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「仕事で孤独を感じるか」を調査、週61時間以上の長時間労働は危険因子-東大ほか

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2025年04月03日 AM09:30

コロナ禍を経て働き方に変化、「仕事における孤独」に注目

東京大学は3月24日、仕事における孤独の頻度とその関連要因を、日本国内の企業等に勤務する従業員約2万4,000人を対象とする大規模な横断調査により明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の川上憲人特任教授、北里大学医学部の堤明純教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Occupational Health」に掲載されている。

新型コロナウイルス感染症流行以降、働き方の変化などに伴い、仕事において孤独を感じる従業員がいることが注目されるようになった。仕事における孤独は、従業員の心身の健康や生産性に影響を与える可能性があるため、企業等にとっても重要な課題だ。生活全般における孤独(全般的孤独)については、その頻度や性別、年齢などの基本属性との関連について多数の先行研究がある。しかし仕事における孤独の頻度については、英国での調査で11%と報告されている以外には研究がなかった。また仕事における孤独と基本属性や、雇用形態、職種、業種などの職業関連要因との関連については研究が少なく、特に労働時間との関係は研究がない状況だった。

日本国内の企業等に雇用されている約2万4,000人を対象に調査

今回研究グループは、インターネット調査会社に登録されている利用者に呼びかけ、日本国内の企業等に雇用されている2万5,000人をリクルートして、2024年10月にオンラインの自己記入式調査票による調査を実施した。回答者から、自営業や家族従事者、経営者、家事、学生が本務の者、無職になっている者など979人を除いた2万4,021人のデータを収集し、解析した。

仕事における孤独の測定方法として、「仕事において、あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」を質問し、4択(「ほとんどなかった」、「ときどきあった」、「しばしばあった」、「ほとんどいつもあった」)で回答してもらい、「ほとんどいつもあった」者を、仕事における孤独ありとみなした。同様に仕事に限らない孤独についても1項目で質問し、「ほとんどいつもあった」者を、全般的孤独とした。

関連要因としては、まず基本属性として、性別(、その他・答えたくない)、年齢(20-29,30-39,40-49,59-59,60歳以上)、婚姻(既婚、未婚)、子どもの有無(あり、なし)、学歴(高校卒、短大・専門学校卒、大学卒以上、その他)、年収(400万円以下、401-600万円、601-800万円、801-1000万円、1001万円以上)を、また職業関連要因として、業種(18区分)、雇用形態(正社員、それ以外)、職種(管理職、事務系、現業系・その他)、(週30時間以下、31-40時間、41-50時間、51-60時間、61時間以上)を質問した。

「仕事において孤独を感じる」全体で8.3%、男性>女性、20代<中高年者

回答者全体における仕事における孤独の頻度は8.3%であり、全般的孤独の頻度は9.0%だった。両方の孤独ありと回答した者は6.6%だった。仕事における孤独は、男性>女性で、「その他・答えたくない」と回答した者で高く、20代<中高年者で高く、既婚<未婚の者で高く、年収が400万円以下の者で高い傾向にあった(有意水準はp<0.05)。また製造業に比べて、学術研究、専門・技術サービス業、教育、学習支援業、医療、福祉業、その他の業種で低い傾向にあった(p<0.05)。さらに週61時間以上の労働時間の者では、60時間以下の労働時間の者にくらべて仕事における孤独を感じる頻度の相対危険度(オッズ比)が2.25倍(頻度では15.8%)と、特に高くなっていた(p<0.05)。全般的孤独頻度に対する関連要因も、これとほぼ同様の結果だった。

仕事における孤独の予防対策の一助となる研究成果

今回の研究は、日本国内の企業等の従業員の12人に1人が仕事における孤独をほとんどいつも感じていることを初めて示した。従業員の仕事における孤独の頻度は低くないと考えられた。全般的孤独の頻度も同程度に高いものと考えられる。

週61時間以上の労働時間(月80時間以上の超過勤務に相当)の者では、仕事における孤独および全般的孤独を感じる頻度が特に高く、長時間労働が仕事における孤独の危険因子となることを明らかになった。長時間労働の職場では、仕事の打ち合わせなどの機会が持ちにくいなど仕事における対人交流が制限される可能性のあることや、長時間労働により従業員の精神健康が悪化することが孤独の発生に影響している可能性、家庭生活や余暇活動が制限されるために仕事外でも人とのつながりを作りにくくなっている可能性が考えられた。長時間労働の改善は、仕事における孤独を予防する上で効果的な対策となるかもしれない。

仕事における孤独が中高年者で高かったのは、中高年従業員ほど仕事が生活の中心となり、仕事における人間関係をより重視するようになるためである可能性がある。性別との関連で、男性よりも女性の方が仕事における孤独が少ないことも、男性の方が仕事中心の生活であることや、あるいは男性の方が社交的でない傾向にあることから説明できるかも知れない。性別において「その他・答えたくない」と回答した者で仕事における孤独も全般的孤独も高かった点は、性的マイノリティの者で孤独が高いことを意味している可能性があり、さらに研究が求められる。

「企業等が従業員の仕事における孤独が少なくないことを認識し、孤独を予防する取り組みを考える上で役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。

 

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