのため、T細胞においてRBPJの発現を制御することで、「より良いiTreg」を作製できるかを検討した。

RBPJノックアウトによりiTregの免疫抑制能およびFOXP3安定性が向上

まず、RBPJ遺伝子をノックアウトしたiTreg( KO-)では、対照と比べてより高くFOXP3を発現することを確認した。次に、免疫抑制能を測定する共培養アッセイを用い、RBPJ KO-iTregの機能を対照と比較した。その結果、RBPJ KO-iTregはより高い抑制能を有することが明らかとなった。また、炎症促進性サイトカインへの繰り返し曝露によるストレステストでは、RBPJ KO-iTregは高い耐性を示し、FOXP3を安定して発現することが確認された。

これらの結果は有望なものだったが、同時に「RBPJがどのようにFOXP3を制御するのか」について解析する必要があった。

RBPJはNCOR複合体と協調し、ヒストン脱アセチル化よりFOXP3発現を直接的抑制

そこで、RBPJによるFOXP3抑制機構を明らかとするため、RBPJのクロマチン占有プロファイルとRBPJによるエピジェネティック・ランドスケープを検証する一連の実験を行った。これにより、RBPJがFOXP3遺伝子座に直接結合し、NCOR複合体と協調してヒストン脱アセチル化を通じたクロマチン抑制を促進することを見いだした。RBPJの除去に伴い、FOXP3の局所的なヒストンアセチル化が増加し、クロマチンアクセシビリティとFOXP3発現が増加した。

RBPJノックアウトによりマウス病態モデルにおけるiTregのパフォーマンスが向上

最後に、臨床的な応用可能性を評価するため、RBPJ KO-iTregを異種移植片対宿主病モデルに移入した。その結果、RBPJ KO-iTregは病態の進行をより効果的に抑制することが明らかとなり、RBPJを標的とすることでiTregを用いた細胞療法の治療効果が高まる可能性が示唆された。

炎症条件でも安定なiTreg、自己免疫疾患の新規治療アプローチとして期待

今回の研究では、RBPJをFOXP3の新規調節因子として同定し、RBPJがNCOR抑制性複合体と協調して局所的なヒストンアセチル化レベルを調節することで、FOXP3発現に影響を与えることを明らかにした。また、RBPJをノックアウトすることで、iTregの免疫抑制機能が強化され、炎症条件下でも安定なiTregの作製に成功した。

「Tregsがさまざまな免疫応答調節に関与しているという証拠が増えているにも関わらず、効果的な細胞療法の開発には依然として大きな課題がある。この研究による発見、特にRBPJ同定とそのFOXP3発現制御における役割の解明は、FOXP3調節の理解を深め、自己免疫疾患における免疫介入の改善に新たな道を開くものだ」と、研究グループは述べている。

 

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