個人特性・居住地域で異なる「健康被害の受けやすさ」、その実態は?
東京科学大学は3月21日、都市部において社会経済的指標が低い地域の住民ほど、暑さによる健康被害がより顕著であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医歯学総合研究科公衆衛生学分野の西村久明助教、藤原武男教授、医療政策情報学分野の伏見清秀教授、および東北大学環境科学研究科の中谷友樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology and Community Health」に掲載されている。

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健康被害の受けやすさは、個人の特性や居住地域によって異なるとされている。特に、ヒートアイランド現象の影響により都市部の住民は暑さにさらされやすいと考えられている。また、社会経済的指標が低い地域の住民は、熱ストレスへの耐性が低い可能性があることも懸念されている。しかし、こうした健康被害の実態については、十分に明らかにされていなかった。
暑さによる入院リスクの地域・経済格差を解析、全国規模の入院データで
今回の研究では、日本全国における2011~2019年までの9年間のデータを用い、6~9月(年間で気温の高い4か月)に発生した緊急入院症例を対象として、1日の平均気温と緊急入院との関連を分析。さらに、暑さによる緊急入院への影響が、居住地域や社会経済的指標によってどのように異なるのかを解析した。入院データはDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースから抽出し、日平均気温のデータは気象庁のデータを使用した。社会経済的指標としては、国勢調査の世帯・職業・居住に関する項目をもとに算出された地理的剥奪指標(Area Deprivation Index: ADI)を採用した。また、居住地域(都市部・郊外・それ以外)は、国勢調査の大都市圏・都市圏の分類に基づいて設定した。
都市部で社会経済的地位が低い地域の住民ほど、暑さの健康被害を受けやすい
解析の結果、全緊急入院のうち暑さが要因となる入院の割合は、最も社会経済的指標が高い地域では1.19%(95%信頼区間:0.98%-1.41%)であるのに対し、最も社会経済的指標が低い地域では1.87%(95%信頼区間:1.68%-2.06%)と算出された。このことから、社会経済的指標が低い地域ほど、暑さによる緊急入院への影響が大きいことが明らかになった。
また、居住地域(都市・郊外・それ以外)別に比較すると、都市でも郊外でもない地域では1.42%(95%信頼区間:1.24%-1.60%)であるのに対し、都市部では2.03%(95%信頼区間:1.78%-2.30%)と推定された。これにより、特に都市部の住民において暑さによる緊急入院の影響が大きいことが示された。
社会経済的指標と居住地域の両方を同時に考慮すると、都市部における最も社会経済的指標が低い地域の集団において、暑さによる緊急入院は2.62%(95%信頼区間:2.26%-3.03%)と、最も高いことが判明した。
地域の実態に即した暑さ対策の重要性を示唆
今回の研究により、暑さによる緊急入院への影響は、都市部において社会経済的指標が低い地域の住民ほど顕著であることが明らかになった。この結果を踏まえ、熱中症警戒アラートに基づいた暑さ対策の重要性を、特にこうした地域の住民に対して重点的に啓発する必要があると考えられる。また、地域の実態に即した暑さ対策を講じることの重要性が示唆された。
救急医療を担う医療機関では、暑さが引き起こす緊急入院への対応力を強化することが求められる。とりわけ、都市部の社会経済的指標が低い地域の医療機関では、その重要性が一層高いと考えられる。今後、気候変動の影響により暑い日が増えると予想される中で、暑さに伴う緊急入院の増加に対応できる医療体制の構築が必要であることが示唆される、と研究グループは述べている。
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