探索的なバイオマーカー解析を実施し、治療効果との関連を検討
国立がん研究センターは3月13日、胃食道がんにおける「ニボルマブと化学療法併用」または「ニボルマブとイピリムマブ化学療法併用」のバイオマーカー解析結果を発表した。この研究は、同センター東病院の設楽紘平消化管内科長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載されている。

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CheckMate 649試験において、進行胃食道腺がんに対する一次治療としてのニボルマブ+化学療法併用は、化学療法と比較し、生存期間を有意に延長することが示されている。一方で、ニボルマブ+イピリムマブ療法併用は、化学療法と比較して一部の患者集団における持続的な奏効および高い生存割合を示したが、事前に規定した有効性の基準を満たさなかったことがすでに報告されている。
これまでの検討では、マイクロサテライト不安定性が高い場合や免疫チェックポイントであるPD-L1発現(combined positive score、CPS)が高い場合にはニボルマブの効果が発揮されやすい可能性が確認されているが、それ以外にどのようなバイオマーカーが治療効果や抵抗性に関わっているかは明らかではなかった。そこで今回の研究では、探索的なバイオマーカー解析を追加で行い、治療効果との関連を検討した。
超変異サブタイプは化学療法と比べ、ニボルマブ+化学療法併用で「生存延長効果」顕著
研究では、CheckMate 649試験に参加し、ニボルマブと化学療法併用または化学療法の治療にランダム化された1,581人のうち、685例の腫瘍組織を用いて全エクソーム解析を実施し、また809例の腫瘍組織のRNAを解析し遺伝子発現スコア(gene expression score)を検討した。また、ニボルマブ+イピリムマブ療法併用または化学療法群にランダム化された813人のうち、366人を全エクソーム解析で、402人をRNA解析で分析した。
その結果、遺伝子変異数を多く有する超変異サブタイプ(hypermutated)では、化学療法と比べて、ニボルマブを含むいずれの治療も生存延長効果が顕著に示唆された(ニボルマブ+化学療法の死亡ハザード比0.37、ニボルマブ+イピリムマブ療法の死亡ハザード比0.27)。
全ての遺伝子グループで、化学療法と比べてニボルマブ+化学療法併用は生存延長傾向
また、ニボルマブ+化学療法併用による治療効果を他の胃がんの分子学的分類で比較したところ、ゲノム安定性サブタイプ(genomic stable、GSタイプ、ハザード比0.70)やEBウイルス(EBV)陽性サブタイプ(ハザード比0.61)と比較して、染色体不安定性(chromosomal instable、CINタイプ)の患者において、効果がやや乏しい結果だった。PD-L1 CPSが5以上の集団に限定しても同様の傾向が認められた。一方、ニボルマブ+イピリムマブ療法併用では異なる傾向が認められ、CINサブタイプでハザード比は0.81、EBVサブタイプで0.76であったのに対し、GSサブタイプでは1.01だった。
同研究で頻度が高く認められた遺伝子変異は、TP53(55%)、ARID1A(13%)、KRAS(12%)であった。これらの遺伝子変異の有無で比較を行ったところ、ニボルマブ+化学療法併用は全ての遺伝子グループにおいて、化学療法と比べて生存延長傾向が認められた。また、KRAS遺伝子変異もしくは遺伝子増幅を認めるサブグループで、より生存延長の程度が大きい傾向が認められた。
ニボルマブ+化学療法併用は、化学療法と比較したとき、血管新生に関わる遺伝子発現スコア(gene expression score)が低い患者では、CPS5以上でハザード比0.62であり、CPS5未満でハザード比0.66と、PDL1の発現に関わらず一貫して良好な生存延長効果が示唆された。一方で、血管新生に関わる遺伝子発現スコアが高い患者ではCPS5以上でハザード比0.85であり、CPS5未満で0.89であり、生存延長効果が乏しい傾向だった。また、腫瘍間質に関わる遺伝子発現が低い場合や、MAPK経路に関わる遺伝子発現が高い場合に、ニボルマブの上乗せ効果が示唆された。
制御性T細胞関連遺伝子発現「高」は、ニボルマブ+イピリムマブで生存延長効果
ニボルマブ+イピリムマブ併用と化学療法の比較においては、特に制御性T細胞(regulatory T cell、Treg)に関する遺伝子発現が高い集団における生存の延長傾向が示唆された。また、この傾向はPD-L1の発現グループに関わらず一貫して確認された。
また、細胞遊走に関わるケモカイン12種類の遺伝子発現や、炎症に関わる10種類の遺伝子発現スコアが高い集団においても生存延長効果が示唆される傾向だった(それぞれハザード比0.59, 0.63)。
バイオマーカーの臨床応用に向けた臨床試験の実施等に期待
今回の研究成果により、一次治療としてのニボルマブと化学療法およびニボルマブとイピリブマブの化学療法は、生存延長効果が得られやすい、もしくは得られにくい可能性のある患者集団を特定できる可能性が示唆された。
「これらのバイオマーカーを実際に利用可能であるかを明らかにするための臨床試験の実施や、抵抗性を改善するための新たな治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース