遠隔リハビリは増加しているが、利用者の精緻な心身機能のアセスメントは困難
産業技術総合研究所は3月25日、遠隔でリハビリテーションができる社会の実現に向け、上肢・肩甲骨運動に特化した世界初のオープンデータセットを公開したと発表した。この研究は、同研究所、京都大学、東京大学、セイコーエプソン株式会社、株式会社エブリハの研究グループによるもの。計測したデータはオープンデータセットとして公開し、大学・研究機関、リハビリ事業者をはじめとする民間企業などとのコミュニティー形成と市場開拓を目指す。

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オンラインビデオ通話形式や非没入型バーチャルリアリティ(VR)を活用した遠隔リハビリ事業が増加し、クロスリアリティ(XR)リハビリも海外で進展しているが、遠隔とXRを両立させた事例は国際的にも多くない。この理由として挙げられているのは、ヘッドマウントディスプレイなどのXR機器の装着やリハビリアプリの使用感、メタバースへの参加といった利用体験が、ユーザーの期待する価値を十分に満たせていないことだ。さらに、遠隔化によってトレーナーや医師、看護師などの存在感が希薄になったり、実際の疾患を持つリハビリサービス利用者(患者を含む)の精緻な心身機能のアセスメントが困難になることで、運動訓練継続の動機付けが難しくなることも大きな課題だった。
運動アセスメントや力覚提示が可能なウェア・運動評価用AIなど開発
このような背景の下、2021年度から「人工知能活用による革新的リモート技術開発プロジェクト」事業の一環として、研究グループは「遠隔リハビリのための多感覚XR-AI技術基盤構築と保健指導との互恵ケア連携に係る研究開発」に取り組み、2024年度、実際の利用者、療法士などの提供者、ならびに介護・医療現場の協力の下、各種実証を開始している。
今回、利用者の運動アセスメントや力覚提示のために、高感度・低ヒステリシスなひずみセンサ群、ハンガー反射デバイスなどを組み込んだMR3(Multi-Modal Mixed Reality for Remote Rehab:エムアールキューブ)ウェアを開発し、ウェアラブルデバイスでの肩甲骨運動の把握および遠隔上肢リハビリへのハンガー反射の適用を実現した。また、その肩甲骨運動の大きさの定量化や上肢の各関節角度を推定するために、ひずみセンサ群から得られる計測データを入力とする運動評価用AIを開発した。さらに、自己効力感を高め、動機付けに寄与する手段として注目されるハンドリダイレクションの上肢リハビリへの適用、遠隔互恵ケアによる運動訓練の継続性向上効果の評価などにも取り組んだ。
上肢・肩甲骨運動オープンデータセット整備、倫理審査承認された国内企業や団体へ提供開始
利用者の運動の質と量の計測・把握を精緻化することで、遠隔からのリハビリサービス利用者の精緻な心身機能のアセスメントが実現し、運動訓練継続のための動機付けに寄与することができる。そのためには、技術開発、性能評価、実用化のための敷居を下げる必要がある。そこで、同事業の対象である上肢・肩甲骨運動に関するモーションキャプチャデータのオープンデータセットを世界で初めて整備し、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づいて審査され承認された実験計画書を提出可能な日本国内の企業・団体へ2025年3月25日に提供を開始した。
データセット起点としたコミュニティー形成、遠隔XRリハビリに関する共同研究開発促進を目指す
このデータセットに含まれる高性能なIMUで計測されたモーションキャプチャデータに加えて、MR3ウェアに組み込まれたひずみセンサ群の計測データも同時に収集されており、それらを合わせて運動評価用AIの性能向上を進めている。
また、産総研が主体となり、同データセットの公開を起点とした大学・研究機関、リハビリ事業者をはじめとする民間企業などとのコミュニティー形成を通じて、遠隔XRリハビリに関する共創的な研究開発促進、市場開拓への貢献を目指す。「さらに、メタバースでのアバター制御やハンドリダイレクションの実装を容易にするための標準化、互恵ケアを含む各種使用ガイドラインの公開と精緻化などにも取り組むことで、遠隔XRリハビリをより使いやすく、魅力的なものにし、普及における課題解決に貢献する」と、研究グループは述べている。
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・産業技術総合研究所 プレスリリース