欧米の既存予測モデルをそのまま日本人に適応するのは困難
京都府立医科大学は3月21日、日本人における2型糖尿病発症リスクの予測モデルを新たに開発し、大規模かつ長期的なデータを用いて検討したところ、優れた予測能を有していることがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科内分泌・代謝内科学フューチャーステップ研究員の宗川ちひろ氏、岡田博史助教、福井道明教授、同大大学院医学研究科生物統計学の堀口剛助教、手良向聡教授、同大附属病院臨床研究推進センターデータサイエンス部門の内藤あかり特任助教、パナソニック健康保険組合の黒木和志郎氏、伊藤正人氏らの研究グループによるもの。研究成果は「Diabetes/Metabolism Research and Reviews」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
糖尿病は世界的に深刻な健康課題となっており、現在5億3700万人が罹患し、成人の10人に1人が糖尿病を有しているとされている。そのうち約45%は未診断であり、適切な対策を講じなければ、2045年までに患者数は46%増加し、7億8300万人に達すると予測されている。日本でも約1100万人の成人が糖尿病を有していると推測され、世界で9番目に患者数が多い国とされている。
糖尿病治療の目標は、健康寿命の延伸であるが、近年の治療薬の進歩にもかかわらず、透析や失明、大血管疾患の発症を完全に防ぐことはできていない。さらに、医療費の増加や労働人口への負担増加、高齢者の健康寿命の短縮といった問題が深刻化しており、糖尿病の発症予防が日本における重要な課題となっている。2008年に導入された特定保健指導は、将来的な心血管リスクの低減を目的としているが、その効果は限定的であると報告されている。
また、糖尿病の発症リスク因子として、加齢、BMI、体重の変動、耐糖能異常、脂肪肝、高血圧、脂質異常、喫煙、家族歴、運動習慣、食習慣などが知られており、各国でこれらの因子を組み合わせたリスク予測ツールが開発されている。しかし、日本人は欧米人と比べてBMIが低く、糖尿病を有する人のBMIも日本人の平均BMIと近いため、欧米の予測モデルをそのまま適応するのは難しく、日本人に特化した予測ツールの開発が求められていた。これまでに日本人向けの糖尿病リスク予測モデルはいくつか開発されているが、観察期間が短い、サンプルサイズが小さい、HbA1cや食後血糖値といった日本の健康診断では一般的でない指標を用いているなど、実用性に課題があった。さらに、外部妥当性確認を行い、モデルの精度を評価した例は存在しない。
年齢、性別、BMI、収縮期血圧など10項目を用いて予測モデルを開発
研究では、大規模かつ長期的なデータを用いて、日本人に特化した高精度な2型糖尿病発症予測モデルを開発した。これまでの予測モデルが抱えていた観察期間の短さ、サンプルサイズの小ささ、実用性の低い指標の使用、外部妥当性確認の欠如といった課題を克服し、より信頼性の高いモデルを構築した。
具体的には、2008年に健康診断を受診した7万2,124人を解析対象とした。その結果、観察期間中(中央値9.0年)に5,133人(7.1%)が糖尿病を発症した。糖尿病専門医と生物統計専門家の議論に基づき、臨床的に意味があり、かつ独立した客観的な因子を選定し、最終的に、年齢、性別、BMI、収縮期血圧(SBP)、中性脂肪(logTG)、HDLコレステロール(HDL)、ALT(logALT)、空腹時血糖(FPG)、体重増加、喫煙の有無の10項目を予測モデルの変数として選択した。
10年以内の糖尿病発症リスクの推定確率は、以下の回帰式を用いて算出した。1-(1-0.00000000075)exp(xβ)、xβ=0.032*年齢-0.335*(性=男性の場合)+0.071*BMI+0.003*SBP+0.076*logTG-0.009*HDL+0.437*logALT+0.140*FPG+0.071*(体重増加=有の場合)+0.466*(喫煙=有の場合)。
約7.2万人の内部妥当性コホート、約1.2万人の外部妥当性コホートで有用性確認
内部妥当性の確認として「パナソニックコホート」(7万2,124人、追跡期間中央値9.0年)を用いたところ、糖尿病発症例数は5,133人(7.1%)で、Optimism-corrected c-index:0.877(95%信頼区間:0.852-0.882)、5年予測モデルのAUC:0.859、10年予測モデルのAUC:0.834、予測リスクと観察リスクの較正(キャリブレーションプロット)も良好であることがわかった。
また、外部妥当性の確認として、「NAGALAコホート」(1万2,885人、追跡期間中央値5.0年)を用いたところ、糖尿病発症例数は712人(5.53%)、c-index:0.882、5年予測モデルのAUC:0.877、10年予測モデルのAUC:0.845、キャリブレーションも良好であることがわかった。
一般の人が自らの糖尿病リスクを把握し、早期に予防策を講じることが可能に
今回の研究で開発した予測モデルは、今後、特に日本の職場における糖尿病予防戦略において重要な役割を果たすことが期待される。定期健康診断で得られる基本的なデータを基に、糖尿病発症リスクを予測できるため、企業や団体が行う健康診断のデータを活用し、早期に高リスク者を特定し、生活習慣の改善を促すことが可能だ。また、開発したモデルの最大の特徴は、大規模なデータセット(パナソニックコホートデータ)と、10年間の長期フォローアップを活用しており、非常に高い予測精度を実現している点である。さらに、外部妥当性確認(NAGALAコホート)を通じて、モデルの信頼性と汎用性を確認しており、企業の健康管理プログラムや地域の医療機関での活用が現実的となっている。
予測モデルは非侵襲的かつ簡便に利用可能であり、従来の糖尿病予測に必要とされた専門的な検査を必要とせず、一般的な健康診断データのみでリスクを算出できる点も大きな利点だ。これにより、一般の人々が自らの糖尿病リスクを把握し、早期に予防策を講じることが可能となり、結果的に糖尿病発症の抑制や医療コストの削減にも貢献することが期待される。
「将来的には、本モデルを自治体や地域の健康支援プログラムにも適用し、社会全体での糖尿病予防に貢献することを目指す。特に、健康意識の向上やライフスタイルの改善を促進する政策の一環として、健康診断の結果を基にしたリスク可視化や早期介入を促すことで、糖尿病発症率の低減に寄与できると考えられる。本モデルが広く導入されることで、糖尿病の早期発見と予防が進み、健康寿命の延伸や医療費の削減につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都府立医科大学 プレスリリース