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「色の感じ方」は幼児と大人とで変わらないことを発見-京大ほか

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2025年03月24日 AM09:30

他の人が自分と同じように「色」を感じているのかを確かめる方法は存在しない

京都大学は3月14日、幼児が大人と同じような色の感じ方をすることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院文学研究科の森口佑介准教授、渡部綾一研究員、大学院生の王珏氏、モナシュ大学の土谷尚嗣教授、Ariel Zeleznikow-Johnston研究員、早稲田大学の佐治伸郎准教授、・日本学術振興会特別研究員の坂田千文研究員らの国際研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの主観的な経験と脳の物理的活動との関係は、心理学や神経科学における最も根源的ながら未解決の問題の一つだ。特に、主観的な経験の質的な側面()は、言葉で正確に表現することが難しく、他者と客観的に共有することができないため、科学的な研究が困難だと考えられてきた。例えば、自分が経験している赤色の「赤らしさ」は、トマトのような赤さなど、言語や比喩を通して間接的に他者に伝えることはできるが、自分が感じている赤らしさが、他者の感じる赤らしさと本質的に同じようなものであるかについては確かめる術がない。

子どもの意識経験の研究は、さらに大きな課題を抱えている。発達心理学の創始者であるピアジェは、子どもの言葉による世界の理解の描写を通じて、彼らの主観的な経験を理解しようと試みた。しかし、言葉の発達が不十分な子どもが自身の主観的な経験を正しく表現できているかは不明である上、そもそも言葉を通して主観的な経験を他者に正確に伝えることはできないため、研究の対象から外れてしまっていた。

年齢や文化によらず「クオリア構造」を検証できるインターフェースの開発に成功

このような課題に対し、研究グループは新しいアプローチを採用した。例えば「赤」という色の感じ方そのものを直接調べることは難しいが、「赤」と他の色との類似関係を調べることで、間接的にその人の色の感じ方を理解することができる。具体的には、さまざまな色の組み合わせについて「どのくらい似ているか」を判断してもらい、その判断のパターン全体を分析する。これにより、その人の色の経験の構造(クオリア構造)を明らかにし、その構造が他者と同じであるかを検討することで、ある人のクオリアと別の人のクオリアが対応するのかを検証できる。

さらに、このアプローチ方であれば、色の名前を知らない子どもでも2つの色が似ているか否かを直感的に判断できると考え、タッチパネルを使用したわかりやすいインターフェースを開発し、「とても似ている」から「とても似ていない」までの4段階で評価してもらう課題を作った。これにより、幼児と大人、日本の子どもと中国の子どものクオリア構造が似ているか否かを検証することとした。

色の感じ方、年齢や文化による違いはほとんど無し

研究では、9種類の色(赤、オレンジ、アクアマリン、黄緑、緑、水色、青、紫、ピンク)を用いて、それぞれの色の組み合わせがどのくらい似ているかを4段階(「とても似ている」から「とても似ていない」まで)で評価してもらう実験を行った。なお、研究は「日本の5~12歳の子ども123人と成人55人を対象に、パソコンを使用したオンライン実験」「日本の3~6歳の子ども132人を対象に、スマートフォンを使用したオンライン実験」「中国の6~8歳の子ども30人を対象に、スマートフォンを使用したオンライン実験」「実験環境の影響を確認するため、研究室で日本の3~6歳の子ども41人と成人31人を対象に実施した実験」という4つの実験から構成されている。

分析の結果、年齢や文化による違いはほとんどないことが明らかになった。実験に参加した3歳児から成人まで、また、日本と中国の間で、色の類似性の判断パターンはほぼ同じだった。これは色のクオリア構造が、言語発達や文化的な影響をほとんど受けないことを示している。

年齢が上がるにつれて成人の判断パターンにより近づいていく傾向も明らかに

一方、僅かな年齢による違いも認められた。詳しく分析すると、年齢が上がるにつれて成人の判断パターンにより近づいていく傾向が見られた。ただし、この変化は僅かなものだった。

幼い子どもの意識経験を評価する有効な方法となり得る可能性

また、オンラインと対面実験、性別の違いなどによる影響はほとんど見られなかったことから、実験方法の影響が最小限だったことも判明した。これは、同研究で開発した手法が、さまざまな条件下でも安定して子どもの色の経験を評価できることを示しており、同研究で開発した手法が、幼い子どもの意識経験を評価する有効な方法となり得ることを示している。

従来、子どもがどのように世界を感じているのかを科学的に理解することは困難だったが、同研究で開発された手法は、言語発達が十分でない子どもの主観的な経験を評価する新しい方法であり、子どもの視点に立った子育てや教育支援の開発にも貢献する可能性がある。

子どもの主観的体験や、色の経験の普遍性と文化的な影響への理解につながる発見

今回は9種類の色を用いたが、これは色の世界の一部を見ているに過ぎない。最近の研究では93種類の色を用いた詳細な検討も行われており、このような手法を子どもに適用することで、より詳細な発達的変化や個人差を明らかにできる可能性がある。さらに、最新の数理的手法を用いることで、色の経験の構造的な一致度をより正確に評価することができる。また、今回は日本と中国の子どもで類似した結果が得られたが、これは東アジアの2つの文化間の比較に限られている。より多様な文化的背景を持つ子どもを対象とした研究を行うことで、色の経験の普遍性と文化的な影響をより詳細に理解することができると考えられる。

「子どもがどのような世界を生きているのか、どのように認識し経験しているのかという根源的な問いの解明に貢献することで、発達心理学の新たな地平を切り拓くことを目指している。本研究を通して、子どもの主観的経験への理解を深めることは、教育や子育ての在り方にも重要な示唆を与えるものと考えている」と、研究グループは述べている。

 

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