多大なコストがかかる学校給食、食習慣改善効果のエビデンスは?
上智大学は3月18日、日本の公立中学校の給食が子どもの肥満に与える影響を分析し、社会経済的地位の低い世帯の子どもに肥満減少効果があること、また、その効果が卒業後数年間は持続することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大経済学部の中村さやか教授と中国暨南(きなん)大学経済与社会研究院の丸山士行教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Health Economics」にオンライン掲載されている。

世界中で肥満が急増する中、肥満対策としての学校給食の役割が国際的に注目されている。しかし、学校給食には多大なコストがかかる一方で、効果について十分なエビデンスがないことが問題視されている。また、給食が体重に与える効果は給食がなかった場合に持参したであろう弁当の内容に依存するため、世帯や地域の特性によって効果が違うと考えられる。一方、子どものバックグラウンドによる効果の違いは世界的にも十分検討されてこなかった。さらに、日本の学校給食は食事摂取を通じて生徒の健康を直接的に改善するだけでなく、「食育」と呼ばれる教育効果を通じて長期的な食習慣改善効果を持つことが期待されている。一方、給食の中長期的な効果についてはよくわかっていなかった。
中学校給食の有無で体型指標の差を比較、1975~1994年の個人レベルのデータで
今回の研究では、厚生労働省による国民栄養調査(現・国民健康・栄養調査)の1975~1994年の個人レベルのデータを用いて分析。同データは全国代表的で、さまざまな個人特性とともに身長・体重の計測値がわかる世界的にも貴重なデータだ。日本では公立小中学校の生徒は、通っている学校で給食が提供されていれば原則として給食は強制参加となっている。また、ほぼすべての公立小学校で給食がある一方で公立中学校では市区町村により給食の有無が分かれている。このことを利用し、中学校給食のある地区とない地区で小学生4~6年生と中学生の体型指標の差を比較する差の差分析を行った。個人レベルのデータを用いた精緻な検証を行ったのは、日本で初めてとなる。
低所得世帯の子ども、給食がエネルギー過剰摂取抑制・食生活改善に寄与し肥満「減」と示唆
分析の結果、全体では中学校給食による体重や肥満への有意な効果は見られなかった。一方、非ホワイトカラーの父親の子や一人当たり世帯支出が低い世帯の子ども、すなわち社会経済的地位の低い世帯の子どもに分析対象を限定した場合、中学校給食によりボディマス指数(BMI)や肥満度、肥満が有意に減少することを示した。中学校給食による肥満減少効果は、母親のBMIが高い子どもやエネルギー摂取の多い地域の子どもなど、エネルギー過剰摂取のリスクが高い子どもにも見られた。このことから、給食がエネルギーの過剰摂取を抑制することで肥満を減少させたことが示唆される。
さらに、社会経済的地位の低い世帯の子どもへの給食の肥満減少効果は、中学卒業後の15~17歳にも見られた。このことから、給食を食べることで直接的に肥満が減少するだけでなく、「食育」の理念の通り、学校給食が食生活の改善を通じた長期的な肥満抑制効果を持つことが示唆される。一方、学校給食による痩せすぎへの影響は全く見られなかった。
給食に食育としての高い価値、費用対効果が課題
今回の研究は、学校給食が社会経済的地位の低い世帯の子どもに対して肥満抑制効果を持つことを示唆している。また、生徒全員を対象に厳しい栄養基準に基づいて栄養バランスの取れた昼食を提供する日本の学校給食、給食を教育の一部として位置付ける「食育」の高い価値を示すものだとしている。学校給食実施には多大な費用がかかるという経済的ハードルがある。費用対効果の評価にあたっては、小中学生の栄養状態改善による直接的かつ短期的な効果だけでなく、食習慣改善による長期的効果を考慮する必要があることを示唆している、と研究グループは述べている。
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・上智大学 プレスリリース