造血幹細胞の加齢は免疫機能低下や造血腫瘍発症につながる
東京大学医科学研究所は3月27日、加齢した造血幹細胞を機能的に分類可能な新規老化マーカーとしてClusterin(Clu)を同定したと発表した。この研究は、同研究所幹細胞分子医学分野の岩間厚志教授と小出周平特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」に掲載されている。

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造血幹細胞は、加齢とともにその機能・特性が変化する。加齢した造血幹細胞は、血液細胞を作り出す機能の低下や、分化の偏り(骨髄球系細胞・血小板への分化がリンパ球系細胞への分化よりも優位となる)が生じ、骨髄球系腫瘍を発症するリスクが高まるが、その詳細な原理は明らかではなかった。
加齢すると「Clusterin」を発現する造血幹細胞が増える
研究グループは、若齢マウス(8~10週齢)と加齢マウス(20か月齢)の造血幹細胞を用いたsingle cell RNA-sequence解析(個々の細胞の遺伝子発現を網羅的に解析する技術)から、加齢造血幹細胞マーカーとして分子シャペロンの一つであるClusterin(Clu)を同定した。
Clu-EGFPマウス(Cluの発現をEGFPでモニタリング可能なマウス)を用いて、造血幹細胞の加齢変化とCluの発現を評価したところ、若齢期ではClu陽性造血幹細胞は少数であるのに対し、加齢期ではClu陽性造血幹細胞が支配的になることが明らかになった。
Clu陰性の加齢造血幹細胞は若齢造血幹細胞に近い機能性を維持する
次に、移植実験から加齢造血幹細胞をClu陽性とClu陰性に分けて機能性を評価した。その結果、Clu陽性の加齢造血幹細胞はリンパ球分化能が著しく減少し、骨髄球・血小板へ分化が偏ることから、典型的な加齢造血幹細胞の表現型を有することが判明した。
一方、少数ではあるが維持されるClu陰性の加齢造血幹細胞は、若齢造血幹細胞と同様に多様な血球細胞を産生することが明らかになった。さらに、RNA-sequence解析(細胞内のRNA分子を網羅的に解析する技術)およびATAC-sequence解析(細胞内のクロマチンの開放性をゲノムワイドで解析する技術)の結果から、Clu陰性の加齢造血幹細胞は若齢造血幹細胞と類似した特性を有しており、Clu陽性の加齢造血幹細胞が加齢特性を規定する幹細胞分画であることが示された。
Clu陽性加齢造血幹細胞を標的とする新たな治療戦略に期待
今回の研究から、造血系の老化はClu陽性造血幹細胞が加齢に伴い増加することが原因の一つであると考えられた。この研究成果は、造血幹細胞を機能的に分類可能な新規老化マーカーを同定したものと言える。
「Cluを標的とすることでClu陽性加齢造血幹細胞を除去し、Clu陰性造血幹細胞の増幅を誘導するなど、老化関連疾患の新規予防・治療戦略の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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