449の食品由来因子から、インスリン抵抗性に関わる小胞体ストレス軽減因子を探索
広島大学は3月21日、βチューブリンに結合して糖尿病抑制効果を示す食品成分(アピゲニン)を見出したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の小澤孝一郎教授および山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部の細井徹教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「FASEB J」に掲載されている。

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糖尿病は、血糖値を下げる働きを有するホルモン・インスリンの分泌・作用不足により血糖値が異常に高くなる慢性代謝性疾患。世界的な健康上の懸念となっている。全身の血管や神経にダメージを与え、心臓病や腎臓病、失明のリスクが高まる病気で、日本の患者数は579万人とされている。インスリンは膵臓のβ細胞から分泌される。インスリンが細胞膜上のインスリン受容体に結合すると、PI3K/Aktシグナル伝達経路という、外部からの信号を細胞に伝える身体の仕組みが活性化され、細胞内へのグルコースの取り込みが促進されることで、血糖値を下げる。しかし糖尿病では、インスリン抵抗性により細胞内へのグルコース取り込みが損なわれた結果、血糖値が上昇する。
そこで今回の研究では「インスリン抵抗性」の一つの原因として知られている小胞体ストレスに着目。細胞に小胞体ストレスが降りかかると、小胞体内でのタンパク質の折り畳み(タンパク質がその機能を発揮できる形に構造を変えること)に問題が起き、異常タンパク質が蓄積する。同研究では、食品由来の因子449種類から小胞体ストレス軽減因子を特定し、「インスリン抵抗性」さらには糖尿病改善効果を示す化合物を明らかにすることを目的とした。
タマネギ・オレンジ・パセリなどに含まれる「アピゲニン」、インスリン抵抗性改善効果
まず、449種類の食品由来化合物群の中から、小胞体ストレスによる細胞死抑制効果を示す化合物を検討。その結果、アピゲニンが最も強い効果を示した。アピゲニンはタマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用など、身体にとって良い影響をもたらすことが知られている。アピゲニンは小胞体ストレス応答の誘導(GRP78、CHOP)を抑制し、小胞体ストレスによる細胞死を抑制した。さらにアピゲニンは、小胞体ストレスによるインスリン抵抗性改善効果を示した。
改善のメカニズムはβチューブリン重合促進、糖尿病モデルマウスでも血糖値低下作用を確認
作用機構を明らかにする目的でアピゲニン結合タンパク質を検討した。アピゲニンとリンカーを介して磁気性ビーズに結合させたビーズを作成し、同ビーズに結合するタンパク質をSDS-PAGE、銀染色、nano LC–MS/MS解析により同定した。その結果、アピゲニンはβチューブリンに結合することが明らかになった。解析でもアピゲニンはβチューブリンに結合することが確かめられた。そこで、アピゲニンによるβチューブリン重合・脱重合への影響を検討した。その結果、アピゲニンはβチューブリンの重合を促進することで小胞体ストレスによるインスリン抵抗性を改善することが示された。
最後に、マウス個体レベルでのアピゲニンの効果を検討したところ、アピゲニンは糖尿病モデルマウスの血糖値低下作用を示すことが明らかになった。
βチューブリン標的の糖尿病薬開発に期待
今回、研究グループは食品成分に着目し、食品成分から小胞体ストレスを改善し糖尿病抑制効果を示す有益な化合物の特定を試みた。食品成分は、人々が日常摂取する食品由来の成分であるため、安全性が高いと期待される。また、特定した化合物であるアピゲニンはβチューブリンと結合することが明らかになった。βチューブリンを標的とする抗糖尿病薬は知られておらず、今後はこのような知見をもとに、新しいメカニズムを有した糖尿病治療薬の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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