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肥満の食事指導「ゆっくり食べる」、ゆっくりの具体的要素を科学的に検証-藤田医科大

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2025年03月25日 AM09:20

食事時間、咀嚼回数・テンポなど、食事時間に影響を与える因子を検討

藤田医科大学は3月13日、さまざまなテンポのリズムを聞かせることで、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数(ピザを何口で食べるか)、咀嚼テンポ(咀嚼のスピード)を測定し、食事時間に影響を与える要素を検討した結果を発表した。この研究は、同大臨床栄養学講座の飯塚勝美教授、青嶋恵医学部学生、出口香菜子大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肥満の人は早食いとよく言われため、肥満患者にはゆっくりと食事をするよう指導することが古くから行われてきた。一方、肥満が早食いとする根拠は自己申告による論文がほとんどであり、定量的な解析は少ないのが実情である。以上から、ゆっくりと食事することの意味を科学的に説明するためのエビデンスは非常に少ないと考えられる。そのため今回の研究では、テスト食(ピザ)を用いて食事時間を定量的に測定し、食事時間の性差、食事時間に影響を与える因子の同定を行った。さらには、外部よりメトロノームによる音刺激を与えることで、食事時間や咀嚼時間、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数が変化するかを検討した。食事時間に影響を与える因子を同定することで、肥満に対するゆっくりと食べる指導をより科学的に行うことができるようになる。

遅・通常・速のテンポで鳴るメトロノーム音に合わせて食べてもらい、その違いを解析

研究グループは、先行実験により人の咀嚼リズムがおよそ80bpm程度であることを確かめている。80bpmを基礎的なテンポとして、遅いリズム(40bpm)、同じリズム(80bpm)、速いリズム(160bpm)に合わせて、20~65歳までの被験者33人のピザを食べる食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、運動能力(5回椅子立ち上がり)、握力を測定した。被験者は朝食を少なくとも4時間前までに済ませて実験に臨み、食事中の水分摂取は禁止とした。

ピザ[(直径20cm、総エネルギー317kcal(13.0g:脂質12.6g:38g)]を4等分し、1/4枚ずつ、ヘッドフォン下でメトロノームの刺激(0・40・80・160bpm)に合わせて食べるように指示し、食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数を測定。食事時間はストップウォッチ、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数は咀嚼計Bitescan(シャープ株式会社)で測定した。また、BDHQ(食品頻度摂取調査質問票)試験により普段の食事成分の摂取量を評価。5回椅子立ち上がり試験、握力は食事テストの10分前までに行った。0bpmのデータに関して、男女間の比較、食事時間を従属変数、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、5回椅子立ち上がり試験、総エネルギーおよび各栄養素を独立変数、性別を調整因子として、線形回帰分析を行った。次に、各群(0・40・80・160 bpm)における食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数の比較をOne way ANOVAののち、Tukey法で比較。統計ソフトはGraphPad Prism version 10(GraphPad Software Inc, San Diego, CA, USA)を使用した。参加者は平均37.2歳、男性15人、女性18人であった。

リズム刺激無しの場合、男性は女性より食事時間・咀嚼回数・口に運ぶ回数「少」

まず、何もメトロノームのリズム刺激をしていない時の結果を用いて、性別による違い、食事時間に関係する因子を調べた。食事時間と咀嚼回数、口に運ぶ回数は男性で有意に少ない一方、咀嚼テンポは男女で差が見られなかった。BDHQでエネルギー摂取量、各栄養素の摂取量を調べたが、異常は見られなかった。

食事時間に関連する因子は、咀嚼回数・口に運ぶ回数

次に、食事時間と関連する因子について、性別で調整し、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、5回椅子立ち上がり試験との関係を多変量解析により調べた。握力は性別と関係するので、因子には含めなかった。咀嚼回数、口に運ぶ回数は有意に食事時間に関連したが、咀嚼テンポ、BMI、5回椅子立ち上がり試験との関連は見られなかった。また、食べている栄養が食事時間に関係するかを調べたが、エネルギー量、タンパク質、脂質、炭水化物との関連は見られなかった。

遅いリズム刺激で咀嚼テンポ低下/食事時間延長/咀嚼回数・口に運ぶ回数増加

最後に、メトロノームのリズム刺激が、咀嚼テンポ、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数に与える影響を検討。40bpmと遅いリズム刺激を与えると、咀嚼テンポは有意に低下、食事時間は有意に延長、咀嚼回数は有意に増加、口に運ぶ回数は有意に増加した。他方、160bpmと速いリズム刺激を与えると、咀嚼テンポは有意に増加、食事時間は有意に延長、咀嚼回数は有意に増加、口に運ぶ回数は有意に増加した。しかし、160bpm刺激による効果は40bpm刺激による効果に比べると小さいものであった。性別による違いでは女性でのみ有意であったが、男性でも同様の傾向を示した。

なお、同研究の成果を受け、藤田医科大学羽田クリニックでは、肥満の予防・改善を目的とした食事指導の一環として、テスト食を用いた評価プログラムを導入している。このプログラムでは、実際に食事をしながら食事速度や咀嚼回数を測定するなど、患者それぞれの食習慣を客観的に評価し、より実践的な指導を行っている。

今後はより複雑な食べ物・食べる順番の食事時間への影響を明らかに

今回の検討を通じて、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数は男女で違いが見られる一方、咀嚼テンポは性差が見られなかった。従って、食事時間の速い・遅いを論じる場合、男女の差を考慮する必要がある。研究グループは過去に性別による食事の嗜好の違いも報告しており、栄養指導には男女の違いを十分に意識する必要があると考察している。今回、食事時間は咀嚼回数、口に運ぶ回数と関連しており、噛む回数を増やす、一口を小さくするなどの指導は科学的にも理にかなっていることが示された。他方、テンポはある程度一定なので、テンポを変化させることは難しいこともわかった。

「早い音楽に合わせて、早く食べることは難しいようで、逆にゆっくりとした音楽をかければ、ゆっくり食事時間をとれる可能性がある。今回の検討でも通常の半分のテンポのリズムに合わせると、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数がいずれも増加した。音楽をかけながら食べることには人により好みが分かれるので、まずは噛む回数を増やす、一口を小さくすることを意識して食べるのが良いと思われる。今後は、より複雑な食べ物(一皿に硬さの異なる食事が混在しているものとの比較)、食べる順番の影響が食事時間にどのように影響するかを明らかにしたいと考えている」と、研究グループは述べている。

 

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