「懐かしさ」は、人間関係に長期的な影響を及ぼすのか?
京都大学は3月25日、約1,500人を対象とした国際調査で懐かしさを感じやすい人ほど親しい友人が多いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院人間・環境学研究科博士後期課程の黄冠儒氏と、ニューヨーク州立大学バッファロー校博士課程のYa-Hui Chang氏(研究当時)らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cognition and Emotion」にオンライン掲載されている。

年齢を問わず、人間はしばしば懐かしさを感じる。進学や就職に伴う環境の変化に直面したときや、年齢を重ねることでさまざまな喪失を経験したときに、懐かしさを感じることがよくある。心理学研究では、懐かしい感情が人生の一体感や生きがいを感じさせ、孤独感を和らげ、他者とのつながりを強く感じさせるといった心理的機能を持つことが示されている。しかし、懐かしさが人間関係に実際にどのような長期的な影響を与えるのかについては、十分に解明されていない。
特に、過去の大切な思い出をよく振り返る人が、友人関係に対してどのような動機を持っているのか、または長期的に多くの親しい関係を維持するのかについては、まだ明確にはわかっていない。そこで研究グループは今回、この点を明らかにすることを試みた。
懐かしさを感じやすい人ほど友人関係の維持を重視し、親しい友人が多い
研究では、懐かしさと人間関係の関連について3つの研究を行った。研究1では、米国の大学生を対象に「懐かしい経験を思い出すことはあなたにとってどれほど重要ですか?」や「どれくらいの頻度で懐かしさを感じますか?」などの質問を通じて、懐かしさの度合いを測定した。また、新しい友人を作ることや現在の友人関係を維持することに対する動機づけ、知り合いや親しい友人の数についても尋ねた。回答を分析した結果、懐かしさを感じやすい人ほど友人関係を維持することを重視し、多くの親しい友人を持っていることが明らかになった。
研究2では、米国の大学生以外の成人(平均年齢40歳)を対象に、研究1と同じ質問をしたところ、同様の効果が確認された。
過去の楽しい思い出を振り返る人ほど人間関係の重要性を再認識し、維持する努力をする
研究3では、オランダの「長期インターネット社会科学調査(LISS Panel)」のデータを用い、7年間にわたる懐かしさと人間関係の関連を調査した。その結果、年齢を重ねるにつれて懐かしさを感じる傾向が強まることが明らかになった。2013年の懐かしさの平均スコアは3.95(7点満点)だったが、2019年には4.21に上昇した。また、懐かしさ傾向の得点が低い人は、親しい関係(大事なことを相談できる人)の数が18%減少していた。一方で、懐かしさ傾向が「高程度」または「中程度」の参加者は、7年間にわたり親しい関係の人数を維持していた。
これらの結果から、過去の楽しい思い出を振り返る人ほど、人間関係の重要性を再認識し、それを維持する努力をすることが判明した。
懐かしさの感じ方は国ごとに違いがあると考えられるため、日本人対象の調査が必要
親しい人間関係は心理的健康に深く関わっており、懐かしい記憶を思い出すことが心理的健康の向上につながる可能性がある。同研究では、オランダや米国など欧米のデータを使用しているが、懐かしさの感じ方には国ごとの違いがある可能性がある。そのため、日本人を対象にした調査を通じて、さらに検証することが必要だ。
「懐かしさを感じる人は、過去に囚われているわけではない。むしろ懐かしい記憶は、ポジティブな感情や社会的つながりを生み出すことが心理学の研究で多く示されている。本研究では、懐かしさを感じる頻度が高く、その思い出を大切にしている人ほど、大切な人間関係を育むことの重要性を認識していることが判明した。年齢を重ねて生活環境や責任が変化しても、このような友情は長続きしやすいようだ」と、研究グループは述べている。
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・京都大学 プレスリリース