バランス能力に有利/不利になる色はある?
東北大学は3月24日、透明レンズを含む26色のカラーレンズを使って、片脚立ちとジャンプして着地する際のバランス調節能力を精密に計測した結果を発表した。この研究は、同大産学連携機構未来社会健康デザイン拠点の永富良一教授(研究推進時:大学院医工学研究科)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

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スポーツやリハビリテーションにとって、バランス能力は非常に重要だ。自分や相手のウェアの色や環境色がスポーツの成績に関連する可能性が指摘されている。その場合、運動にとって大事なバランス能力に影響があっても不思議ではない。屋外活動ではさまざまな色のサングラスが使われる。しかし、これまでバランス能力への影響については十分な科学的検証が行われていなかった。環境色やレンズの色が運動パフォーマンスに与える影響についての科学的根拠は不足していた。
研究グループは、株式会社Innochi、エスエイビジョン株式会社、三井化学ファイン株式会社と「メガネレンズの色覚刺激が運動機能調整能力に及ぼす効果」について2022年4月1日に4者共同研究契約を締結し研究を進めてきた。2024年に発表した研究では、赤・青・黄・緑のカラーレンズの中で、好みの色が必ずしもバランス能力に有利とは限らないという研究結果を報告。しかし、バランス能力に有利あるいは不利になる特定の色があるかどうかは、まだ解明されておらず、検査に用いた色も限定的であった。
透明レンズを含むカラーレンズ26色、健常者のバランス能力を評価
そこで研究グループは今回、エスエイビジョン株式会社から市販されている透明レンズを含む26色のカラーレンズ(フィジカルサポートカラーPSC)を健常者に装着してもらい、バランス能力を評価した。バランス能力は、開眼片脚立ち、およびジャンプ着地する際の重心調節能力について、床反力計を用いて精密に計測した(重心動揺試験)。
姿勢制御に影響を及ぼす色は個人で異なる、万人共通の色なし
各色のレンズで6回のテストを行い、色によってバランス能力に対する効果が異なることがわかった。また、個人ごとにバランスが良くなる最適な色と悪くなる非適切な色が特定できることがわかった。なお、万人に共通するバランスによい色はなかった。自閉症児では、カラーレンズの色が読字速度に影響を与えることが知られていたが、健常者でバランス制御にカラーレンズが影響を与えることが、初めて明らかになった。
今後、個人の最適色を見つける方法確立へ
今回の研究成果は、登山や高所作業などの危険な場所での歩行時に、バランスを崩しやすい色を避けるための知見を提供している。片脚立ちだけではなく、ジャンプして着地する際にも、特定の色がバランスに対して有利または不利であることがわかった。実験は、白い背景の実験室環境で行われたが、結果の信頼性は高く信頼できるものと考えられる。実際の環境では、視界に入る色や形は複雑で、動きや変化もある。実生活に応用するためには、まず自分でカラーレンズの効果を試してみる必要がある。今後は個人に最適な色を見つける方法を確立し、人によって異なるカラーレンズの色がバランスに影響をするのか、その神経機構の解明を進めていく、と研究グループは述べている。
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