歯髄組織の治癒に関与する可能性が高いmiRNA、その詳細は未解明
東京科学大学は3月21日、マイクロRNA(miRNA)-27aが、硬組織形成細胞(骨や歯を作る細胞)へと分化誘導したヒト歯髄幹細胞において高レベルで発現することを明らかにし、miRNA-27aを導入したヒト歯髄幹細胞をマウスの頭蓋骨に人工的に作成した骨欠損部へ移植したところ、骨形成が促進されることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科医歯学専攻口腔機能再構築学講座歯髄生物学分野の川島伸之准教授、Yu Ziniu大学院生、興地隆史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Translational Medicine」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
miRNAは、遺伝子の働きをエピジェネティックに制御することで、細胞分化に重要な役割を果たす。miRNAが歯髄組織における炎症の制御や組織の治癒に関与している可能性が高いものの、その詳細は十分には解明されていない。
miRNA-27aに着目、硬組織形成細胞への分化や骨形成誘導に関与するか検討
これまでの研究により、ヒト歯髄細胞では、グラム陰性細菌が産生する内毒素による刺激によりmiRNA-27aの発現が増加することが確認されている。今回研究グループは、(1)ヒト歯髄幹細胞にmiRNA-27aを導入すると、WntおよびBMPシグナル伝達を介して硬組織形成細胞への分化が促進されるか、(2)miRNA-27aを導入したヒト歯髄幹細胞が、生体内で新しい骨形成を誘導するか、の2点について検討した。
歯髄幹細胞の過剰発現、WntやBMPシグナル抑制を抑え硬組織形成細胞への分化促す
miRNA-27aは、硬組織形成細胞へ分化誘導されたヒト歯髄幹細胞において高発現することが確認された。さらに、ヒト歯髄幹細胞にmiRNA-27aを過剰発現させると、硬組織形成細胞としての性質がより強く現れ、逆にmiRNA-27aを抑制すると分化が抑えられることが明らかになった。
また、miRNA-27aがWntシグナルを抑える因子(DKK3)やBMPシグナルの働きを妨げる因子(SOSTDC1)の産生を抑えることで、ヒト歯髄幹細胞の硬組織形成細胞への分化を促進することを解明した。
miRNA-27a導入ヒト歯髄幹細胞、マウス頭蓋骨の骨欠損部移植で新しい骨の形成を誘導
さらに、miRNA-27aを導入したヒト歯髄幹細胞をマウスの頭蓋骨に形成した骨欠損部へ移植したところ、新しい骨の形成が促進されることを発見した。
今回の研究により、硬組織形成細胞の分化を制御する主要なシグナル経路であるWntおよびBMP経路の誘導にmiRNA-27aが関与することを明らかにした。さらに、miRNA-27aを導入したヒト歯髄幹細胞を移植することで、生体内で硬組織の形成を促進できることを初めて示した。
再生医療や組織工学の分野で、新たな治療法開発につながる可能性
今回の研究により、miRNA-27aを導入したヒト歯髄幹細胞の移植が、生体内での硬組織形成を促進することが明らかになった。これらの成果は、歯や頭蓋顔面を含む硬組織の誘導や再建への応用、再生医療や組織工学の分野における新たな治療法の開発につながる可能性がある。
「今後は、miRNA-27aをどのように臨床応用するかについて、さらに検討を進める必要がある。そのひとつのアプローチとして、miRNA-27aを取り込ませた細胞外小胞(エクソソームなど)を作成し、それを組織または細胞に投与する方法を考えている。さらに、より効率的な硬組織の誘導を実現するため、miRNA-27aと同様の機能を持つ複数のmiRNAを同時に活用する可能性についても検討を進めている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京科学大学 プレスリリース