個人差のある「生物学的年齢」を定量的に評価する方法は?
大阪大学は3月19日、人体の代謝調節経路の知見を最先端の人工知能(AI)アルゴリズムに組み込み、健康状態を反映する「生物学的年齢」を定量的に評価するモデルを開発したと発表した。この研究は、同大蛋白質研究所の汪秋益助教(研究当時、現:大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 招へい研究員)、同大理学研究科生物科学専攻の王梓氏(博士後期課程)、水口賢司教授、高尾敏文教授(研究当時、現:特任教授)を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。

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生物学的年齢とは、体の健康状態や老化の進行度を示す指標。実際の暦年齢と必ずしも一致せず、生活習慣や遺伝などの影響により大きく異なる場合がある。ヒトの一生を1本の川に例えるならば、その上流にあたる乳児期では、各人の生物学的年齢にほとんど差は見られない。しかし、川が下流へと進むにつれ、遺伝的要因や生活習慣、環境要因などの影響で同じ暦年齢であっても生物学的年齢に個人差が生じるとされている。このような現象を定量的に捉えることは可能なのかという問いに対し、研究グループは生物学的年齢の精密な評価手法の開発に取り組んだ。
体内では、ステロイドは生理的な恒常性を維持する上で重要な役割を果たしており、その発現バランスは健康状態と密接に関連している。そこで研究グループは、血液中の22種類のステロイドに着目し、これらの代謝調節経路が生物学的年齢の評価に有用ではないかと考えた。
約5滴の血液で22種類の主要ステロイドを同時に測定できるモデルを開発
研究では、ステロイドの代謝調節経路をもとに、その動態を深層ニューラルネットワーク(DNN)によるAIアルゴリズムに導入し、独自の計算手法を開発した。これにより代謝調節経路と生物学的年齢との関連をモデル化でき、時間の経過により拡大する生物学的年齢の個人差を捉えることができた。
同予測モデルでは、わずか240マイクロリットル(約5滴)の血液を採取するだけで、独自に開発した高精度質量分析技術(LC-MS/MS)により、22種類の主要なステロイドを同時に測定できる。さらに、研究チームが構築したAIモデルを活用することで、このステロイドの血中濃度データに基づいた生物学的年齢予測を実現した。
一貫性のある測定ができ、得られた生物学的年齢に対する生化学的根拠も提示可能
開発されたAIモデルは従来の方法と比較し、いくつかの革新性を有している。まず、個体差を補正するための前処理手法については、各ステロイドの相対濃度比を保持しつつ個体ごとの総ステロイド量の違いを補正する。また、実験バッチ間の誤差を抑制し一貫性のある測定を実現した。
さらに、独自に損失関数を考案・設計し、集団内の生物学的年齢差が時間とともに拡大する特性をAIモデルの学習プロセスに導入した。生物学的に解釈可能なAIモデルにすることを目指し、ステロイドの代謝調節経路をDNNに統合。「ブラックボックス型」AIとは異なり、得られた生物学的年齢に対する生化学的根拠を提示可能にした。
コルチゾールレベル2倍で、生物学的年齢上昇の度合いは約1.5倍と判明
今回の研究は、ステロイドの血中濃度という客観的なデータにより生物学的年齢を予測する新たなアプローチを提供するものと言える。さらに、ストレスホルモンの一種であるコルチゾールが「加齢促進因子」として作用することが明らかになった。具体的には、コルチゾールのレベルが通常の2倍に上昇すると、生物学的年齢上昇の度合いが約1.5倍になるという結果が得られた。同知見は、ストレス管理を通じた老化抑制の可能性を示しており、今後の健康管理や加齢制御の研究において重要な示唆となる可能性がある。
加齢に伴う健康リスクの早期発見・予防策の策定に役立つ可能性
今回の成果は、個人の健康管理における新たな生物学的年齢評価指標として活用されることが期待される。これにより、加齢に伴う健康リスクの早期発見や予防策の策定に貢献するとともに、医学研究の新たな方向性を示す可能性がある。
「今後、関連する代謝調節経路の詳細なメカニズムが明らかになることで、加齢調節の仕組みがより詳細に解明されると考えられる。これにより、健康寿命の延伸や社会全体の健康水準の向上に寄与し、将来的には個別化医療や予防医学の発展にもつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU